第37話

 学校。

 名前は知らないうちにキング・カレッジ・マクレガーに決まった。

 名無しだった街の名前もマクレガーの街に。

 一気に経済が大きくなると様々な影響がある。

 寮生、その他の食糧確保にせっかくの家賃収入を王都から派遣された仲介業者に払う。

 仲介業者はその名の通り、物資の買い付けなどの仲介を行う商人だ。

 手数料はお高いが、仲介業者の責任で物資を確保してくれる。

 自分ですべて用意するよりも安全だ。

 王家から紹介された商人だから金を持ち逃げすることもない。

 品質も最高品質の確保は難しいが中程度のものを大量に用意してくれる。

 いままでほとんど付き合いがなかった。

 だけど全部自分でやらなくていいのは新しい発見だ。

 そんな仲介業者のおかげで食料の安定供給ができている。

 ありがたや、ありがたや。

 さらに街の方も倒産が経営する商店がいくつも建った。

 これも仕入れは仲介業者。

 学校を抱える都市一つ分の取引となると業者もビビる額だ。

 なので買えば買うほど割引きが適用されていく。

 最終的には仲介の取り分がなさそうな金額になる。

 ちゃんと利益は出ているそうなので安心である。


「新しい産業が必要です」


 夕食時にユーシス兄ちゃんが言った。

 最近のうちでは家臣も含めてみんなで食事を取る。

 家が広くなったのもあるが、いきなり身代が大きくなったので問題が山積み。

 なのでみんなが集まるときに報告してもらっている。

 父さんは心底同意する。


「だろうな。いつまで家賃が入るかもわからんからな」


 家賃はあくまで学校が上手く行けば入り続けるものだ。

 学校の計画がコケればそこで終わりだ。

 父さんには交易で手に入れたものを販売する商店もある。

 それだって学校と運命をともにしている。

 なので将来を見据えれば農業や漁業、工業などの安定した産業が必要になる。

 だが農業は人手が足りない。

 他の産業はノウハウがない。

 得意なのは戦争だけ。

 詰んでる。


「ユーシス兄ちゃんなにするの?」


「ここにはラクエルがいます!!! ラクエルを前面に押し出して観光を! そうこのラクエルまんじゅうを!!!」


 あ、だめだ。

 疲労で頭がゆるくなってる。

 そういうのは温泉地でやれ!!!


「はい、今のは悪い例。他に意見ある人!」


 すると武僧モンクのリャン先生が手を上げる。

 リャン先生は兄ちゃんたちとは10歳ほど年が離れている。

 なので先生と呼んでいる。

 教会とは違う宗教。

 山岳民族の信仰する宗教の司祭らしい。

 違う神がいると喧嘩になるかと思うが、そんなこともないようだ。

 教会以外の教えも特に禁止されてないし、お互いに尊重している。

 武僧はいわゆる僧兵だ。

 主に人間ではなく、魔物を相手にする兵士だ。

 教会や修道院にあたる寺院は山の中にあって、そこで生活するために徹底的に肉体を鍛える。

 教会騎士の武術は筋肉と柔軟性に主眼を置いているが、武僧は脚力に主眼を置いている。

 要するに死ぬほど走る。

 もちろん俺も訓練を受けるときは死ぬほど走る。

 実は杭のパクリ元は武僧からだ。

 彼らは徹底的に足を鍛えるのだ。

 そんな厳しい男が手を上げた。

 皆はごくりと固唾を飲んだ。


「……ラクエルのぬいぐるみを売ればいい」


「な、なんだってー!!!」


 そういや忘れてた。

 このおっさん、かわいいものが大好きだったわ。


「ミミのぬいぐるみも作ろう」


 ミミめ……おそらくリャン先生から食い物もらってるな……。

 あいつおねだり上手すぎるんよ。


「……今のは聞かなかったことにして」


 さすがのユーシス兄ちゃんも正気に戻った。

 そうなるよね。


「とりあえず宿題にしましょう。みなさん考えてきてください! リックも!」


 えー……。

 お金稼ぐの難しいよ。


 兄ちゃんに変な宿題をもらって翌日。

 学校に登校する。

 ラクエルと手を繋いで一緒に登校。

 オリヴィアは女子寮から登校。

 ジャックは騎士コースの寮から登校。

 シェリルは事前に聖女の格に合うデカい修道院を作ったのでそちらから登校。

 ミザリーは急造した冒険者ギルドの二階の部屋から登校。

 いずれも聖女の婆ちゃんの意向である。

 家臣化はだめだということらしい。

 学校の前では馬車が渋滞を起こしていた。

 予想はしてたが実際見ると酷いものだ。

 入り口は渋滞しないように広く作ったが、貴族の雇った御者がまだ不慣れだったのだろう。

 どんどん詰まっていく。

 寮生や実家から通ってる俺は入り口で待つはめになる。

 すると自然とその辺にいた学生と話をすることになる。


「おはよう。君、勇者なんだって? 僕はジェイク。王都の家具屋の息子だよ」


 茶髪でそばかすのある少年だ。

 年上の男の子だ。


「家具の職人?」


「違う違う。職人が作った家具を仕入れて売る仕事。あちこちにコネがないとできない仕事なんだぜ」


「へぇー」


 世の中にはいろんな仕事があるな。


「そこの彼女との甘い生活を演出する家具をお探しならご用命を。次期子爵様」


「あははは。この子面白いねー」


 ラクエルが笑う。


「君が有名なドラゴン?」


「有名?」


 ラクエルが首をかしげる。


「うん。勇者の相棒だって」


「ラクエルはリックの嫁!」


「ああ……うん。それかな?」


「それでジェイク。有名ってのは?」


「ああ、なんでも勇者が来るべき世界の危機に備えてドラゴンを説得した。それで暗黒竜は改心して聖剣を勇者に譲ったとか」


「……なにその話」


「違うのか?」


「ラクエルの本宅に行ったら事故で剣を引っこ抜いただけ」


 倒したのは大量の本だけである。


「なんだよそれ、おもしれーなー」


 ジェイクはゲラゲラ笑う。


「よろしくな!」


 手を出したので握手。


「よろしく!」


「よろしくね!」


 ラクエルも愛想よく言った。

 ほら友だち作るの難しくないじゃん!

 みんな心配しすぎだよ。

 で、敷地に入るといるわけだ。

 馬車の渋滞の原因が。


「あら勇者様じゃなくて?」


 ドリルヘアーのお嬢さまがいた。

 少し年上だと思うけど背がちっちゃい。

 後ろには筋肉質の男子がいた。


「このラムシュタイン伯爵家のカーラ、勇者に一目お会いしようと待ってましたわ!!!」


 それで馬車止めていたと。

 迷惑行為である。

 すると後ろの男子がカーラを小脇にひょいっと抱える。


「うちのお嬢さまがご迷惑をおかけ致しました」


「ちょ、離せ! 離せって!!! だからアンタを家に置いて行ったのに! なんで来てるのよ!!!」


 男子と目が合った。


「えっと、リックです」


 ぺこり。

 なんだか他人の気がしない。

 女の子に振り回されてるところとか。


「セバスチャンです。勇者様」


「リックでいいよ」


「私もセバスチャンで」


 向こうも同じものを感じたのか握手。

 ほらー!

 友だちできるじゃん!!!

 みんな大げさなんだよ!!!


「こらー! 私を無視するなー!!! っていうかセバスチャン!!! 小脇に抱えるのやめろ!!! おい聞け!!! 聞けー!!!」


 カーラも残念な子なので仲良くできそうな気がする。

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