第32話
公爵軍を捕まえた。
逃げたのはかなりの数。
逃げ損なって捕縛されたのも数百人もいる。
雑兵はここで殺して埋めるのが普通らしい。
でも今回は人数が多すぎるので却下。
国軍の騎士からすれば追い払いはできるとは思っていたらしいが、圧勝するとは思ってなかったらしい。
数百人もの捕縛となると数倍の人数を用意せねばならない。
幸い国軍が近くにいたため、彼らと合流することになった
しばらく泊まることになったのだ。
森から出て平原に野営地を設置。
で、前々から試してみたかったことをする。
まず柵を作らないと野生動物や魔物が入り放題になる。
だけど、これがとんでもなく重労働である。
なので柵の代わりに土属性の魔法で壁を作る。
泥遊びはラクエルとエスカレートするまでやったので得意だ。
「ラクエル! 泥遊びするぞ!!!」
「おおー♪」
女の子形態になったラクエルはぴょんぴょん跳ねた。
まずは泥を隆起させる。
「芯入れるよー!」
ラクエルが土の中の硬い成分から芯を錬成する。
こういうのはラクエルの方が上手い。
芯を入れたら乾燥。
正確には薬を作るときの反応みたいなものなんだけど、それを起こして固める。
「待て、それなんだ? 俺は教えてないぞ」
ちっ、バレたか。
アズラット兄ちゃんにバレた。
「思いついたの
笑顔で誤魔化そう。
アレだけは発覚を防がなければ……。
「嘘つけ! 作りなれてるだろ!」
「……怒らない?」
「言ってみろ。中身で判断する」
「領地の森の中に遊び場作った……」
ラクエルとアイデアを出し合って作った遊び場だ。
ブランコでしょ。
滑り台でしょ。
あとアスレチックでしょ。
あと歩法の訓練用の杭がたくさんある。
杭は立ち方の歩幅になっていて杭の上を歩くと歩法を憶えられるものだ。
ラクエルに貸してもらったモンクの訓練法の本に書いてあったものを騎士風に再現した。
力作である。
でも発覚したら絶対怒られる!!!
「……あとで見せろ」
「怒らないなら」
「逆に褒められるかもしれないだろ」
そうかな?
そうかもしれない。
「じゃあ見せる。帰ったらね」
「お、おう。ところでよ。こりゃなんだ?」
「ラクエルに借りた本に出てたやつ。ドワーフの技術みたいよ」
ドワーフやエルフは少数民族だ。
人間よりも長命で独自の文化と技術を持っている。
体も丈夫で、人間の上位種族と言われている。
ただ、たいていの強い生き物は数が少ない。
とんでもなく強いエルフやドワーフも同じだ。
極端に数が少ない。
悲しいかな。
ありとあらゆる面で人間より優れている彼らが世界の覇王になることは不可能なのだ。
ドラゴンが世界征服を為し得ないのと同じだ。
エルフやドワーフは国を作るほど多くないので、たいていは国家に保護されて自治地区で暮らしている。
ごくたまに人里に来るものもいるが、少なくとも俺は会ったことない。
「なんだその胡散臭い本は!?」
「でもエルフ語でドワーフの技術のことが書いてあるから本物だと思う」
エルフは同じ少数民族のドワーフに興味津々だ。
共通点や違いを探しては本にまとめている。
エルフはドワーフを近縁種だとみなしているようだ。
なおドワーフはエルフにそんなに興味ない。
ドワーフの興味は技術と酒に向けられている。
「待て待て待て……お前、エルフ語読めるの?」
「教会のエルフ語版の聖典あったから。あれどれも同じ内容だから、普通のやつと見比べればだいたい憶えられるし。頭の体操で面白いよね。あ、でも話せないよ。発音わからないや」
アズラット兄ちゃんが額を押さえている。
「もしかしてお前、聖典暗記してるの?」
「暗記はしてないよ。どこになに書いてあるかわかるくらいは読み込んでるけど」
アズラット兄ちゃんはその場にしゃがみ込む。
どうしたん?
貧血?
「嘘だろ……我が弟子の恐ろしさのレベルを間違えてた……」
「なんで~」
「もしかしてドワーフ語も……」
「うん、読めるけど。あ、でも、教典古いやつで氏族独特の方言があるらしいんだ。なんだっけ、エルダードワーフ語?」
「ぐはッ!!!」
なぜかアズラット兄ちゃんにダメージが入った。
「リック……あのな。あとで論文。いや本を書け。全面的に手伝うから」
「なんで?」
「エルダードワーフは滅んだんだ。数百年前に。人間でエルダードワーフの言葉が読めるの、たぶんお前だけだよ!!!」
「ほう……」
よくわからない。
そりゃ手伝うくらいはするけどさ。
「あのな……お前の知識で先史文明の遺跡とかが動くようになるんだよ!」
「あー、メンテナンス? ラクエルの持ってきた道具ならいくつか直したよ」
するとアズラット兄ちゃんはとうとうその場にへたり込んだ。
「どうしたん?」
「……わかった。俺たちが全面的に悪かった。みんなと相談してお前とラクエルに常識を教える」
なぜにー!!!
もうしかたないので作業開始。
野営地を壁で囲って簡単な門を作る。
ちゃんと作ると重すぎて開閉がたいへんなので門は骨組みだけ。
それだけだと数日滞在するのはつらい。
近くの川から水を引く。
これは日常に使う水。
飲食に使う水は魔道士の仕事だ。
これでだいぶ生活できるようになったと思う。
「砦作ったのか……」
「砦?」
「どう考えても砦だろ?」
防御機構あり。
確かに砦だ。
そこまで考えてなかった。
「お前を連れて行けば敵の陣地の前にいきなり砦を作ることも可能か……」
「やめて、そういうのミミでもできるじゃん!」
「ミミはそこまでしねえ! お願いしても建材出すとこまでしかしねえだろ! しかもお前とラクエルの言うことしか聞かないし、隠れようと思ったら他の場所に転移して誰も捕まえられない。でもお前はちゃんと対価払えば言うこと聞いてくれるだろ?」
「おうふ……」
反論できねえ。
こうして砦は完成したのである。
実際、感謝はされた。
兵器としてどん引きされたが。
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