第51話

 古代の兵法書のコピーをミミに渡す。

 地下ダンジョンの適当な宝箱に入れてくれるらしい。

 その地下ダンジョンだが、突如として出現する現象はいくつか報告されている。

 とはいえ、昔になればなるほど嘘や誇大な報告も多いのであまりアテにならない。

 戦争の原因すら当事者同士でまるっきり違うことを言ってる場合がある。

 特に国レベルだと酷くなる傾向がある。

 うちのような地方豪族だと誇大表現する方が面倒なので記述は正確だ。

 あったことを記録してるだけ。

 なのでダンジョン生物説も本当だとは思ってなかったのだ。

 そしたら本当に生物だったわけだ。

 で、本題。


「ダンジョン探索の許可をとるぞ!」


 ギルバートが鼻息荒くして言った。

 こりゃダメだ。

 若い貴族とか騎士のあるあるらしいのだが、無計画でダンジョンに突っ込んで大怪我する。

 斥候の存在すら忘れてるパターンだ。

 兄ちゃんたちとミザリーに相談しようっと。

 まずはミザリーと。

 詩の講義が行われてる教室にラクエルが入る。

 すると講師の中年女性が不思議そうな顔をする。


「あらラクエルさん。どうしました?」


「ええ、男子の講義で問題が発生しまして。ミザリー様を職員室までご案内しなければならなくなりました」


 ゾゾゾと背筋が寒くなった。

 ラクエルが……ちゃんと……令嬢してる。


「ラクエル様。ご一緒いたします」


 ミザリーにもゾゾゾ。

 ちゃんと令嬢してる!!!


「ミザリー様。わたくしも関係あることと思われますわ。ご一緒しても?」


 シェリルは令嬢してても問題ないな。


「先生。わたくしも責任者としてご一緒いたします」


 アンちゃんは立派な令嬢である。


「ではごきげんよう」


 みんな廊下に出てくる。

 俺を見るとミザリーが涙目になる。


「余計なこと言うなよ!!!」


「い、言わないッス!」


 命は惜しいからな。


「なにかございました?」


 アンちゃんが聞いてくる。

 そうだ、ダンジョン!


「ミミの情報だけどダンジョンが発生したらしい」


「どこによ? そのくらいで僕を呼ぶなんてみんな僕のことが好きすぎだろ」


 ミザリーはたまに自信過剰だ。

 だから現実を突きつける。


「ここの地下」


「重大事件じゃないか!!!」


「だから呼んだんだって。男子がダンジョン攻略するって言い出してさ」


「死人が出るぞ!!!」


「それはたいへん! 私、聖女様呼んで来ます!」


 シェリルが走っていく。


「では私も必要ですね」


 アンちゃんがほほ笑む。

 すると廊下の先から何者かが走ってくる。


「待て待て待て待て!!! 面白そうなこと考えてるなー!!!」


 セバスチャンだ。

 カーラをおぶってる。

 久しぶり。


「面白そうな話ですわね!!! 一枚噛ませていただきますわ!!!」


 カーラはノリノリだ。

 デコが光ってる。


「いや男子がダンジョン行かなければ問題な……」


「お父様に報告せねばなりませんわね!」


 アンちゃんも顔がツヤツヤだ。

 そんな楽しそうにしなくても。

 職員室に行くとカール兄ちゃんにアズラット兄ちゃん、それにヒース兄ちゃんがすでに待っていた。

 ヒース兄ちゃんが俺に質問する。


「報告はギルバートから聞いたぞ。ダンジョンが出現したって?」


「ここの地下にね」


「まずは調査だな。リック、何か聞いてるか?」


「ダンジョンがここに引っ越してきたらしいよ」


「引っ越し……嘘だろ! ダンジョン生物説って正しかったのか!?」


 みんな同じ反応である。


「待て引っ越してきたってことは……?」


「どこかのダンジョンが消滅したっぽい」


「……わかった調べておく。なあカール!」


「わかってるよ! ユーシスにも言っておく」


「父さんには伝える?」


「すぐに伝える」


「国と教会にはもうすぐ伝わると思う」


 するとカーラが「おーほっほっほ!」とわざとらしい高笑いをした。


「このカーラ、ラムシュタイン伯爵家の力もお貸しいたしましょう!!!」


「ラムシュタイン伯爵家が手を貸してくれるって……?」


 よほど自信があるようだ。

 カーラのデコがつやつやだ。


「ええ! ダンジョン攻略で名を馳せたラムシュタイン家ですわ!!!」


「へー……どうする? カール兄ちゃん?」


「ただ攻略するだけならお前とラクエルつれて行けばいいが……生徒たちを上から押さえつけたら一気にいくつもの家と関係が悪くなるな……安全にダンジョン攻略するためにもノウハウを持っている家の助力を仰いだ方がいい。カーラ嬢、ご実家に連絡していただけるかな?」


「もちろんですわ! さあセバスチャン!!!」


「早馬頼んできます」


 案外手段は普通だった。

 セバスチャンと入れ替わりにアンがやって来る。


「お父様へ早馬を飛ばしました」


 まーたあのヒゲ筋肉が来そうな予感。


「殿下ありがとうございます」


 今度は父さんと聖女の婆ちゃんが走ってきた。

 その後ろをシェリルが追う。


「ダンジョンだと!!!」


「ダンジョンですって!!!」


 二人とも元気だ。


「ここの地下にダンジョンがお引っ越ししたんだって。ミミの情報だからたぶん正しい」


「なんてこった……ダンジョン生物説が本当だなんて……」


「すぐに教会に連絡しなければ!」


 聖女の婆ちゃんが窓を開けて口笛を吹く。

 すると空から猛禽類。

 たぶん鷹かな。

 とにかく大型の鳥が入ってきた。


「ガル。この手紙を本部へ」


「ぎゃあッ!」


 ガルと呼ばれた鳥は一鳴きすると飛んで行く。

 速い!

 あっと言う間に見えなくなる。


「私の召喚獣です。本来は私の切り札なのですが……非常事態なので仕方ありませんね」


 俺のドラゴンブレスみたいなもんか。

 俺は隠してないけど。

 ……とにかくダンジョンは大事になってしまった感がある。

 いや大事なのか?

 ラクエルの存在で俺は感覚が麻痺してるんじゃないか?

 あの級長然としたギルバートが壊れるレベルだぞ。

 悩んでいると例の鳥が戻ってきた。

 いくらなんでも速くね?

 聖女の切り札だけあるわ。


「まだ発表はされてませんが……公国の先、遙か南の諸島連合からダンジョンが消滅しました。ここの地下のダンジョンと同じものと推測されます」


「本当に生き物だった!」


「ええ。ダンジョン生物説は本当だったようですね。問題は、諸島連合のダンジョンは未攻略だったことです」


 ……難関ダンジョンじゃん。

 まずいな……怪我人出るぞ。

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