第55話

 もちろん言いつけた。

 王様含めて偉い人中心に。

 学生がダンジョン探索を目論んでるって。

 そりゃ中途半端に偉いところの子弟子女。

 VIP中のVIP、王族の親戚である侯爵以上はほぼいない……王の娘のアンちゃんくらいか?

 あと次期聖女のシェリルが侯爵令嬢相当か?

 だけどカーラの実家である伯爵家や子爵男爵はそこそこいる。

 つまりどういうことかと言えば、国が制御するのが難しい階級の人たちだ。

 しかもそこそこ偉い。

 その子弟が正当な授業でもなく怪我でもしたら、同格くらいの貴族が責任を取らねばならない。

 ……あ、責任取らされるのうちか。

 というわけで男子生徒の大半が捕まって領主の館に閉じ込められていた。


「ずるいぞリック!!!」


 ギルバートはまだ言ってる。


「うっさい! お前らが無茶したらうちが責任取らされるだろが!!!」


 アホどもが!

 そのまま俺は探索班に合流する。

 革鎧の上に黒いフード付きマント。

 シーフの正装だ。

 ラクエルはいつもの通り。

 ミザリーは少しかわいいデザインの黒フードだ。


「なんだそのフリル?」


 ゴブリンに引っ張られそう。


「服については何も言うな。ボクにかわいい服を着せたい連中がいるんだ。無理矢理」


 ミザリーの顔は真っ赤になっていた。

 ぷるぷる震えてる。

 殺されそうな気がしたので、服にはツッコミを入れない。

 だけどラクエルは空気など読まない。


「その服かわいいね!」


「かわッ!!!」


 ぷしゅーっと音が聞こえそうなほどミザリーの顔が真っ赤になる。

 恥ずかしいようだ。

 何人もの騎士が巨大な門を押す。

 門が音を立てて開いていく。


「シーフ隊! 出陣!!!」


 ヒース兄ちゃんのかけ声とともに俺たちは駆け足でダンジョンに入る。

 陣形を維持する騎士ほど厳格な速度じゃないけど、みんな隊列を崩さずダンジョンへ到達した。


「第一班は周辺警備! リック隊はキャンプ設置、完成したら騎士隊に引き渡せ!」


 ヒース兄ちゃんが指示を飛ばす。

 俺とシェリル、それにラクエルはキャンプを設置する。

 この中で建築が一番得意なのが俺だからだ。

 今回の編成は機動力重視。

 ダンジョンの探索をするのはシーフだけだ。

 シーフだけならなにかあっても逃げられる。

 騎士や魔道士はキャンプより先に行かない。

 キャンプを防衛するのが今回の仕事だ。

 まず俺は土魔法でキャンプのゲートを作る。

 強度は最大。

 ラクエルのブレスも一、二発くらいは耐えられるものだ。

 さらにゲートの外、ダンジョンとゲートの境目にラクエルのウロコを細かくした物を撒いておく。

 ドラゴンのにおいでモンスターを寄せ付けない効果を狙ってる。

 さらにキャンプの設置。

 テントは嫌と言われたので小屋をいくつか作る。

 いざとなったら立てこもりも可能なようにしておく。

 街の下水道に繋いで衛生状態も万全。

 倉庫も作る。

 これで完了。騎士団に引き渡す。

 資料はなしなので芸術的価値ゼロ。

 実質砦だしこれでいいよね。


「完璧の上を行く出来だな……」


 キャンプの設営やってたカール兄ちゃんに褒められた。

 そしたら今使わない荷物を置いて探索。

 遭難したときのために食料と水は多めに。

 なるべく重くならないように食料は乾物。

 荷物を入れたバックパックを背負うとヒース兄ちゃんが説明をはじめる。


「まずは水源の確保を優先する」


 水源というのは地下水脈かスライムとかの水分を摂取できるモンスターが出現する狩り場を確保するという意味だ。

 実はかなり危険な仕事だ。

 地下水脈なら溺死の可能性は常につきまとう。

 地下水脈の温度が低すぎて、あっと言う間に体温が行動不能なほど下がるのだ。

 安全ルートが開拓されてないダンジョンだと崩落も恐ろしい。

 生き埋めだけは避けたい。

 スライム狩りは他のモンスターとの戦いを避けられない。

 ゴブリン程度でも死ぬときは死ぬ。

 どんな敵であろうとも戦闘に絶対はない。

 シーフたちがダンジョンを進んでいく。

 攻撃力過剰の俺とラクエル、それにミザリーは後衛だ。

 現場指揮官のヒース兄ちゃんも後ろだ。


「一応言っておくが、ブレス使うなよ。特にラクエル」


「はーい♪」


 返事だけはいい。

 ラクエルは元気いっぱいだ。


「あと能力が暗殺に全振りのミザリー。斧は振るなよ」


 ヒース兄ちゃんがそう言うと、ミザリーは腰の曲刀、たぶんシャムシールを抜いて見せる。


「今日はこれ」


「いい判断だ。リックは弓な。ダンジョンが崩落するから魔法は使うな」


 問題は矢を当てられるかなんだよな。

 まだ当てる技術は習ってない。


「何言ってんだ。神殿騎士の弓を習ってるんだ。当てられるだろ」


 神殿騎士に対する期待が凄まじい。


「もうね!」


 俺は弦を引く。

 そのまま脱力してぐるんと身体を反る。

 そのまま身体を反ったまま自分の真上に矢を放つ。

 矢はなにものかに命中、そのまま刺さったまま落ちてきた。


「オオムカデか……毒があって危険だな」


 兄ちゃんが剣で突き刺してトドメ。

 虫型のモンスターは殺したと思ってもまだ動くから厄介だ。


「見つけたから射った」


 それを聞いたシーフたちが驚いてた。


「嘘だろ……」


「ヒースの教え子半端ねえ……化け物かよ」


「あの体勢で当てられるのか……さすが神殿騎士の弓……」


 過剰である。

 俺、調子にのっちゃうよ。


「実際凄いんだよ」


 とヒース兄ちゃんに言われたが、まだピンとこない。

 威力、精度ともに最高のドラゴンブレスの方が強いからなあ……。

 すると先頭にいたシーフが声を上げた。


「これより前方! ガスの反応なし!」


 シーフは小鳥を持っていた。

 古くから伝わる技術だ。

 これを使ってもたまに死ぬ。

 危機回避能力、直感に長けたシーフにしかできない大切なポジションだ。

 前方に追いつくと下への階段があった。


「安全です!」


【安全】というのは【即死しない】って程度の意味だ。


「一応、マスクつけとけ」


 マスクをつける。

 風魔法でガスの入ってない空気を吸えるものだ。

 これを使っても死ぬときは死ぬのだが。

 下に降りると柵を設置する。

 安全地帯の設置だ。

 シーフはみんなマスクをつけていた。


「ボク、マスク嫌い」


【みんな嫌いだと思うよ】ってミザリーにわざわざ言うのもなあ。

 友だちの天然ボケに少しだけほっこりしたそのときだった。


「リック、モンスターに囲まれてる」


 通路の奥から殺気が漏れてきた。

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