第11話
「こんなところに子供……? アイリス、このまま降りてくれ」
「グァ!」
アイリスという名の赤いドラゴンに乗った青年は地上にいるリリーたちを見つつその近くへと降りていく。
アイリスと呼ばれたドラゴンは全身が赤い鱗で包まれており、首から胴体まで細長く、四本の脚で地上へと降りていく。
その姿はラティムのドラゴンが全身が力強さを感じさせるような強靭な肉体であり、それを支える二本足で立ち上がるその格好はまさに猛々しい。
それに比べるとこのアイリスの全身が細長い華奢なフォルムではあるが、それのおかげかアイリスの風貌に優雅さを感じさせていた。
「あの紋章とドラゴンってもしかして竜騎兵団……!? た、助かった~」
「わわわっ!」
「……っ!」
ピークコッドが青年の胸についていたエンブレムを見て彼が竜騎兵団の一員だと知るとリリーの腕の中で力が抜けていく。
ふにゃふにゃになったピークコッドをリリーとラティムで必死に支えていると青年がアイリスから降りてリリーたちのほうへと駆け足で近づいて彼女たちの代わりにピークコッドを支えてあげた。
「よっと……。危ない危ない。まさかこんなところで迷子がいるなんてね。君たちも大丈夫かい?」
「あ、えっと……はい。大丈夫です」
「それはよかった。おっと、自己紹介がまだだったね。僕は竜騎兵団のベリルだ。ところで君たちこんなところになんでいるんだ? 倒れている彼、もの凄く疲れているけど……」
「わ、私リリーっていいます。それでこっちがラティム、あっちのはピーコっていいます」
「ピーコ? 変わった名だね……」
「俺の名は……ピークコッドだ……」
「ん? ああ、ごめんごめん。とにかく、ここにいてもしょうがないし、近くに僕らの拠点があるからまずはそこに行こうか。アイリス!」
「グア!」
ベリルがアイリスを呼ぶと鳴き声で返事を行い、疲れているピークコッドを先に乗せ、リリーを担ぎ上げて彼女の背中に乗せている時、アイリスはラティムの方をジッと見た。
「…………」
「…………?」
目を細めジっと睨みつけてくるアイリスにラティムもなぜ自分が睨まれているのかわからないという顔をして戸惑っていると、唐突にアイリスは鼻先でラティムの額を小突いた。
「……!」
「ラティム!?」
「え、なに?」
小突かれたラティムは驚いた表情でアイリスを見つつ、額を手で覆った。
「こらアイリス! ……君たちすまない。この子はちょっと気難しいんだ。ちゃんと言い聞かせるから安心してね」
「は、はい」
「アイリス、一体どうしたんだ? 何かあったのかい?」
「グァ……」
「……え? この子が自分と似たような匂いがする……? でもこの子は……。ともかく今は彼らを保護しなきゃいけないんだから、ちゃんと言う事聞いて」
「グルル……」
「ごめんねラティム君。もう大丈夫だから」
ベリルの説得に応じたのかアイリスは自分の中で折り合いをつけたようで渋々ラティムを背中に乗せる。
ベリルは全員が背中に乗ったのを確認するとアイリスに合図を送る。
アイリスはその合図と共に翼を大きく羽ばたかせると夕暮れ色の空へと向かって飛翔した。
「わぁ……」
アイリスの背中からリリーは空の景色を見て思わず声が漏れる。
夕焼けに染まる暖かい色が広がる空をこんな形で見るのは初めての経験だった。
飛んでいる高さはそこまで上げておらず、下を見れば広がる森が夕焼けによってやや暗い雰囲気を出し始めていたが、それがこの空の色彩をより鮮明にさせていた。
初めて見るこの幻想的な景色をリリーとラティムは見ながら竜騎兵団の仮拠点へと向かっていく。
しばらく飛んでいくと、少し遠い距離に他の竜騎兵団がドラゴンに乗って自分たちと同じ方向へと向かっているのが見えた。
