第52話

 まず最初にやって来たのは神殿騎士団だった。

 丁重に出迎え感謝の言葉を伝える。

 神殿の宿舎に滞在。

 大きく作ってよかった。

 次にミザリーの一族。

 なぜかこちらは出迎えたら「身内みたいなものですからのう」と頭領が謎の言葉を発した。

 とりあえず予備の宿舎に滞在してもらう。

 遅れて来たのが王様と王国騎士団だった。

 彼らは軽装。

 身内枠だからだろう。

 丁重に出迎える。

 王様はあとから来るみたい。

 彼らも予備の宿舎に滞在してもらう。

 なお予備とは言ったが内装は趣味全開で作った。

 快適かつ芸術的。

 もてなしとしては合格点以上だと思う。

 さらにどこから聞きつけて来たのか冒険者たちがわらわらやってくる。

 こっちは街の宿に適当に。

 街では広い家を利用して民宿をやっている家がかなりある。

 宿の数は問題ないだろう。たぶん。

 治安だけ問題になりそうな気がする。

 そして冒険者をかき分けてやって来たのはラムシュタイン家の騎士団だ。

 こっちは「困ってるマクレガー家を支援してやってる」感を出すためにフル装備。

 街の近くでわざわざ馬車から降りて笛と太鼓で音を鳴らしながら行進する。

 ここまでされたら俺たちの方も出迎えなければならない。

 父さんに母さん、それに俺とラクエルで出迎える。

 太鼓の合図で全体止まれ。

 一糸乱れぬ姿に圧倒される。

 ぶおおおおおおおんっと角笛を鳴らす。

 さらに止まってもなお笛と太鼓はマーチの演奏を続ける。

 すっげえ、練度の高い軍隊ってこうなるのか。

 行進だけで圧倒された。

 身内扱いの王国騎士団だと見せてくれない一面である。


「うちではまだこの領域には到達できんな」


 用兵のレベルが違いすぎる。

 うちじゃ楽団を用意するのは無理だ。

 金額もそうだが楽団を養成するノウハウがない。

 いやうちだって子爵のときは圧倒的に兵の練度高かったはずだ。

 だがこれが上級貴族の世界……。

 すっげー……。

 演奏が終わると背筋を立てた騎士が声を張り上げる。


「ラムシュタイン伯爵閣下おなーりー!!!」


 薔薇の花びらを撒いてからカーペットが敷かれる。

 侍従が馬車の扉を開くと金髪の男性が出てきた。

 王様とは違うタイプの筋肉だ。


「マクレガー民兵局局長殿、出迎えかたじけない」


 父さんに声をかけるその姿、まさに貴人。

 上品の上澄みである。

 陛下のときはこちらのレベルに合わせて雑な態度で接してくれたが、こっちは直球。

 かといって嫌味もない。

 なんだろうか。負けたって思わされる。

 あ、そうか。

 このレベルをさらに超越すると王様になるのか。

 負けたってすら思わせないの。

 するっと相手の懐に入っちゃう。

 本物の貴族を見た後だと、なおさら王様のヤバさが際立つ。

 やっぱりあのおっさん、能力的に桁違いなんだわ……。

 筋肉で呪いに抗った男は化け物なのだ。


「は、ラムシュタイン・ダンジョン省大臣閣下自らお越し頂きまして、ま、まさに幸甚の至りにございます」


 普段使わない言葉なので父さんが少し噛んだ。


「なあに、我が娘の親友、リック殿とラクエル嬢のため。それにダンジョンが移動してきたという国家的危機だ。同じ陛下の忠臣として助け合おうではないか」


 あ、これ、やばい。

 もう逃げられない。

 ラムシュタイン派に取り込まれた。

【助け合う】ってのはそういう意味だ。

 いや王様の派閥なんだけど、派閥内のさらに派閥があって、そのラムシュタイン派の一味にたった今取り込まれた。

 王様の五分の兄弟だから、ラムシュタイン伯爵とも兄弟になろうぜって意味だ。なお拒否権などない。

 あ、でもよく考えたら、ラムシュタイン伯爵の兄弟でも困ることはないのか。

 うちは伯爵内では最下級の名ばかり底辺伯爵。

 ラムシュタイン家は伯爵でも一二を争う上級伯爵。

 王族の親戚になれば、すぐに侯爵や公爵になるだろう家だ。

 同じ軍家だし、民兵局局長という、軍閥の中でもにらまれやすいポストのうちを守ってくれるだろう。

 逆にラムシュタイン家にはあまりメリットはないが……今後の成長に期待しているのかもしれない。

 それに【助け合う】ってことは分家や完全な子分ではない。

 だからラムシュタイン家が没落しても連座で処罰されることはない。

 悪い話ではない。

 むしろ条件がよすぎるくらいだ。


「では我々は宿舎へ参ろう。陛下が到達し次第軍議を開くことになろう。それまでは羽を広げて休みたまえ」


 練度の高い軍隊が音楽に合わせて行進していく。

 最初から最後まですっげえ。


「伯爵の軍隊すごかったね」


 ラクエルまで圧倒されていた。

 本当にすごいものを見せてもらった。


「ほんとすごかったな」


 すると父さんがあきれた声を出す。


「何言ってんだ。陛下の呪いを解いたとき。あのレベルの行進だったぞ」


 馬車の中からだと全然凄さがわからなかった……。

 外から見ると全然違うわ……。


「うちもあれくらいできないと……そろそろまずいな。カールに相談するか……」


 いくら儲けても金が湯水のようになくなっていく。

 やはり領地に産業が必要だな。

 兵を養うために金が必要。

 当たり前のことなんだけど厳しい!!!

 ラクエルと家に帰ろうとするとカーラとセバスチャンがいた。


「どう? うちの騎士団は?」


 おーっほっほっほ!!!

 と高笑いつき。

 でもここは素直に言おう。


「圧倒された。名ばかり伯爵のうちじゃ無理だね。いやー本物の伯爵家は違うわ」


「そ、そうかな」


 素直に褒めたらカーラはめっちゃ照れてる。

 セバスチャンはなぜかむせび泣く。


「意地っ張りすぎるお嬢さまにお友だちができた。セバスチャンは感動に震えております」


 そこまで?

 カーラは口調は偉そうだけど、友だちには甘いタイプだと思うんだけどな。

「しかたないわね!!!」って何でもやってくれるタイプ。

 女の子の間でもマスコット的に扱われてるって聞いたけど。

 むしろコミュ症はトマスとかの方が深刻だと思うけどな。

 騎士にしごかれてかなり丸くなったけど。


「ま、まあ、今日はこれくらいにしといてやるわ!!!」


「あ、うん。ありがとう! ほんと感謝してる!!!」


「むきー!!!」


 あ、壊れた。

 素直じゃなさすぎて、感謝されると壊れるのか。

 そのままセバスチャンにおぶられてカーラは帰っていく。

 うん、いいやつだ。


「カーラいい子だよね」


 ラクエルも同じ感想のようだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る