第48話

 呼び出されたけど、男子全員と関係女子だけだ。

 俺だけとか男子だけが怒られる事態は避けられた。

 理事長の席に聖女の婆ちゃんがいた。

 開口一番婆ちゃんはとんでもないことを言った。


「公的になにもなかったことにします」


「……わかりました」


 どうやら……わざわざ宣言しないとまずい案件らしい。

 さわらないでおこう。


「ちぇっ……」


 アンがなにかつぶやいた。


「えー……」


 シェリルもだ。


「別に揉み消さなくてもいいのに」


 ミザリーまで。

 君らなんなの?


「みんなどうしたの?」


 ラクエルが首をかしげる。

 するとアンが笑顔で言った。


「ラクエルちゃんと姉妹になりたいなってお話ししたの。ねー」


 俺の中で要注意人物が一人増えた。

 シェリルかミザリー、ツッコミ入れて。


「そうそう、私も姉妹になりたいなって思ってました」


 シェリル脱落。


「ああ、うん。僕も姉妹になりたいかな」


 ミザリー、お前まで!!!

 なんなのお前ら!!!


「わーい、お姉ちゃん!」


 ラクエルはよくわかってないのか喜んでる。

 俺は助けを求める視線を聖女の婆ちゃんに送る。


「そんな目で見ないでください」


 ちっ、失敗したか。


「それとお父様の講義があります」


「は? 父さんの!? 聞いてない」


「この学校の理事長ですからね。私は理事長代理の理事です」


 理事長は聖女の婆ちゃんだと思ってた。


「なにするんですか?」


「さあ? 聞いておりません」


 不安しかない。

 庶民周りの何かかも?

 そんなわけで当日。

 練兵場に革鎧を着た父さんがいた。

 装備だけですでに浮いている。

 生徒は男子生徒とミザリー。

 なんの講義だろ?

 父さんが笑顔で講義を始める。


「これからみなさんには、戦場で生き残る方法を学んでいただきます」


 ……実戦的だった。


「それは騎士の武術ということですか?」


 ギルバートが質問した。


「違います。もっと実戦的です」


 嫌な予感しかしない。


「まず、鎧を脱いでもらいます」


「何をするんですか」


「いいから」


 父さんがそう言うと生徒たちが他の生徒の金具を外そうとする。

 プレートアーマーは一人じゃ脱げないのだ。

 だけど父さんはそれを止める。


「一人で」


「は?」


 男子生徒が騒ぎはじめる。

 そりゃそうだ。


「一人で脱いでもらいます。みなさんは逃げるときに重い鎧を着たまま逃げるのですか? 一人で逃げたときは? 誰が脱がすんですか?」


「に、逃げ……逃げるときはどのような格好がふさわしいのですか?」


「フード付きの庶民の服にマントでしょうね。逃げる道中が敵の支配圏の可能性もありますからな」


 そっちか!!!

 たしかにこういうのは軍人、それも民兵の方が詳しい。


「この講義では獲物の捕り方。調理の仕方。武具のメンテナンス。それらを学習します」


「その目的はなんですか?」


「そりゃもう、皆さんが兵の邪魔にならないようにするためですよ」


 あ、ハッキリ言っちゃった。


「じゃ、邪魔とは?」


「現場の兵から言わせてもらうと、一人で自分のことをできない子は邪魔ですよ。それに名将と言われてる方々で自分のことができない人間を見たことありませんな。いいから鎧を脱いでください」


「や、やるぞ!!! みんな邪魔など言わせるな!!!」


 ギルバートが半分キレながら檄を飛ばした。

 ごめん……俺、一人でできる。

 だがみんなモタモタしていた。

 そうか……知らんのか……。


「はいリック。手本見せて」


「ほーい」


 まず腰のベルトを外す。

 で、金具に引っかけて外すっと。

 ま、手が届けば問題ないんだけど。

 どうしても攻撃されにくい手の届かない部分に金具があるからな。


「はい。みなさんもどうぞ」


「そんな外し方が……」


「正解はないですけどね。みなさんも自分で脱げるようにしてください。じゃないと死にますので」


 みんなビビったのか無言になる。

 さっさと終わったのは俺とミザリーだけだ。

 最後の男子が脱いで課題終了。


「はい、では鎧のメンテナンスしましょうか」


 道具箱が運ばれてくる。

 あー……面倒なのやるのか。

 俺は前に置かれた道具箱から金槌と雑巾と油を取る。

 あと鉄床アンヴィルも。

 まずは汚れを拭いて。

 汚れを落としながら鎧の歪みを見る。

 歪みがあったら金槌で叩いて修理。

 特に端を見て尖っている部分があったら金槌で丸める。

 丸いところは鉄床をちゃんと当てて。

 最後に油をつけて磨く。

 ガントレットやレガース、ヘルメットもメンテナンスしていく。


「そこまでやるのか……」


 トマスも固まってる。


「これは生き残るために必須のスキルですよ。あなた個人も、軍全体にも。こいつができないと、あなた方のせいで行軍が遅れます。行軍が遅れれば勝てる戦にも勝てなくなります」


「だがこれは民兵の仕事では?」


 トマスが反論した。


「その民兵のリソースを奪ってるんですよ。治療、炊事、洗濯、工事、地元民との交渉。民兵は忙しいんですよ。わかりますね。民兵の邪魔にならないでください」


「じゃ、邪魔……邪魔……なのか……」


 トマスも顔が白くなってる。

 そりゃ騎士のさらに下のことまで知らんよな。


「ここでは騎士一年生になっても先輩、それに民兵の足を引っ張らないようになってもらいます。最低でも怪我の応急処置、薬草の入手法、食料の獲得、武具の修理。さらに洗濯と料理。これらができるように育てます」


 まさか生活をやらされると思ってなかったのか、みんな葬式のようになっている。

 意味がわかってるのは俺とミザリーだけだろう。

 だがそんなミザリーも料理と聞いて小刻みに震えてる。

 待って、君……。


「ミザリー……もしかして料理」


「僕……できない。なぜかまずくなる……」


 メシマズだったか。


「リック……料理教えて……」


「俺のは野戦料理だぞ」


「いいから! 雑草の味しかしないって言われるのは嫌!!!」


「採取からがんばろうね!!!」


 草の選定が間違ってるからそうなる。

 シーフなのにそこで間違う!?

 ちゃんと食べられる草取ろうね!!!

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る