第49話

 ミザリーに食べられる草を教えようと思ったら、男子全員ついてきた。

 おまけにヒース兄ちゃんまで来た。

 誰かが通報したらしい。

 さらにラクエルやシェリル、それにアンまでついて来た。

 しかもラクエルはミミックのミミまで連れてきた。

 散歩のつもりらしい。

 ヒース兄ちゃんが挨拶する。


「えー……なぜか私が急遽担当になりました。採取ですが、私もしくはそこのリックに聞いてください」


「俺も!?」


「手が足らん。頼むわ」


 しかたない。

 ラクエルやミザリー、それにシェリルとアン。

 女の子組と一緒に行く。


「あ、キノコ! 僕取ってくる!!!」


 ミザリーが走っていく。

 待て、いきなり難しいキノコかよ。


「はい! 見て!!! ヒラタケ!!!」


 カゴに入ったキノコを見る。


「ツキヨタケだな。毒。廃棄」


「なんだってー!!!」


「……待て。シーフはツキヨタケの毒はよく使うよな? わからないって……ミザリー……自分で毒作れないのか?」


 ミザリーがびくっとした。

 本当に……できないのか?

 ツキヨタケの毒はよく使う。

 例えば野営中の敵兵の鍋に仕込むとか。

 ゴブリンやオークの野営地に仕掛けたりする。

 人間だとたまに死ぬが、魔物を殺すほどの毒ではない。

 だけど効果が出るのが速いので、パニックになったところを襲撃する。

 臭いとか苦いってこともない。

 だから、よく使うはずなのだが……。


「ミザリー……今まで毒どうしてたの?」


「あの……その……僕、仲間に分けてもらってて……」


 調合もダメなようだ。

 戦闘力全振りじゃねえか。

 百人に一人の天才って本当かよ。

 でも戦闘力は異常なのはわかる。

 卑怯な手を使わないで、真正面から戦うの嫌だもん。


「う、うちの里だと戦闘力が評価されるの!!!」


「戦闘は騎士にさせりゃいいじゃん。シーフなんだからサポートがんばろうぜ」


「うううううううううう」


 するとラクエルが肘でつついてくる。


「ダメだよリック。ミザリーいじめちゃ」


「えー、悪いの俺ぇ? ……わかったよ。手本見せるわ」


 森を進んでいく。

 まずは果物。

 とは言ってもベリー系を狙う。

 トゲの生えた小さい木を発見。

 木苺だ。

 まだちょっとはやいけどいいか。


「はいよ木苺」


 それに近くに桑の木を発見。

 実を取る。


「桑の実」


 ビワがあったので木に登る。

 下にいるミザリーに実をパス。


「ビワ」


 この辺は昔、村があったんだろうな。

 人間が栽培している種類だ。

 おそらく村がなくなって放棄されたのが野生化したのだろう。

 それじゃ、アレがあるな。

 あった。


「ニラな」


 野生化したニラを見つけた。

 毒草と間違えないように。


「う、ううううう完敗だ」


 ミザリーが泣きそうになってる。


「まだあるぞ」


 歩いて行くと木の生えてない場所に出る。


「ノビルだ」


 ノビルを摘んでいく。

 ネギだね。

 動物のオシッコがかかってる可能性があるのでちゃんと洗った方がいい。

 少し進むと川があった。


「クレソン」


 普通に茹でれば食べられる。

 というか虫だらけなのと動物がオシッコかけてるので茹でないと食べられない。

 高確率で腹壊す。

 蕗がなかったのは残念だ。

 もう終わったのかもな。


「おっとタンポポ」


 お茶にしても食べてもいい。

 ついでにカラスノエンドウを取っておく。

 栽培種と比べえるとあまり美味しくないけど食べられる。

 野菜は手に入った。

 魚かエビでも捕るかね。

 と思ったら、男子たちが俺を見ていた。


「なによ?」


「……リックがいれば遠征で困ることがないのはわかった」


 ギルバートがあきれていた。

 俺は弓を取り出す。

 狩り用の小さいやつだ。

 鳥に向かって射る。


「ヒヨドリ……やっぱりここ、村があったな。肉ゲット」


 美味しい肉が獲れた。

 小さいから数そろえないとダメだけど。

 取れなかったらスープの隠し味かな。

 骨を煮ればスープ作れるしね。


「……味付けはどうするんだ?」


「岩塩と香辛料ならあるぞ」


 シュパッと岩塩とスパイスを出す。

 唐辛子だけだけど。

 あと家に帰れば酢とからし菜の種がある。

 コショウは暑い地域からの輸入しかないから高いんだよな……。

 あとタマリンドも欲しい。

 甘酸っぱい豆だ。

 肉料理のソースに使える。

 あれも高いんだよね。

 現地だとその辺に生えてるものらしいんだけど。


「魚を獲ってくるか……」


 ギルバートがつぶやいた。

 しばらく食べものを探していると、男子たちがマスを捕ってきた。

 彼ら釣りはできるのか。


「うん、料理しようか」


「で、できるのか?」


 なんなのギルバートくん。


「できなかったら斥候できないでしょ。毒も作るんだし」


「僕……できない……」


 なぜかミザリーが仄暗い顔をした。

 アンは無理なのは当然として……。


「シェリルはできるでしょ?」


「修道院の料理は薄味で香辛料も使わないし煮るか焼くしかないので美味しくないですけど。それでいいなら……」


 聖職者はそういう縛りがあるのか。

 清貧もそこまで行くと厄介だな。


「一度……料理にチーズを思いっきりかけてみたいです」


 こっちも仄暗い顔をした。

 確かにチーズ高いけどさ、そこまで言うほどかよ!!!


「リック~! 焚き火できたよ~」


 ラクエルが石を並べて焚き火の場所を作ってくれた。

 台はないので直火だ。

 たまに火の粉が飛んで火事になるけどしかたない。

 油がなければ死ぬほどの火傷はしないからね。


「ちょっと待って、もしかしてラクエルは……」


 ミザリーが焦った声を出す。

 ちっ、気づいたか。


「料理できるよ~♪」


 そう言ってラクエルは、ナイフ片手になれた手つきでマスをさばく。

 だってラクエルもシーフの稽古してるし。

 それに巣に料理の本があったし。


「あがががががが……」


 あ、ミザリーのアイデンティティが崩壊した。


「ミザリー、言っておきますが、私もできますよ」


 アンの言葉に俺もビックリした。

 できるの!?


「王族はいつ宮殿から落ち延びるかわかりませんから。一通りは」


 アンもナイフを借りてマスをさばく。

 これには男子もビックリしてた。


「な、なにをしてる! アン様を手伝うのだ!!!」


 ギルバートの声で我に返った男子が手伝う。

 ギルバートも上手じゃないけどできるようだ。

 この瞬間、飯が作れる男子と、そうじゃない男子の間に一時的にヒエラルキーができてしまったのである。

 で、厨房の料理人と聖女の婆ちゃんに泣きついた結果、男子も参加する料理の講義が誕生するのだった。

 そりゃヒース兄ちゃんもカール兄ちゃんも料理得意だもん。

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