第15話
間一髪のところでピークコッドの手前でトロルは白い閃光によって串刺しになり、そのまま絶命する。
突き刺した白い閃光はよく見ると純白の大槍の形をしていた。
空中を飛んでいる白いドラゴンの体表は僅かな光で包まれているせいか、夜空ということもあってかなり目立つ。
その白いドラゴンはゆっくりと地表に降りると、その主人は地面へと飛び降りた。
「大丈夫? ケガはしてない?」
「あ、は、はい……大丈夫です……」
白いドラゴンと同じく白い鎧を纏っている女性がリリーたちに近づいていくと唖然とした表情で腰が抜けているピークコッドに手を差し伸べる。
「あなた達も大丈夫?」
「あっ……」
女性はリリーたちにも心配の声を掛けるが、二人は思わず顔を頷くことしかできなかった。
その立ち振る舞いは騎士のような高潔を感じさせ、彼女の目と髪の色は赤く、それは力強さを感じさせていた。
その女性を見てリリーは何か心の鼓動がいつの間にか何故か早くなっていたのだ。
「団長!」
「え、団長……? じゃあこの人が……」
リリーたちの後ろからヴィヴィの声から団長という言葉を聞いてピークコッドが目を丸くしてその女性を見る。
トロルを倒し、役目を終えた白い大槍を手に触れることで光の粒子に変えているこの人物が竜騎兵団のリーダーを務めている者であった。
「マルティナス……初めて見た……」
――
「もう! ホントどこ行ってたのよ! こっちは大変だったんだから!」
「いやまぁ……こっちも色々あってね……」
トロルたちの襲撃を退け、竜騎兵団の拠点は落ち着きを取り戻していき、リリーたちはマルティナスに詰め寄っているヴィヴィを苦笑いしながら見ていた。
「それで、この子たちは?」
「団長がどこかに飛んで行った後、その周辺で探してたらこの子たちがいて、それで僕が保護したんです」
「そうなの? たしかあの周辺に村とかそういうのは地図にはなかったはずよね?」
「ええ。そうなんですけど……」
ベリルの言葉を聞いてマルティナスは何かに引っかかったような表情でリリーたちを見る。
「ちょっと。一体何の話?」
「いや実はね、ベリルたちと一緒に調査するためにこの森の周囲を回ったでしょ? その時に見つかったものがあって……とりあえずここじゃ落ち着かないし、私の部屋まで行こう。君たちもついてきて」
リリーたちはマルティナスの言葉に頷き、拠点内の彼女の部屋まで移動する。
部屋の中は簡素な内装になっており、リリーたち三人分の椅子を用意して座らせてあげた。
「さて……。どこから話をすればいいんだか……。とりあえず君たちの名前や事情を聞かせてもらってもいいかな?」
幼体化したグローリーを抱えベッドに座ったマルティナスがリリーたちにそれを問いかけると、三人はそれぞれ自分の名前と今まで起きた事情を話していくがピークコッドだけは帝国に行こうとしていたのをリリーと同じように人さらいにあったと誤魔化した。
「……なるほどね。リリーちゃんはラティム君と帝国に捕まって……ピー……ピークコッド君に助けられた……と」
「はい……」
「実はね。今の話に出てきた村……。私はそこに迷い込んでいたのよ」
「え?それってどういう……」
「私たちはあの周辺の異常を探るためにここに来たでしょ?それでこの森を見回ったけど、急に近くにいた人が全員消えたのよ」
「でもこちらから見たら団長が急に消えた感じでしたよ?」
「結論から言うとあの付近に結界があったのよ。なんていうか自然とその付近を避けるような、こちらの認識を変えてしまう感じ。いずれにしてもかなり強力なモノね」
「そんなものが……。リリーはそういうの知らなかった?」
たしかに森の外側まで行ってはならないと祖父からの言い聞かせはあったが、そういうのがあったことにリリーは信じられない表情で首を振る。
「いわゆる、隠し村っていうことね。そういうのって大体碌なもんじゃないけど」
「というと?」
「わざわざ辺境な場所に暮らしているなんて逃げ出した罪人とか世捨て人とか、そういう奴らでしょ。でも今回は違うと思う。そんな奴らが"そういう結界"を作り出す頭なんてあるわけないわ」
