第39話

 あのあと三人で訓練場に向かう。

 最初の講義はカール兄ちゃんの騎士訓練だ。

 中庭に行くと騎士団の訓練着姿の生徒たちがいた。

 階級はすぐにわかった。

 刃引きの剣で素振りしてるのが貴族や騎士。

 後ろで何をしていいかわからないのが平民。

 俺たちは迷わず平民の方へ行く。


「待てい!!!」


 懐かしい声がして振り返るとトマスがいた。

 髪を短く切りそろえて……いや坊主頭にしている。


「久しぶり」


 挨拶すると引っ張られる。


「お前は貴族の方だろ」


「えー……」


 引き離される。

 しかたないか。

 貴族の方に行くと背の高い男の子……かなり年上の子に剣を渡される。


「マクレガー……君強いんだって? 【ほぼドラゴン】の噂聞いてるよ」


「魔法なら。剣はぜんぜんだけどね」


 体ができてない。

 筋力が足りないのだ。


「聖剣に認められたんだろ?」


「棍の方が得意だけどね」


「ほう、木の武器から学んでいるのか。古いやり方だ」


 古いやり方だったのか……。

 知らなかった。


「今は剣からやるのが流行だ」


「へーそうなんだ」


「つまり……だ。勝負してみようってことだ」


「勘弁してよ……」


 カール兄ちゃんにもリャン先生にも試合はやめろと言われている。

 中立的な審判がいなければ熱くなりすぎる。

 怪我でもさせようものなら遺恨が残る。

 死人が出たら一族を上げて復讐が始まる。

 なにもいいことがない。

 俺が困っているとカール兄ちゃんがやって来た。

 騎士団の訓練服だ。

 俺を見ると何かを察したのかにやっと笑った。

 あ、悪いこと考えてる。


「えーっと……エレファス男爵家の」


「ギルバートです」


「そうだ。ギルバート。リックとの対戦を望むか?」


「ええ、もちろん」


「だろうな。剣を握っているってことは腕自慢だろうからな。うむ、いいだろう。元気でよろしい」


 ちょと待って、いつもと違う。


「ただし、一対一はやめろ。ギルバート、お前死ぬぞ」


 ふぁ?


「そいつはシーフでモンクで魔道士で騎士だ。実戦経験こそ多くないが……強いぞ」


「だが子どもでしょ!?」


「だが聖剣の認めた勇者だ。そうだな……よし! すでに剣を習ってるものは剣を持って集合、オリエンテーションの内容を発表する!」


 嫌な予感がする。

 貴族や騎士の子弟が剣を持って俺の前に立つ。


「おう、集まったな。リックを倒したやつには推薦状でもなんでも書いてやる。どんな手を使ってもいい。リックを倒せ。一度に斬りかかってもいいし。石をぶつけてもいい」


「ちょっと待て! 全員かよ! 全員と一度に戦うのかよ!!! あと石は痛いからやめろ!!!」


「うるさい! リックは魔法使ってもいいぞ。ファイ!」


 その場にいた生徒たちが剣を振り上げ突っ込んでくる。

 アホか!!!

 俺は隠し持っていたロープを木に引っかけ逃げる。

 あーばよ!!!


「くそ逃げたぞ!!!」


「もう負けてんだよ」


 兄ちゃんがそういった瞬間、地面が凍った。

 走ろうとした瞬間スリップして何人もがコケた。


「今コケたやつは失格な」


 カール兄ちゃんは非情である。


「くそ! 思った以上に厄介だぞ!」


「猿か!!!」


「追い込め!!!」


 俺は着地して今度は足踏み。


「気を付けろ! また下だ!!!」


「氷なら気を付ければ……ぎゃあああああああああああああッ!」


 今度は地面を柔らかくした。

 足を踏み入れたやつらがズブッと腰まで埋まる。


「くそ! 抜けない!!!」


「はいアウト」


 失格退場者が増える。

 これでほとんどの子が失格だ。


「兄ちゃん!」


「先生だ!!!」


「先生! 目つぶし撒いていい!?」


「ふざけんな! 怪我人出すな!!!」


 えー……。

 あと10人ってところか。

 普通に戦うか。

 ブレスは大怪我するし。


「先生!!! 棍!!!」


「ああ、はいよ!」


 カール兄ちゃんに棍を投げてもらう。

 木製で自分の背丈より長い棒だ。

 ちゃんと生薬で煮た丈夫なやつだ。

 するとギルバートが激怒した。


「ふざけるな! マクレガー! そんな木の棒で戦うだと!!!」


「一番なれてる武器だからね!!!」


 俺は一気に間合いを詰め前にいた子の足を払う。

 すてーんとコケた。

 その子に足を引っかけもう一人も転ぶ。


「二人とも失格!」


 はい、あと8人。


「い、石を投げろ!!!」


 と言った子に近づき突き。


「げぶ!」


 石を手に取った子に向かって走る。

 体を旋回してから飛び上がる。

 空中で石を投げようとした子の側面に回った俺は胸を蹴る。


「二人とも失格!」


 ギルバートが大声で命令する。


「気を付けろ!!! とんでもなく速い!!! みんな固まれ!」


 ギルバートとトマス、他二人が密集戦術に切り替えた。

 あと6人。

 つまり密集できてない2人がカモだ。

 俺ははぐれた連中のところに駆けていく。


「そこの2人! こっちに……」


 ギルバートの声は間に合わなかった。

 一人は胴を一発。

 もう一人は肩に一撃っと。

 怪我しないように優しくね。


「失格!!!」


 で、ギルバートとトマスはよく訓練されてる。

 トマスは本当に努力したんだなあ……。

 つまり他の二人がカモだ。

 密集した男の子たちに棍を投げつける。


「こしゃくな!!!」


 ギルバートが棍を叩き落とした。

 チャンスだ!!!

 俺は剣を拾い密集の足元の隙間から侵入。

 二人の足と背中に一撃を入れて離脱する。


「う、嘘だろ!!! 密集したのに!!!」


 トマスが声を上げた。

 そりゃね。

 マニュアルに密集しろって書いてあるから、裏をかいてやるわけで。

 なので次はトマス。

 トマスは簡単だ。

 どさくさ紛れに設置したロープを引っ張る。


「え?」


 すてーんとトマスがコケた。

 残り一人。


「正々堂々勝負しろ」


「もう九人倒した時点で正々堂々っておかしくない?」


「どうせ余裕なのだろ」


 そう言ってギルバートは切っ先をこちらに向けた。

 ここで普通に戦わなかったら恨まれそうだ。

 俺も剣を構える。


「うおおおおおおおおおおお!」


 ギルバートが一気に間合いを詰めて剣を振るう。

 俺は威力の大きい危なそうなのはよける。

 それ以外をパリングしていく。

 勢いを削いで受け止めたり、思いっきりはじき飛ばしたり。

 相手の力も使って、相手をコントロールしていく。


「ぐッ! 剣もできるじゃないか!!! こっちも本気で行くぞ!!!」


 楽しそうなギルバートに対してこちらは余裕がなかった。

 体格が違いすぎる!!!

 だけど! 楽しい!!!

 俺は剣戟を楽しんで、受け止め、あるときは攻撃していく。

 楽しい時間の終わりは唐突にやって来た。

 手首に隙を発見してしまった。

 残念だがしかたない。

 ぱーんと手首を叩く。


「リックの勝ち!」


 ギルバートがへたり込む。

 俺も息が切れていた。

 肺が苦しい。


「なんだ噂通りじゃないか!」


 ガハハっとギルバートが笑った。

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