それらは皆同じ場所に向かっており、やがて竜騎兵団が集まる拠点へと辿り着くと、アイリスからゆっくりと降り立ってリリーたちを下ろした。
「す、すげぇ……ドラゴンがこんなたくさん見たの初めてだ……!」
その拠点内には他の竜騎兵団も多く、相方のドラゴンと共に過ごしている様子を見て疲れ果てていたピークコッドもその光景を見て興奮しているようだった。
「ここまでくれば大丈夫だよ。はいこれ水ね」
「あ、ありがとうございます」
ベリルが三人分の水の入った容器をリリーたちに手渡すと、三人はそれぞれ勢いよく口につけた。
口に含んだ水は程よく冷たく、喉を鳴らしながらゴクゴクと飲む度に全身に水分が染み渡っていく感覚で震える。
ぷはーっとあっという間に水を飲み終えたリリーはふとベリルの方を見ると、彼の後ろに小さな赤いドラゴンがパタパタと飛んでいるのに気が付いた。
「あれ? あの子……だよね? なんか小さくなってます!」
「ああ、アイリスの事かい? これは幼体化といってね、この子たちは体力温存のために小さくなれるんだよ。ほら、可愛いでしょ?」
「グァ!」
「わぁ……」
パタパタと小さな羽を動かしてアイリスはリリーの近くへと飛んでくるのを見て、彼女の頭を撫でてあげる。
触った感触は鱗でツルツルとしており、そのまま頬、顎下へと指を動かしていくとアイリスも気持ちよさそうに目を瞑ってされるがままになっていく。
「おお~。あのアイリスがこんなになつくなんて珍しい。それに撫で方も結構うまいね」
「えへへ」
「グゥ……」
リリーは村の森にいたモンスターたちと同じような撫で方でアイリスをマッサージするかのように触っていく。
それを隣で静かに見たラティムは好奇心を刺激されたのかウズウズとしだすと、ゆっくりとアイリスに向かって手を伸ばしていった。
「…………。……ッ!! ガウッ!!」
「……っっ!!!」
気配を察したのかアイリスは瞑っていた目を開くと、そこにはラティムの手が触れそうだったのを見て思い切り口を開けて威嚇し睨みつける。
危うく嚙まれそうになったラティムは咄嗟に手を引くと、そのままリリーの後ろへと隠れてしまった。
「ラ、ラティム?」
「お前……あの子になんかしたのか?」
「……」
「あちゃ~……。こっちの子は全然ダメだね……」
ベリルはアイリスのこの気性の荒さに思わず困ったような顔をしていたが当の本人は気にすることもなく撫でられたことに満足したのかリリーから離れると、そのままベリルの肩に戻っていった
「あのさアイリス、何もそこまでしなくても……」
「……フン!」
「なんていうか……ドラゴンって結構すごいもんって聞かされてたけど、意外と気が荒いのもいるんだな。……ふわぁ……なんか、急に眠気が……」
「大丈夫かい? とりあえず僕たちが使っている休憩所で一旦休んだほうがいいね。僕はこのことを報告しなきゃいけないから、しばらくそこで横になるといいよ」
「ありがとうございます……。ふわぁ……」
リリーたちはベリルについていき休憩所まで案内されると、ベリルは何かあったら他の人を呼んでくれと言ってこの場を去っていく。
休憩所の中はまだ誰もおらず、ベッドを一旦借りることにしピークコッドは横になると疲労のせいかすぐに寝息を立てて眠ってしまった。
リリーも体を横にすると、近くにラティムが寄ってくる。
横になった瞬間、体が石のような重さを感じると途端に眠気がわき上がってくる。
二人は体が軽く触れる程度の距離に近づくと、互いの体温がほのかに感じる。
その暖かさは少し緊張気味だった心を静めていくのを感じると、二人の瞼は閉じていったのだった。
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