第53話

 今度は王様が到着した。

 前はラムシュタイン伯爵閣下のすんげえパフォーマンスに度肝を抜かれた。

 だが王様の方はやりすぎだ。

 正直引く。

 それはアホみたいだった。

 薔薇の花を馬車の周りに撒いて出てきたラムシュタイン伯爵。

 だが王様はかなり前から薔薇を撒きながらやって来た。

 御輿に乗って。

 何人ものやたらガタイのいい騎士が御輿を担いでいた。

 金の御輿。

 重量から考えて金箔、薄い金を貼ってるか、金を入れた塗料で塗っているのだろう。

 もしかすると金と貝殻の内側の真珠層を細かくしたものを混ぜたのかもしれない。

 やたらキラキラ光ってる。

 悪趣味の極み。

 しかも王様は御輿の上でふんぞり返っている。

 悪役にしか見えない。

 いや伯爵の上を行くパフォーマンスなんだろうけど。

 うちの街に着くと近衛騎士が王国騎士団の礼拝の型を披露しはじめる。

 なお事前許可、せめて事前通告すら取ってない。

 王様そういうとこやぞ!!!

 後ろでは荷馬車が渋滞を起こしていた。

 なぜ伯爵閣下は上品で人に迷惑をかけなかったのに、王様はやりたい放題なのか?

 イラッとしながら父さん母さん、それにラクエルと御輿の前で膝をつく。


「出迎えご苦労であった! 兄弟よ!!!」


 偉そうである。

 殴りたい。拳で。

 あ、でもユーシス兄ちゃんが言ってたな。

 権力者が下のものに不快な思いをさせるときは官僚が腐ってる証拠だって。

 普通は不快な思いをさせないようにマニュアルや手順を徹底するはずだ。

 マニュアルがなかったり手順が徹底されなかったり、王様がやりたい放題したり、そのフォローができなかったり。

 イレギュラーに対するフォローを官僚ができてない時点で組織の方の問題となるわけだ。

 王様が本当にゴミであってもだ。

 この場合、止められない方が悪い。

 これは厳しい見方だ。

 それとは違う視点で考える。

 内部でうちの扱いが変わったとか。

 中央でうちが本当に王の親戚扱いされてる可能性……やめよう。

 たぶん高い可能性でそれだ。

 少しはっちゃけてもいい場所だと思われてるな、うちの領地。

 俺があきれていると王様が口角とヒゲを上げる。

 うぜえなそのドヤ顔。


「どうしたリックゥッ!!! 【おじさん久しぶり! よく来たね!!!】と言わぬか!!!」


 殴りてえ。


「国王陛下。よくぞお越しくださいました」


「もっとなれなれしく!!!」


「ラクエル頼んだ」


「おじさん久しぶり♪ ゆっくりしてね♪」


「ラクエルは可愛いのう!!! クソガキと違って!!!」


 王様がポージングする。

 暑苦しい筋肉だ。

 俺がそろそろ本当に殴ろうかと悩んだそのときだった。


「お父様。リックくんいじめちゃダメですよ」


 アンちゃん!!!

 助けがやって来た。


「アン! ダディが来たよ!!!」


 その暑苦しいツラでダディかよ!

 暑苦しい筋肉が抱きつこうとするが、アンちゃんはさっと避ける。

 最小限の動きで避けた!


「お父様。マクレガー卿も困ってます。いいかげんにしないとお母様に言いつけますよ」


「ガッデム!!!」


 ここまで茶番。

 だって挨拶しに来たラムシュタイン閣下までどん引きしてるもの。


「うむ冗談だ。マクレガー卿。あとでダンジョンの件、報告を頼む。ラムシュタイン卿! 今回の件の指揮よろしく頼む!」


「はッ!」


 最後に強引にすべてをなかったことにしやがった。

 で、貴賓用の集会所や宿として突貫工事で作った迎賓館に案内する。

 すると王様に手招きされる。

 仕方ねえなと近くに寄ると小声で話しかけられる。


「リック、この間この館はなかったようだが……」


「突貫工事で作りました」


 なお住民はすでに考えるのをやめた。

 古都という設定はどこに行ったのか。

 もうどうにでもなれ。


「だから300年前の様式と100年前の様式がごちゃごちゃになってるのか?」


「直します? 詳しい資料があれば建て直しますけど」


 突貫工事で作ったので愛着はない。

 時代考証を担当してくれる人がいればそれに従う。

 本があっても体系的に頭に入ってるわけじゃないしね。


「いや、これはこれで芸術的だ。残そう」


「いいんですか?」


「ああ、ところでこのデザインを担当したのは?」


「ラクエルですけど」


「今度、お前とラクエルに仕事を頼もうと思う」


「どういうことです?」


「お前らは優秀だって話だ。この建築、気に入ったぞ」


 褒められてしまった。


「強度はどうなってる?」


「計算上は60階建ても可能です」


 積み上げた感じだといけそうな気がするけど、あくまで計算上ね。

 王様が「ほうっ」と感心した声を出す。

 なんだ?

 やたら気に入ってないか?


「図面はあるか?」


 そう言われると思って図面は持ってきた。

 バッグから出して王様に渡す。


「うむ、褒めてつかわす」


 なんだろう?

 やたら機嫌がいい。


「中の家具もすごいですよ」


 すべてジェイクの実家に頼んだ。

 死ぬほど忙しくなったらしいが儲かったとのことだ。

 迎賓館の中に王様を案内すると呼び止められる。


「リック、まずはお前が説明しろ」


 えー、面倒だなあ。


「えっと、まずはミミックからの情報でダンジョンが移動してきたと……」


「ぶーッ!!!」


 え? なに?


「ミミックに伝手があるのか?」


 ほぼ家族ですが?


「そ、それで……」


「この街の地下にダンジョンが来ましたね」


「い、入り口は?」


「数日中に出現するかと」


「そ、それで、【ほぼドラゴン】はどうするつもりだ?」


「学校の生徒がやる気を出してるのでサポート役に回って怪我人出ないようにしたいなと」


「怪我……? 普通死ぬだろ?」


 珍しく王様と意見が一致した。


「でも今のままだと禁止しても強引に入りますよ。あいつら。優秀ですし。冒険者煽って暴動起こしてその間に……とか」


「うわ……わかった。警備の増援を要請する」


 ギルバートあたりが暴走しないことを祈る。


「ところで……リック、お前、本当に婿に来ないか?」


「だから俺にはラクエルがいるでしょ!」


 もうね、悩みを増やさないでほしい。

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