長谷川祐樹4
軽音楽部、通称軽音の仮入部はスムーズに進んでいった。
初めの十分くらいで説明をして、そのあとは好きな楽器のところに行って質問や見学、体験をする時間となった。
軽音の仮入部は予想通り人気があり初日から十人以上の人が来ていたが、先輩の数を見る限り、実際に入る人は少ないのだろう。
仮入部に来ていた新入生たちが楽器を迷っている中で、大翔は真っ先にキーボードへと向かっていた。
俺は慌ててついていきながら、直感で大翔は結構本気なのだと感じた。
それと同時に、大翔が軽音に入るのであれば、自分もそうなるのだろうな、と人ごとのように思った。
仮入部に来た人が見学できるのは、ギター、ドラム、キーボード、ベースの四つだった。
本当はこれに加えてボーカルもいるそうだが、ボーカルは教えることがほとんどないから、という理由で仮入部では見学などはないのだと言っていた。
しばらくして、その日仮入部に来ていた全ての新入生が楽器のところに移動した。
結局、キーボードに来たのは俺ら二人だけで、ギターとドラムに人が集まっているようだった。
大翔は、俺らだけと知ってどこか嬉しそうだったので、大翔は案外人見知りなのかもしれない。
もちろん、思うだけで声や態度に出したりはしないが。
俺たちがキーボードを担当している先輩のところに集まってから少しすると、先輩は説明を始めた。
先輩の、
「笹塚です。よろしくね」
という声に合わせて、俺たちも軽く自己紹介をして、それから実際に演奏を聴かせてもらった。
笹塚先輩のキーボードの音は優しく、でもしっかりしていて、先輩の見た目と同じ雰囲気を漂わせていた。
一通り演奏が終わると、言葉での説明が始まり、俺は理解しようとしたが、だんだん興味が逸れていって、結局意味が分からなくなってしまった。
決して理解できないことではなかったが、俺の意思で来たわけではないのだから仕方がない。
それに言葉での説明を聞くのは苦手だ。
ふと横を見ると、大翔は理解しているようで、楽しそうに説明を聞いていた。
その横顔は俺が今まで見たことがないくらい生き生きとしていて、大翔の思いが感覚として伝わってくるような気がした。
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