第24話
竜騎兵の戦い方は主に相棒であるドラゴンの背に乗り、彼らの持つ魔力の波長を合わせることで竜騎兵はドラゴンの持つ膨大な魔力を扱うことができ、それを利用して協力な魔術などを発現させていく。
その他にもドラゴン自体が強靭な肉体を持っており、単体としての制圧力が高くそれは並みの兵士たちでは歯が立たない。
空を羽ばたき、頭上から強力な魔力を撃ち放ち、地上ではドラゴンの強靭な肉体と共に地上を駆け巡る。
戦場の中で空と地上を支配するこの制圧力は圧倒的であり、前に起きた帝国との戦争でも存分に発揮され、その功績は大きい。
またドラゴンの命が尽きてもドラコレイク神殿にある始祖竜の像に魂が戻り、時間は掛かるが新たなドラゴンとして転生され生まれ変わるようになっている。
そのため個体数は増えることはないが、その不死性は人々から崇め称えられ、信仰も厚い。
ドラゴンの体系は転生しようが基本的には変化はしない。
その姿は尻尾まで赤黒い鱗に覆われ、腕には両翼が付いている。
腕を広げれば閉じていた翼が広がり、自分の魔力をここに発現させることで体を浮かせて空へと舞うことができる。
また息吹袋という特殊な器官があり、時にはそこに魔力を込めることで火を吹き放つことも可能だ。
(ラティムの体系は僕らの知っているドラゴンとは全く違う。やはりアレは特殊個体になるのか)
特殊個体は通常の個体とは違う種類に転生したドラゴンであり、その確率は稀である。
言い伝えられているのは聖竜教に選ばれた者がこの個体に巡り合うというのがあり、現在確認されているのは聖なる力を持った白竜グローリーと鋼鉄の体を持つボボンの二匹だけである。
ラティムは正に特殊個体の部類ではあるが、ベリルが注目したのは鱗の色はもちろんだが二本足で立っているということだった。
(体系がほとんど同じのグローリーですら四本足で歩くのにラティムには全くその気配がないな……。じゃあ別の種類になるのか?)
ラティムのドラゴンの種類に悩ませていると、いつの間にか模擬戦の激しさが増していることにベリルは気が付く。
ラティムがアイリスのことを押し始めたのだ。
「グァッ!!」
「――ッ!!」
アイリスの体系は通常の個体とは違い、体と手足は細長いため正面からのぶつかり合いは不得意であった。
故に単純な力比べではラティムの方が分があり、勢いに任せた動きだけでもアイリスにとっては脅威になる。
しかしアイリスの負けず嫌いな性格が表しているのか、ラティムが爪で引っ搔こうと腕を振るう攻撃をギリギリのラインを見極めて素早く回避する。
「フフン……」
「グゥ……」
その胆力はまるでハンデキャップを感じさせないほどであり、余裕を見せてつけるほどであった。
一方ラティムは通常のドラゴンとは違い、二足歩行で立っているためか機動力に難があるようだ。
現に四つ足で地面を掛けて動き回るアイリスにかき回されているようであり、ラティムは彼女の動きを目で追うのがやっとのようであった。
「ッ!!」
アイリスは一度距離を取ると、その身軽さを生かすようにラティムの周囲を軽快に回り始める。
アイリスの行動に対してラティムの体はそれに釣られるように体を動かしてしまう。
まだドラゴンの姿に慣れきっていないのか動き回るアイリスに対してラティムの体はやがてバランスを崩すとぐらりと体を傾かせてしまった。
「!!」
隙が出来た一瞬をアイリスは見逃さない。
アイリスは体勢を立て直させまいと即座にラティムに飛び掛かり、彼の体を地面へと組み伏せた。
ラティムの倒れた体を自分の両手と体重でしっかりと圧し掛かる。
ラティムはそのまま上を見上げると、そこにはアイリスの勝ち誇った顔が目に映った。
自分が上のだということを思い知らせるかのように。
「はいはい! そこまでだよ!」
ベリルがもう一度矢を放ち、空中で弾いた音を鳴り響かせて模擬戦終了の合図を送る。
その音を聞いたアイリスはゆっくりとラティムの体から降りると、自由になったラティムは静かに立ち上がろうとする。
するとその目線の先には心配そうに見るリリーの姿が目に映ったのだった。
――
その様子を見ていたリリーはすぐにラティムの方に駆け寄っていく。
「大丈夫!?」
心配した声で駆け寄るリリーを見て咄嗟にラティムは立ち上がり背を向けた。
彼女に情けない自分の姿を見せたくなかったのだ。
「ラティムはまだドラゴンの体に慣れていないようだね。でもまぁ、その程度なら訓練を続けてたらすぐに慣れると思うし問題はなさそう。それよりもアイリス……少しぐらい手加減したらどうなんだい? 彼はまだこういうのに慣れていないんだから」
「グゥ……」
模擬戦に勝ったことを褒めてくれると思っていたアイリスは逆に手加減できなかったことを咎められ、不満げに顔を膨らませる。
ラティムの方はアイリスに組み伏せられ、しかもリリーにその姿を見せたことがよほど効いたのかその顔に元気はなく、しょんぼりとしていた。
「だ、大丈夫だよラティム! ちゃんと訓練? すればアイリスちゃんに負けませんから!」
「ガァ!」
「わわっ!」
「……ん?」
とりあえずラティムを元気つけようとした言葉にアイリスが反応して"そんなことはない"と抗議の声を鳴くと、その声に思わずびっくりする。
その拍子に思わずラティムの脚に手を触れると、リリーの体からほんのりと青く発光し始めるのをベリルは見逃さなかった。
(あれ? 僕が触れたときは一瞬で力が抜けたような感覚だったけど、リリーは何ともないのか……? やっぱりこの子の持ってる魔力はフレデリック様の言う通り桁違いなのか)
アノマリティーという隠れていた存在に正直ベリルは半信半疑であったが、この現象を見て彼女は本物だというのを理解する。
「実戦経験のあるアイリスに勝てるのは流石にまだ早いね」
「……グゥ」
「でもラティム、もう一度だけやってみないかい?」
「…………」
「大丈夫。次はもっと良くなると思う」
「ラティム……」
「……グァ」
ベリルの言葉にラティムは渋々といった表情で立ち上がろうとした時、ふと重かった自分の体が軽くなっているということに気が付くと、信じられないという表情をする。
まるで先の自分が自分ではないような、それほどの違いに驚きを隠せないラティムを見てベリルは一つの結論に達する。
それはラティムのドラゴン化には彼自身の魔力に依存しているという。
模擬戦を始める前に行った魔力供給においてベリルの魔力量では到底足りないということになる。
つまりいくら大気中の魔気から魔力を吸収しても、足りなければすぐにエネルギー切れになってしまうということであった。
「グアッ!」
「……!」
少し元気になったラティムを見てアイリスが声を掛ける。
その顔には"その様子ならもう一度、戦えるわよね?"という表情をしている。
だがその表情の裏には"次も私が勝つ"という自信も込められている。
そんなアイリスの表情を見て、ラティムは彼女の前に立った。
「よし、それじゃあもう一回かな。リリー、少し離れようか」
少し離れた位置に移動してリリーと一緒に彼らの戦いを見守ることになる。
二匹が睨みあい、空気がヒリついていく中でベリルは弓を構え、空に向かって開始の矢を放った。
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