第56話

 洞窟の奥から足音がしてくる。


「ゴブリンだ!!!」


 ミザリーが戦斧を構えた。

 ゴブリン、最弱モンスターと言われている。

 だが熟練の戦士でも死ぬときは死ぬ。

 そりゃ攻撃が急所に当たったら死ぬよねって話だ。

 最弱でも手は抜かない。


「うおおおおおおおおおおお!」


 ミザリーが突っ込んでいく。

 絶対戦士の方が向いてると思う。

 俺は弓を構える。

 魔法と弓でサポートにまわる。

 ラクエルもサポートだ。

 というかラクエルが戦闘に参加するとダンジョンが壊れる。

 俺は弓を発射する。

 牽制だ。当たらなくてもいい。

 と思ったら先頭のゴブリンの額に命中。

 狙わない方が当たるな。

 あ、そうか。

 神殿騎士の訓練はこれを狙ったものか。


「リック! 矢をばら撒け!!!」


 ヒース兄ちゃんの指示が飛ぶ。

 俺は素早く矢を射った。

 ダンジョンの奥から次から次へとゴブリンがやってくる。

 棍棒片手に同胞の屍を乗りこえ突撃してくる。

 シーフたちは死を恐れぬその姿に不気味さを感じた。

 ミザリーが到着し、斧がゴブリンを一刀両断した。

 他のシーフも剣や槍でゴブリンを攻撃していく。

 俺は中距離まで近づいて矢で支援。

 矢に風と火の属性をつけて発射。

 ゴブリンの密集したところに矢が落ちる。

 次の瞬間、爆発が起こった。


「ぐぎゃああああああああッ!!!」


 悲鳴とともに何体ものゴブリンが吹っ飛んだ。

 だけどゴブリンは止まらない。

 盾持ちの騎士に押し返してもらえばいいのだが今はいない。

 後衛専門のシーフたちも矢を射つ。

 矢を何本もいるが手持ちが少なくなっていく。

 しかたない。

 今度は魔法で作った矢にする。

 マジックアローだ。

 多少威力が下がって矢を作り出すたびに疲労がたまっていくがしかたない。

 さらに矢を射っていく。

 数十体は倒しただろうか。

 さすがに多すぎる。

 矢を作るのも疲れてきた。


「やるか」


 俺は聖剣を抜く。

 そのまま気配を消して音を立てずにゴブリンに近づく。

 俺はゴブリンの脇を切り上げる。

 次のゴブリンは心臓を突き刺す。

 さらに次は腎臓を一突き。


「嘘……すべて急所を一撃で……リックってこんなに強かったの!?」


 ミザリーが驚いてる。

 違うんだな~。

 カール兄ちゃんみたいに胴体一刀両断とかできないだけなんだわ。

 腕力が足りないから急所狙い。

 首を斬りつけ、足の内側を斬り、喉を突き刺す。


「あ、暗殺向きすぎる……」


 ミザリーさん。

 事実を指摘するのやめてもらいますか?

 お願いだから。

 それ言葉の暴力だから!!!

 さらに10体ほど倒すとゴブリンの増援がなくなった。

 ふう、終わった。


「怪我人を運び出せ」


 ヒース兄ちゃんが怪我人を下がらせる。


「リック、お前……剣得意だったのな」


「腕力が足りないから苦手」


 筋肉がどうしても足りない。

 王様みたいになりたいとは思わないけど、少しは筋肉ついてほしい。

 技術頼りだとカール兄ちゃんクラスには刃が立たない。

 どうしても腕力が必要なのだ。

 あと腕力さえあれば棍ももうちょっと上を目指せる。

 年齢の縛りきつい。


「どういう基準だよ……」


「魔法の方がまだ公平ってこと」


 魔法ならここまで苦労しない。


「どこがだよ! 勉強とか苦痛の極みだぞ!」


 そういうヒース兄ちゃんだって神聖魔法の使い手だ。

 治療もできる。


「なんだよその顔。俺はいいんだよ! もともと神官なんだからよ!」


 そもそもだ。

 魔法を自由にぶっ放せないダンジョンが悪いような気がする。


「ま、いいや。ガス検出隊を下がらせろ! 敵性生物がいた! 毒ガスはない!」


 ヒース兄ちゃんが指示を出した。

 実はダンジョンで一番恐ろしいのは環境だ。

 毒ガスだったり低酸素だったり。

 入っただけで死ぬトラップだ。

 そうじゃなくても地下水なんて一定の温度より低ければ死の罠だ。

 すぐに動けなくなる。

 空気を確保する魔法は簡単だけど、水の中で体温を一定に保つ魔法は難しい。

 火が水属性と相性が悪いからだ。

 それと火魔法で血液を温めてもいいかという問題もある。

 加減間違えたら一発で死ぬ。

 かと言って肉体強化で全身を小刻みに動かすのにも限界がある。

 で、今回はゴブリンがいたから酸素の問題はない。

 ゴブリンはトラップを仕掛けられるほど賢くない。

 だから今回は小鳥の出番は終了。

 人数を減らして出撃。


「こんだけ殺したんだ。もうゴブリンも少ないだろ」


 数十体も殺したのだ。

 迷宮が広大でも、これ以上のゴブリンを養えるほど食料がとれるとは思えない。

 生物から読み解くダンジョン攻略終わりっと。

 ダンジョンを進んでいくと下への階段があった。

 ここまでミミックなし。

 大事なことだからもう一度。

 ミミックがいやがらない。

 さらにダンジョンを潜る。


「リック、斥候を頼んでいいか?」


 ヒース兄ちゃんが真面目な顔で言った。


「俺でいいの?」


「俺の知ってる中じゃお前が一番腕がいい」


 さすがに人数が減ったのだろう。

 俺が斥候役になった。

 気配を消して様子を見る。

 自然の洞窟風ダンジョンを歩いて行くと豚みたいな顔の怪物がいた。

 オークだ。

 オークとゴブリンが共存してるだと?

 と思ったら納得。

 ゴブリンは食料にされてるようだ。

 ダメ元で鍋の中に即効性の毒を入れておく。

 毒を入れたら戻る。

 ヒース兄ちゃんに報告。


「オークがいた。ゴブリンを食料にしてた。たぶんゴブリンもオークを食料にしてる」


「……なんだその地獄は」


 どっちも食料で、オークを食べたゴブリンはもの凄い勢いで増える。

 だからゴブリンを食料にして……無限に増えるな。

 ダンジョンの草とかの限界があるだろうけど。


「そういう呪いがあるって聞いたことがある」


 ミザリーの発言に俺は嫌な予感がする。


「ラクエル、なにか知ってる?」


「うーん、リッチがいるかも。アンデッドでも魔法特化型は死者が増えれば増えるほど強くなる傾向があるから」


「はい終了!!! みんな撤退するぞ!!!」


 ヒース兄ちゃんが撤退命令を下した。

 ですよねー!!!

 リッチとか強いですもんねー!!!

 あ、学生ここは入れないわ。

 予想してたよりも難易度高いもんね。

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