第45話

 そうそう、なぜ俺が金を使おうとしているのか?

 実は父さんは役職がついた。

 だってとうとう父さんも閣下だもの。

 民兵出身のせいか騎士や民兵を管理する軍務省の民兵局局長になった。

 いままで誰も管理してなかったので急遽作られたポストだ。

 干されてたユーシス兄ちゃんの仲間の文官たちや、これまた干されてたカール兄ちゃんの仲間を大量雇用した。

 たいへん士気は高い。

【使えない】と思われていた人材の心をつかんだためか、軍務省の上層部からは警戒されている。

 あえて敵には回さないって感じだろう。

 今のところ嫌がらせはされてない。

 母さんが代理で領主の仕事をやってもいいが、俺に経験をつませることを選択した。

 無理じゃね?

 まあ言われたからにはやるけどさ。

 ほとんどはユーシス兄ちゃんがやってくれるけどね。

 というわけで学生やりながら使いっ走り生活である。


 お金が余ったというか使ってないので、商人のところへ行く。

 王家御用達商会の支店だ。

 アポイントは取ってある。

 商会の名前はチャールストン商会。

 応接間にいたのは顔に傷のあるおっさんだった。

 やたらオシャレなおっさん、40歳くらいかな。


「よう坊ちゃん、お嬢ちゃん、そこ座ってくれ」


 言われたとおりラクエルと椅子に座る。

 そしたらニコニコしながら女性がお茶を持ってきた。

 秘書……?

 違うな。

 嫁さんかな。


「はじめまして。俺はこの支店長。ゴルドランだ」


「領主代行補佐見習いのリックです。こっちは邪竜のラクエル」


「ラクエルだよ♪」


 ラクエルは元気に挨拶した。


「……からかおうかと思ったけどやめた。大人だと思って対応します。ご無礼をお詫びいたします。リック様」


 いきなりあきらめんのかよ。


「なにそれ」


「生意気なガキだって聞いてたから手の平で転がそうと思ったけど……化け物じゃねえか」


「もっと態度悪くなってないですか?」


「商人は相手が強いか弱いかすぐにわかるんですよ。あんた底が知れねえや」


「また態度が悪くなったのは?」


「噂通り上流階級出身じゃないのが確認できたからですよ。あんたもこっちの方がいいだろ?」


「うん。それで頼みますわ」


「じゃ、本題。金が大量に入ってきた。その一部で事業をしたい。ただしノープラン」


 こういうのは正直に。


「ノープランかよ!!! 娼館でも作れ……すまん聞かなかったことにしてくれ」


 なぜか奥さんがニコニコしながら圧力かけてる。

 怖い。


「そういう娯楽施設も必要なんだろうけど、優先度は下かなあ」


「あんた……本当にガキか?」


「ガキなのに親の仕事やってるかわいそうなガキだよ」


「……自分で言うかそれ?」


「自分で言うしかないでしょ。とにかくさあ、この街には産業がないわけよ。学校だけじゃん。流通拠点でも生産拠点でもない。あるのは兵だけ。それも豪族レベル。そしたら俺の代には滅ぶでしょ」


「観光は?」


「それだって別の産業がなければなり立たないよ。虚無を見ても面白くないもん」


「……本当にガキか?」


「ガキだよ。他の領地で農業死んでるところってどうやって暮らしてるのよ」


「確かに……農業のないここの領地がおかしいのか……」


「そういうこと。開拓者募集する?」


「できるが……派閥はどこだ? 同じ派閥からじゃないと戦争になるぞ」


 それは嫌だ。


「王様のとこ」


「あちゃー……みんな都市部だ。農家じゃなくても生きていけるようなとこばかりだ」


「どうにかならない?」


「やってみる。それと産業だな? 木工はどうだ?」


「外に販売するには大きすぎない?」


 木工はかさばる。

 ゆえに輸送能力が問題となる。

 なおうちには輸送力の余裕はあまりない。


「いいや、どうせこの街大きくなるんだろ? 学校あるんだし」


「そうだね。拡張はいくらでもできるし」


 大工さんが揃うまでは俺がやる予定だ。

 大工さんが集まったら俺は引退。

 その方が俺も楽だし、金も消費される。


「だったら街で消費されるよ。木工職人なら多い。伝手を当たってみるよ。その後はまた相談しよう」


「じゃあそれで」


 ラクエルと出て行く。

 と思ったら、奥さんがなにか持ってくる。


「お菓子持っていって」


「わあ、ありがとー♪」


 ラクエルは喜んでる。

 まあいいっか。


 で、次の日。

 学校が再開される。

 学校に戻るとユーシス兄ちゃんの授業に出る。

 歴史学である。

 歴史ぃ?


「はい、資料を配りましたね。みなさん、これがなんだからわかりますか?」


 ジェイクが手を上げた。

 この授業はほとんど文官を志望者と騎士志望者だ。

 なぜかミザリーもいた。


「おそらく軍の帳簿です」


「はい正解です。これは先の戦争、最初の一年の帳簿です」


 なにを配ってる?


「軍が予算で成り立っているのは知ってますね?」


 うーん、半分の子は知らないんじゃないかな?


「ではみなさん、グループでこの予算の問題点を討論してください」


「いきなりの王国批判!?」


 初っぱなから冒険しすぎだろ。


「いいえ、ただの考察です。反省は常に大事なんですよ。はいグループ作って討論!」


「えー……」


 ジェイクが手を振っている。


「ようリック。一緒のグループになろう」


「うん!」


 と思ったら、なぜか笑みを浮かべるギルバートが来た。

 トマスの方はそそくさと逃げて別のグループに入った。


「やあリック、一緒にやろう」


「う、うっす!」


 妙な緊張感がある。


「それで、ジェイク。君はこの書類をどう考える?」


「ま、無駄が多いですな。でも緊急で物資を集めようとしたらどうしてもこうなるでしょう」


「商人から見ればそうなるのか……」


「あくまで金の流れは……ですが……」


 なんか罠があるな、これ。


「ねえねえ、ギルバートさん」


「【さん】はいらない」


「じゃあギルバート。この戦争って次の年、補給切れ起こして南方戦線が崩壊しそうになるんだよね?」


 ユーシス兄ちゃんが上官殴って、カール兄ちゃんが野盗と化した騎士団を止めたと。

 あれ……そもそも原因なんだ?

 補給部隊が壊滅したって話聞かないな。


「ああ……そう言えばそうだな。この帳簿を見る限り補給切れは起こりそうにないが……」


 物資は充分。

 絶対罠があるぞ。これ。

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