「じゃあ一体どういう……」
「そんなの答えは一つしかないわね。アノマリティの集まりよ」
「アノマリティ……」
「ちょっと待ってくれよ。話が全然見えないって。アノマリティってなんのことだ?」
聞きなれない単語が出てきたことでピークコッドが混乱した様子でそのことを尋ねる。
「大昔にいたって言われる高度な魔術を扱える魔術師たちのことね。彼らの住処ならあの強力な結界も納得できる」
「でもそんな人、今まで聞いたことないぞ」
「それは仕方ないわよ。アノマリティは迫害されてからね」
「え……」
「アノマリティはたしかに高度な魔術を持っていた。けれどそれがあまりも高すぎだのよ。彼ら以外誰も解明できないほど強力な魔術。人々はそんな彼らを恐れ、住処を追いやったのは事実よ」
「そんな……」
「私が迷い込んだ先にはそういう結界の痕跡があったわ。かなり不安定な状態だったわね。だから入れたのかもしれないけど……」
「あ、あの!!」
マルティナスの話をリリーは思わず声で遮ると裾を手でギュっと握りながら口を開いた。
「わたしの……おじいちゃんや村の人は……どうなっちゃったんですか……?」
不安な表情でいっぱいになるリリーはマルティナスの話を遮ってでもこのことを聞きたかったのだ。
「……。誰もいなかったわよ」
「……え?」
「正確にはリリーちゃんの言う村はたしかにそこにはあった。でも誰もそこにいなかったのよ。状況からみて恐らくだけど帝国兵に連れ去られた可能性が……」
「そんな……」
リリーは思わず体がぐらりと傾き倒れそうになるのを隣いたラティムが支えて、それを防ぐ。
「ということは団長、帝国はこちらに侵入してリリーの、アノマリティの村を襲ったっていうことですか?」
「いや、それも違うと思う。帝国の目的はもっと別のものだ」
「それってもしかして……」
「ああ」
そういうとマルティナスはその目的に指で示す。
その先にはリリーを支えているラティムの姿がそこにはあった。
「おいおい。おいおいおい。それじゃあリリーの村を襲ってきた帝国兵ってラティムのせいって言うのかよ?」
「……っ!」
マルティナスの言葉を聞いてピークコッドがそれに対して思わず抗議する。
「……それについては私たちがここに来た理由を話さなきゃいけないわ。私たちがここにいるのは別にあのトロルの調査ではないのよ」
「…………」
「ここにいる本当の目的はね。最近この国境付近の魔染状態がかなり悪化しているという情報があってね。その原因は紫色のドラゴンがこの周辺に出現して暴れまわっているということなの」
「紫色の……ドラゴン……」
「そのドラゴンは全身からとてつもない量の魔気をまき散らしていてね。周囲に膨大な魔力がばら撒かれ、その影響で魔染の被害を生み出していたの。私たちはその討伐するためにここに送られてきた。そして戦ったわ」
「…………」
「そいつは周囲の魔力を吸収する力を持っていてね。通常の魔術じゃ効果は薄かった。それでも戦って、なんとかそのドラゴンに決定打を与えたと思った時にそいつの体から大量の魔気をまき散らしてた。あまりにも濃すぎて紫の霧みたいになってたわ。そのせいで逃げられてしまったのよね。それを追っていったら、リリーちゃんの村に迷い込んだっていう感じね。そして君たちの話を聞く限り、そのドラゴンの特徴をこの子は持っている」
「そんな……じゃあ……ラティムは……」
「…………」
「でも一つ疑問が残るわね。なんでコイツがわざわざ人の姿になっているかもわからないし、それに記憶がないんでしょ?」
「そう。だからこの子が私が戦ったあのドラゴンと同じだとは思えないのよね。記憶がないのも何か理由があるはず。それがもしかしたら村の人たちを助けられるきっかけになるかもしれないわ」
「本当ですか……?」
「ええ。まずはエリウムに戻ってフレデリック様にこのこと話すのが先ね。彼ならラティムについて何か知っているかも。でも今日はもう遅いわ。ここを出発するのは明日にするべきね」
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