第33話

 三日ほどして王国軍がやってきた。

 千人はいる。

 こりゃ移動するぞって準備するのに時間がかかったな。

 人数が増えれば増えるほど準備期間が必要なものだ。

 犯人を引き渡す。

 管理が面倒になったので即席の檻を作った。

 三階建ての檻だ。

 俺とラクエルが檻を作るのを見て、公爵派一同は逆らうのをやめた。

 ドラゴンでも壊すのが難しい強度だしな。

 引き渡しが終わると王国軍の隊長に呼び出される。

 なぜに俺?

 呼び出されたテントに行くと父さんと兄、それに聖女の婆ちゃんもいた。

 隊長と思われる男性が立っていた。

 インテリっぽい外見だ。

 ユーシス兄ちゃんみたいな感じだけど……カール兄ちゃんより強い?

 ほぼ勘だが間違ってないだろう。

 男は俺に頭を下げる。


「まずは子爵殿と勇者殿に感謝を」


 殿ってわざわざ言うってことは同格かそれより上かな。


「本作戦の責任者に任命されたダービー伯爵です」


 はい上。

 めちゃくちゃ上!

 ランク自体は一つだけど、子爵と伯爵じゃ天と地ほどの差があるタイプの格上!

 うちだと戦場で伝説クラスの活躍しないとたどり着けないほどの差!

 閣下だ! 本物の閣下!

 先祖辿ると必ず武勇伝がいくつも出てくる本物の名家!

 たぶん、俺の出世確約のデマを信じてへりくだっているのだと思われる。


「閣下。ありがたき幸せ。これからも国家のために粉骨砕身働く所存です」


「……勇者殿……貴殿は本当に子どもなのでしょうか?」


 最近そういう風に言われることが多すぎである。

 そんなことを考えていると、伯爵はゴホンとわざとらしい咳をした。


「……それで、本題を。単刀直入に言いますが、この砦を譲ってもらえないかと」


「はあ」


 そんな話か。


「いえ! 私も魔道士。秘伝の領域にある魔法だとは百も承知。されどこれほどの建造物を使わないという選択肢は指揮官として選択できず……失礼とは思いましたが許可を頂こうと……」


 なんだか困ってる。

 後半声が小さい。


「別にいいですよ」


 なぜか集まっていた大人たちが胸をなで下ろした。


「そうですか!!! いや! よかった!!! 陛下にもご報告させていただきます。ええ、私の名前でよければ感状はいくらでも添えさせていただきます!!!」


 なぜか手を取ってブンブンされた。

 うーんわからん!!!


「誰か解説して」


 すると父さんが解説してくれる。


「お前はここをキャンプだと思ってるだろ?」


「うん」


 柵と生活用水引いただけだしね。

 飲料水を確保しないと長期生活は難しい。


「普通の人から見ればちょっとした街だし、軍人から見れば砦だ」


「水ないのに?」


「井戸を掘ればいい。それだけで数百人が暮らせる街になる」


「建物ないよ」


「それも作ればいい。なんにせよ途中までできてるから安いし安全だ」


「ふーん、断る理由ないからいいよ」


「お前ならそう言うだろうと思ったよ。では閣下、あとはお願いいたします」


「ええ。引き継ぎました。あと勇者殿」


「リックでいいですよ。閣下」


「ではリックくん。街の買い取り金額はあとでお家に送りますので」


「買い取り?」


「ええ、法的には開拓したものが所有権を持ってますので」


「えっと……土地は誰の?」


「誰も持ってなかった土地なのでリックくんのものです」


 いらねえ!

 家から遠いところに飛び地で領地持つとか悪夢でしかない。

 書類上、王様からもらったことになるし、盗られたら責任問題だ。

 いらねえええええええええええッ!!!


「いらないです」


「で、しょうね。そう言うだろうとお父上が仰ってました。ではこちらにサインを」


 それは契約書だった。

【王国が建造物を買い取り、土地を開拓した努力に報償を与える】と書いてある。

 土地ではなく建造物というところが重要なのだろう。

 元から土地は王様のものという建前だから。

 サインしたら土地の所有権はなくなる。

 なぜなら国のために開拓したから。

 国はそれに報酬を与え、建造物を買い取ると。

 ここで断ると王様クソヒゲのメンツを潰すことになる。

 売っておいた方が賢明である。


「なるほど……ちゃんと理解してる。噂は本当のようですね」


「なにが?」


「アズラットも言ってたが、お前には常識を学んでもらわんとな」


 父さんがあきらめた顔をした。

 ひどいのだが。

 こうしてなぜか売却して終了したのである。

 で、あとは目だったトラブルなく領地に到着。

 領地に着くと大人連中に捕まった。

 勝手に作った公園のことだ。


「さて……行くぞ」


 アズラット兄ちゃんに逃走防止のハーネスをつけられる。


「疲れてるんだけど」


「そんなの許すかよ!!!」


 シェリルも聖女の婆ちゃんに捕まっていた。


「リック……私も捕まった」


 シェリルは一応知っている。

 騎士候補のジャックも捕まった。

 仲間で知らないのは……オリヴィアだけだろう。

 いや教えなかったんじゃない。

 たどり着けないから教えなかっただけだ。


「オラ! キリキリ歩け!!!」


 ラクエルも一緒に腰にハーネスをつけられてる。


「うわーい! 囚人ごっこ!」


 喜んでるようだ。

 森の浅いところに作った公園まで案内させられる。

 カール兄ちゃんは一目見て杭の価値に気づいたようだ。


「この杭の山……」


「こうやって使うんだよ」


 杭の上に立って歩法を見せる。


「……これいいな」


 くくく、堕ちたな!


「だが……俺、言ったよな? 技術の前に懸垂しろって」


「ふぁ?」


「こんなもん作れるやつに技術なんぞいらんのだ! 筋肉つけろ!!!」


 結局フィジカル頼りである。

 そのフィジカルがまだないんじゃ!!!


「で、カール。これどうするよ?」


 父さんが聞いた。


「使いますよ。うちの兵の練兵場として。強い兵はこれからいくらでも必要でしょ?」


 結局使うんかい!!!

 という俺の心の叫びはいったん置くとして、なんか不穏になってきたな。

 こんなんなら子爵とかいらなかったな……。


「それとリック、今夜から夕飯おかずが一品増えるぞ。国から金が出るからな!!!」


「子爵バンザイ!!!」


 完全に食い意地に負けたわけである。

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