第36話
開講の日。
入学式が開かれた。
徒歩20秒。
家のド前に学校はある。
学校に入ってからが結構長い。
調子にのって200年くらい前の建築様式の修道院を作った。
……観光地の。
宮殿っぽい上に高いやつを。
内装は実用的で各種実験や運動もできる。
さすがに庭を整えるのは俺たちじゃムリなので、国が雇った庭師が季節的に手に入る木を植えて体裁を整えた。
数年間は庭をいじり倒さないといけなくなった。
国の金だけど!
そんな学校に王様がやって来る。
高そうな服。
高そうなマント。
高そうな王冠。
宝石をジャラジャラつけて、金銀の装飾だらけ。
いつもより5割増しで悪趣味だ。
こういうのは遠くから見ても、誰でもわかるように配慮されてるものだ。
近くで見て悪趣味なのは仕様上しかたない。
「諸君、入学おめでとう」
王様は講堂の講師用席で立ってスピーチ。
少し高くなっている。
俺は真ん中当たりに座っていた。
男爵とか子爵の家の子が座ってるところだ。
その中でもつい最近子爵になったばかりなので末席に座る。
ラクエルは俺の隣。
すぐ後ろは騎士や商人だ。
ジャックくんやオリヴィア、それにシェリルやミザリーも後ろだ。
ミザリーは本人が王宮に勤めてるから男爵家相当のはずなんだけど……。
なにか理由があるのだろう。
王様の方を見ていたら坊主頭が目についた。
兜の金具に引っかからないような髪型だ。
騎士の家だと多いんだけど、長髪が多い貴族の家じゃ珍しい。
……よく見たらトマスだった。
トマスの家は男爵家でも古い家みたいで前の方。
ただあれほど太っていた体がシュッとしていた。
……そうとうしごかれているようだ。
俺は思わず自分の頭をなでる。
貴族には珍しい短髪。
ただ、稽古で使ってるのは金具の多いフルフェイスのヘルメットじゃない。
傭兵や民兵が使う帽子型のやつだ。
なので、あそこまで髪の毛を切る必要はない。
そもそもフルフェイスのヘルメットだって、巻き込み防止用のバンダナがあるはずだ。
教える方が【怪我する前に髪の毛切っちゃえ】って主義なだけで。
王様のスピーチが終わる。
すると王様が手招きする。
俺じゃねえな。
すると一番前に座ってた女の子が壇上に上がる。
誰かと思ったら王様の娘、アンちゃんだ。
「皆の衆! 我が娘、新入生代表のアンだ! よろしく頼むぞ!」
「アンでございます」
アンは恐ろしくキレイな礼法で挨拶した。
前に会ったときよりももっときれいな礼法だ。
これが気品か……。
ラクエルを見た。
「きれいだねー♪」
なんだか安心した。
アンちゃんの挨拶で式典は終了。
今度は説明会が始まる。
そこに現われたのは神殿騎士のアルバート先生と王国軍経験者のカール兄ちゃんだった。
「神殿騎士のアルバートです」
「元王国軍第三騎士団小隊長カールです」
兄ちゃんが挨拶すると「わーッ!」と騒がしくなる。
「あれが有名な騎士カール……」
年上の男の子がつぶやいた。
カール兄ちゃん……有名人じゃん!!!
「おい、あれ騎士カールだぞ。うちの家が獲得しようと思ったら逃げられてた」
逃げ足の速さがあだになったか……。
「うちも【義理があるんで】って断られたらしいぞ」
これは父さんが犯人だな。
「アルバート卿も有名人だぞ」
これは初耳だ。
いやただ者ではないとは思っていたけど、やはり化け物クラスの強者だったか。
「なんでも前の戦争で帝国の兵に囲まれた修道院を一人で守りきったとか」
先生……やはり化け物だったか。
「おい、見ろよ。一般生徒のところに次期聖女のシェリル嬢がいるぞ」
「嘘だろ。それにそこの小さいの。マクレガー卿の長男だ」
「勇者だって?」
「ああ、聖女様が認定されたらしいぞ」
「聖剣抜いたらしいぞ」
そういや聖剣の存在忘れてたわ。
どうなってるんだろう?
「ごほんッ!!!」
カール兄ちゃんがわざとらしい咳をした。
「諸君は疑問があるだろう。勇者のことや聖女候補のこと。それは本人に直接聞けばいい。これを機に仲良くなりなさい」
あ、こっちにぶん投げた!!!
まあいいけどさ。
友だち作るつもりあるし。
と思ったら、みんな一斉に俺を見た。
「どうもマクレガー家のリックです」
立って貴族の礼。
だいぶ上手くなった。
「みんなと仲良くできたらと思います」
俺はそういうと次にラクエルが立つ。
「マクレガー家のラクエルです」
こちらも上手に挨拶。
するとシェリルが立って挨拶。
次にミザリーが挨拶した。
そしたらあとは自己紹介の流れだ。
50人もいない。
サクサク進んでいく。
最後はアンちゃんだ。
「アンです。王の娘です」
知っとるわ!!!
というツッコミを入れるようなものはいない。
やはりトマスがアホだっただけなんだ……。
自己紹介が終わる。
「挨拶はすんだな。この学校は王都の学校とは違う視点で諸君を育成する学校だ」
男の子が手を上げる。
黒髪の騎士の子だ。
「違う視点とはなんですか?」
「いい質問だ。実験的で先進的な教育だ。要するに最新の訓練や学問を学び、これからの社会を背負う人材を育成する。官僚や騎士になりたいものにも有利だ。他の分野も横断的に学習する」
「例えば教会騎士のカリキュラムもやるということですか?」
「そういうことだ」
「教会に染まりすぎるのでは?」
「安心したまえ。それはない。王国と教会どちらの思想も教えよと命があった。どちらがいいか、諸君らが選べばいい」
「王国はそれを許していると?」
「許すも何も王国公認だ」
「わかりました。ありがとうございます」
納得してくれたらしい。
するとラクエルが立つ。
「みんな! よろしくね!!!」
なんか癒やされた。
うん、癒やされるよね。
みんなほわーんとしてた。
聖女の婆ちゃんが声をかける。
「では寮生は寮に。その他の子は帰っていいですよ~」
俺は当然寮生ではないのでラクエルと帰る。
そういや貴族が住む家たくさん作ったな。
おかげで父さん途方にくれてたよ。
家賃収入で入ってきたお金の山に……。
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