相川大翔3


それからのことはほとんど覚えていなかった。



気が付くと演奏は終わっていて、どうやって家に帰ったのかもよくわからない。



ただ、頭の中に音が鳴り響くあの感覚だけは、いつまでも薄れることなく、家に帰ってからも鮮明に記憶の中に残っていた。



夜になってやっと、少し気持ちが落ち着いてきた。



感動、した。



俺はずっと、初めて動画で曲を聴いた時から、この感情の名前を探していた。



今まで感じたことがないほどに大きくて重く、心が埋め尽くされていくこの感覚。



それを表すには、たった二文字のこの言葉がぴったりだった。



俺が何かに感動しているなんて、初めは認めたくなかった。

今まで俺は何にも興味がなく、ただ適当に過ごしていただけだったから。



こんな感覚は人生で初めてだ。



もしこの感覚を認めてしまったら、今まで作り上げてきた何かが失われてしまうような気がする。



この感覚が、あのよく聞く、二文字の薄っぺらい言葉で表されていいものか。



でも、ライブを見て、生であの演奏を聴いて、俺はこの感覚の表し方ををこれ以外に知らなかった。

思い知らされた、というほうが正しいだろうか。



でも、うれしい気持ちも大きかった。

名前を知ったことで、この感覚が自分のものになった気がした。



言葉があれば、いつでもこの感覚を自分の中に呼び戻せる気がする。



たった二文字のこの感情は、俺にとって何にも代えがたい、大切な感情だった。



何かにこれほど心を支配されたのは、これが初めてだ。



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