第50話
で、問題がある。
「ミミなのだー!!!」
「なぜお前がいる!?」
「鍵開けの講師ですが?」
「自称ポメラニアンが講義……だと……」
「ポメラニアン差別はやめてくださーい」
男子生徒たちの多くがミミの講義に出ている。
トマスなど宝箱に興味のない一派もなぜか参加してる。
鍵開けに関しては貴族の子よりは庶民が多い。
ジェイクなんかも参加してる。
女子はミザリーも含めて必修の詩の講義だ。
ミザリーにはいらない講義だろうけど。
「まあまあ、鍵のことはミミックに聞いた方がいいし」
ジェイクがなぜかミミをかばう。
「みんなミミに甘くない!?」
俺がそう言うと仄暗い表情でジェイクは裏事情を吐露した。
「商人やってると多いのよ。金払えなくなって開けられなくなった宝箱で払おうとするやつ。ここにいるみんなは一通り親が酷い目にあってるわけよ」
「……お、おう」
なぜかギルバートもいる。
「なぜギルバートまで?」
「君が受講する講義は全部出ることにした。君の底知れ無さが少しはわかると思ってね」
「俺……ミミにツッコミ入れるためだけに参加したんだけど」
「それでもいい」
ギルバート……そこまで俺を高評価せんでも……。
「いいから課題!!!」
ミミが口から宝箱を出す。
変哲のない宝箱だ。
「これを開けて! はいそこ!!! ジェイクくん!!!」
「うっす」
指名されたジェイクが宝箱に挑む。
「まずはトラップを鑑定します」
「あの教官殿。どうすれば?」
「かわいいミミちゃんでいいです。えっと、品物を見るように注意深く……」
「あだ名長くね?」
「リックくんにいじめられたー!!! お姉ちゃーん!!! びえええええええん!!!」
あ、泣いて誤魔化しやがった。
「はーい、ミミちゃん」
「お姉ちゃーん!!!」
なぜか出現したラクエルにミミは泣きつく。
「ラクエル……詩の授業は?」
「課題提出して終わったよ」
あれだけ本を読んでるのだから、詩くらい鼻歌交じりに終わらせるか。
ミミはラクエルにぴえーんと泣きついてる。
「ラクエルお姉ちゃん! リックがいじめるー!」
「おーよしよし。もう、リック、ミミちゃんいじめちゃだめだよ!」
いじめたつもりはない。
ミミのツッコミどころが多すぎるだけだ。
「それはいいが、ジェイクどうすんのよ」
話を変えよう。
「あ、忘れてた。ジェイクくん、宝箱の気持ちになって罠を解除して」
「人間が宝箱の気持ちを理解できるとでも?」
「もー! じゃあリックくんはどうやって開けるの!?」
あ、結局、俺がやめるハメになったか。
ジェイクのところに行く。
「じゃあ手本やるわ……まずは外側を見る」
外側をさわる。
「まず外部に繋がる管があったら毒ガスや爆弾を疑う」
なぜか「おおー!」とみんなが騒ぐ。
俺は今度は懐から音叉を出す。
「でこいつを鳴らし、さらに宝箱の上を叩く。金属の反響がなく、中が詰まってたら高確率でミミック。ミミックは宝箱に擬態してるけど、外側は貝殻みたいなもんだから。慣れると叩いた感触だけでも判別できる」
「うむ」
なんでミミが偉そうなんだ?
「トゲなんかはバネがあるから、開けてる最中の音に気をつける。で、開ける。まずは合鍵を作る」
針金を出す。
「こういうので作ってもいいけど、俺はこれ」
万能鍵を出す。
鍵の出っ張りを回して調節できる。
「魔法の鍵じゃなかったらこれでいける」
「それどこで売ってるの?」
ジェイクが食いつく。
「え、自作だけど」
うちの領地は最近まで鍛冶屋すらいなかったしね。
金属製品は買うか作るかだ。
これも余ってる金属から適当に作った。
「……リックきゅん」
「きゅん?」
「売って」
「いいけど」
「待て待て待て待て!!!」
なぜかギルバートが割って入る。
「どうしたん?」
「商人に軽はずみに物を渡すな!!! 複製されて売られるぞ!!! それはシーフの秘伝なのだろう?」
「違うよ。俺が考え……」
「もっとダメ!!! ジェイク! ちゃんと契約書を作ってユーシス先生の許可をとれ!!! そうじゃなかったら絶対に売らせないからな!」
「ちぇ、しかたないな。了解、ギルバート」
ジェイクはギルバートに従った。
騙されるってことはないだろうけど。
ギルバートに感謝しておこう。
「ギルバートありがとう。で、こいつで開かない場合、というか魔力を感じたら魔法の鍵。解除魔法でいける……けど」
「けど?」
男子生徒たちが聞いてくる。
「あんまり複雑だったら問答無用で破壊。高確率でミミックだ」
「のおおおおおおおおおお! 最後だけ大間違い!!! ぶぶー!!! ミミックじゃありませんもんねー!!! 絶対ちがうもん!!!」
「だってこの間の無限ミミックのときも意味もなく複雑なのはミミックだったし」
「伝説の武器とかだったらどうするんですかー!!! ぶー!!!」
「異常に複雑な宝箱に入れてる武器なんて手入れされてないから腐ってるだろ。どう考えても普段使いしねえし」
「のおおおおおおお!!! リックくんの聖剣はどうなんてすかー!?」
「あれ、古代魔法で時間を凍結してあったし。構造上劣化しないし。それにそういう性格悪いこと好きじゃん。ミミック配置してるやつ」
「優秀な魔道士のバカー!!!」
どうやら図星だったらしい。
俺の勝利である。
「いいもん!!! リックくんのあほばか! これでも喰らえ!!!」
ミミが何かを吐き出した。
俺はひょいっとそれをよける。
「あ、当たらない! ばかー!!!」
そのままミミはラクエルの後ろに隠れた。
「こりゃなんだ?」
ギルバートがひょいっと何かを拾った。
それは古い
「中は……お、地図だ」
「なんの地図?」
ギルバートが広げる。
この地形は……。
「ここじゃん」
嫌な予感しかしない。
「へー、地下にダンジョンがあるな」
「古都の地下ダンジョンか……」
あるはずがない。
だってこの古都……俺がでっち上げたものだ。
学園の建物も荘厳な教会も謎の庭園も。
ラクエルの本を参考にしてでっち上げたのだ。
その証拠に、すべて建築様式の年代が違う。
時代考証よりカッコイイかだけで作ったのだ。
そんな街に地下ダンジョンなどあろうはずがない。
あっても埋まってるはずだ。
「……ミミさん、地下ダンジョンって?」
「ミミ……知らな……その顔やめて怖い!!! わかった言うから!!! 地下にダンジョンが越してきた以上!」
「ダンジョンを生き物みたいに言うじゃないか」
「生き物だよ?」
……いやダンジョン生物説あるけど。
本当だったのか……。
「ほう……面白そうだな」
やめろギルバート!!!
どう考えても罠だ!!!
脱力するようなしょうもない結末が待ってる!!!
「みんなダンジョン攻略だー!!!」
「おおおおおおおおおおおおおおッ!!!」
もう俺知らない。
「……ラクエル、どうしようか?」
「うーん、賞品として私の巣から古代の兵法書のコピー持ってくる?」
……それしかないか。
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