第44話

 学校が再開する。

 そう、そこまでは問題なかった。

 問題は……。

 目の前に大量の金銀財宝の山がある。


「どうしようか……」


 王様と五分の兄弟になる意味がわかってなかった。

 王族の命と未来を救うという意味がわかってなかった。

 つまり……なんだ。

 権力者側になっていたわけである。

 いや豪族や領主ってだけでも権力者側であるのだが、もはやレベルが違う。

 男爵子爵は最高の待遇でも街と一つに村数個を治める規模だ。

 それが伯爵閣下ともなると何々地方なんていう広大な領地を治める。

 その閣下になっただけでも身代が10倍以上にはなるのに、そこに王と五分の兄弟という【意味はわからんが、とにかく王族の寵愛を受けてるんだな】的な属性が附加される。

 さらに男爵どころか豪族出身、つまり地方領主やら男爵子爵がお近づきになってみたい存在になったわけだ。

 あわよくば取り入って利権をわけてほしい……というと悪いことのようだが、男爵子爵さらに豪族という国から半ば見捨てられた存在の事情を考えれば陳情を国の上層部に上げてくれるだけでも大助かりなわけである。

 その結果が【応援してるぜ!】という寄付の山である。

 名目は【昇進お祝い】であるが、同じ階級を経験した我らからすれば……必死にかき集めてくれた金であることはすぐにわかる。

 こんなの断れないだろ!!!

 さらに伯爵家で王様とのパイプが欲しい勢力はもっと狡猾だ。

 学校に寄付の山を送りつけてきたわけだ。

 うちの家に断る権限などない。

 で、あとから、


「あのとき寄付したよね? そしたらもう友だちだよね? じゃあ中央に口きいてくれない?」


 って言われるわけだ。

 中央って言ってるけど、この場合王様に直接って意味ね。

 で、うちらの方も、


「王様に言うだけなら……結果は保証しませんよ」


 って言うしかないわけである。

 王様の耳に確実に入る。

 それだけでも俺たちを生かしておく理由になるわけである。

 あとは持ちつ持たれつ。


「じゃあ、うちも他の伯爵家に君の家を守ってもらうようにお願いしとくよ」


 といつの間にか紹介してくれるわけである。

 親分さんを。

 王都の犯罪組織なんて目じゃないくらい怖い親分さんを。

 地方騎士団の兵力は万からみたいな超絶武闘派を。

 陰湿なイジメがないだけいいのか?

 とにかく、中央の政治家の生活とはこういったものだったのである。

 で、金だ。

 これの処理を俺にまかせるという無茶ぶりが始まった。

 とりあえず、いくらかは教会に渡す。

 これ重要。

 お金を渡して人員補充できれば、本来領主がやるべき仕事をやってくれる。

 例えば住民名簿を作ってくれたり、貧民や病人の救済だったり、孤児の面倒だったり。

 これを自分たちでできるはずがない。

 圧倒的に人手が足りない。

 身代が大きくなった今は絶対に切れない勢力だ。

 なので聖女の婆ちゃんに相談しようと待っているわけだ。

 あともう一つ問題が。


「ウロコたまったね」


 ラクエルが言った。

 ラクエルのウロコが、大量のウロコが倉庫を圧迫している。

 よく考えたら、もともと値段のつけようのない品だ。

 しかも気が付くとたまっていく。

 もう倉庫一つ分たまってしまった。

 商人に流すのも限界がある。

 当初の予想を超えまくっているのだ。

 こんなんさばけないわ。

 というわけで王様か教会か迷ったが、また面倒なことになりそうなので教会に相談することにした。

 座って待っているとラクエルが飽きて俺の膝を枕にして寝てしまった。

 頭をなでながら待つ。


「えへへへへ~♪」


 幸せそうなのでよしとする。

 しばらくすると聖女の婆ちゃんが来た。

 秘書みたいな人もいる。


「勇者様、遅くなりました」


「いえいえ」


 婆ちゃんが来たところでラクエルも起きる。

 まだ眠いようで片目をつぶっている。


「ラクエルさん寝てていいですよ」


「……あい」


 また俺の膝を枕にして寝てしまう。


「うふふ。かわいいこと。それで勇者様、ウロコでしたっけ」


 秘書さんがお盆を差し出したのでその上に小さいウロコを包んだ布を乗せる。

 秘書さんが婆ちゃんに袋を渡した。

 中を開けて「あらら」と婆ちゃんが驚く。


「これは……ラクエルさんの?」


「気がつくと落ちてるんです」


「なるほど……その可能性は考えてませんでした……それで他には?」


「倉庫一つ分あります。あと巣に行くと大きいのが大量に……」


「あらあら……これもらっても?」


「どうぞ」


「これお願いね」


 秘書さんがウロコを持って部屋を出ていった。


「まず教会に持ってきてくれて……正しい選択でしたね」


「少量売ってたんですがもう在庫がたまりすぎて……」


「でしょうね、正しい加工法を知らなければ意味のない品ですから」


「正しい?」


「ええ、おそらく今までは防具に使ったのでしょう?」


「普通に硬いので」


 鎧の下に着る服に縫い付けると軽くて強くなる。

 鎖かたびらがいらなくなる。

 けど加工が面倒なので不評だ。

 穴空けられないんだよね。


「これを神聖魔法で浄化すると砕けるようになります。教会の絵はドラゴンのウロコの粉を使ったものがたくさんあるんです……砕くと光りますので。でも近年ウロコが手に入らないので絵の修復ができず困っていたのです」


「へー……え、待って。王宮の絵もウロコを使ったのがあるんじゃ……」


「ええ、だから正解でしたと言ったのです。加工は教会の秘伝ですので」


「秘伝? そんなに重要な情報なの?」


「いいえ、ウロコが手に入らないので誰にも聞かれず、いつの間にか秘伝扱いになったそうです」


 いいかげんな話である。

 ま、なんにせよ。

 ゴミを引き取ってもらえることになった。

 あ、そうだ。お金の話も。


「それと寄付の話をしたいんですが」


「え?」


「あちこちからお金がやって来るので……」


「あらあら、追加人員ならウロコだけで大丈夫ですよ。みなさんで使ってください」


 どんだけ価値あるんだよ……ウロコ。

 もしかして今まで売った先が悪かった?

 伝手がないからしかたないんだけど。

 こうしてお金は余ってしまったのだ……。

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