第31話

 その姿はまさにドラゴンだった。

 見かけたときよりかなり大きくなった。

 狩猟犬よりも大きい。

 そんなラクエルが飛んでくる。

 あれ?

 音がおかしい。

 ごおおおおおおおおおおおッ!

 って音がしてるんだけど。

 ラクエルはあり得ない速さで俺たちのすぐ上を飛んだ。

 次の瞬間、そう次の瞬間だ。

 音の方が後だった。

 音が俺たちを襲う。

 俺は地面に飛ばされる。

 受け身!!!

 歩兵でよかった!

 馬だったら怪我してた。

 当然馬に乗ろうとしてた勢は馬ごとコケまくる。

 俺たちの側はすでに馬に乗っていたから大丈夫だったが、敵側はかなりの人数……というか騎兵はほぼ全滅だ。

 馬の下敷きになったり、鐙に足を引っかけて馬に連れさらわれてどこかに行ったりしていた。

 もちろん歩兵の方もパニックになって逃げ出した馬に跳ねられるものが多数出た。

 ただ飛んだだけでこの被害。

 もしかしてドラゴンって本当は挑むこと自体が自殺行為なのでは?

 俺は後ろを見た。

 我が軍の騎兵は潰れてない。

 ちゃんと訓練するとここまで違うのか。

 国軍は当然としても、カール兄ちゃんの部下も負けてない。

 ここまで差があると本来なら地方の軍が中央に逆らうのは不可能なのだろう。

 ノウハウの流出はほとんどできないようにしてるし。

 カール兄ちゃんがレアケースなだけだ。

 なんにせよ、これで厄介な騎兵は潰せた。

 歩兵は騎士の兄ちゃんたちに任せて、後衛の魔道士をなんとかしなければ。

 魔道士は小さな炎、たぶんファイアボールを乱発していた。

 山型の起動で遅い弾を放っている。

 それじゃ当たらんだろ。

 矢に火だけつけて普通に撃った方がまだ当たる。

 いつの間にか後ろにアズラット兄ちゃんがいた。


「後衛潰すぞ」


 やはり考えることは同じだ。


「相手は当たらないファイアボールをひたすら撃ってる。なにかの作戦かもしれない」


「……リック……それは作戦じゃない」


「うん?」

「ほとんどの魔道士が使える魔法は一つだ」


「ほう……俺のドラゴンブレスみたいな?」


「違う。お前の場合、それが得意なだけで他の魔法も使える。ほとんどの魔法使いは一つの魔法しか使えないんだ」


 そう言いながらアズラット兄ちゃんは助走をつけてから跳んだ。

 飛行魔法だ。

 正確には跳躍のための肉体強化と滑空だ。

 ラクエルのように自由に飛び回る魔法ではない。

 でもこれすらも最先端の研究の成果だ。

 俺も跳ぶ。

 するとラクエルが俺を口でくわえた。


「乗って!」


 自分に背に乗せて高度を上げていく。


「ねえリック。この間のアレやろ!」


 アレといえば……この間、遊んだときに考えたアレか。

 もーあのセリフを待ってるんだな。

 しかたない。

 俺はラクエルの背に立って腕を組んで偉そうに立った。


「愚かな人間よ! 光と闇の恐ろしさをその身に刻み込んでくれる!!!」


「ぎゃおおおおおおおおおおんッ!!!」


 ラクエルの口が光った。

 闇のドラゴンブレスだ。

 そこに俺の光を足す。

 あと爆発を足したいので火と水っと。


「獄炎聖魔砲!!!」


 名前はいまいちだ。

 だが威力は折り紙つき。

 領地の森の一部をハゲにしてしまったほどだ。

 今のところ犯行はバレてない。


「ドラゴンブレスが来るぞおおおおおおおおおおッ!!!」


「に、逃げろおおおおおおおッ!!!」


「ま、間に合わない!!!」


 どんッ!!!

 着弾、爆発した。

 魔道士もほぼ全滅。

 土属性でとっさに穴掘って隠れればよかったのに。

 その程度できるだろ。

 すると弓兵が見えた。

 こっち向かって矢を放つつもりか?

 だが次の瞬間、弓兵たちが凍っていく。


「リック、脇が甘いぞ!」


 アズラット兄ちゃんに怒られてしまった。

 兄ちゃんは飛行魔法で爆発を避けて、そのまま広範囲を凍らせたわけだ。

 やっぱり兄ちゃんのが標準じゃないかな?

 公爵の部下がろくなのいなかっただけで。

 兄ちゃんだって訓練じゃ【このレベルはできて当然】って言ってたし。

 でもなんでさっきは【普通できない】っていつもと違うこと言ったんだろ?

 後で聞かなきゃ。

 ラクエルはニコッとして背中に乗せてる俺の方を向く。

 目をキラキラさせて俺に言った。


「もう一発撃ちたい!!!」


「いいぜ!」


 というわけでもう一発。

 えっとこのときのセリフは……。


「愚かな公爵一味よ! 我が怒りの炎を喰らうがいい!!!」


 なんか悪役っぽいセリフだなとは思ってる。

 ラクエルは大きく息を吸う。

 最後に残った歩兵たちが「いや無理! 降参するから!!!」って武器を投げ捨てた。

 ごめんね。

 こっちも止められないんだよね。

 どんッ!


「ぎゃあああああああああああああッ! 逃げ、逃げ、に!!!」


 歩兵たちが吹っ飛んでいった。

 鎧着てるし死なないと思う。


「もう一発♪ もう一発!!!」


 ラクエルは足を踏み踏みしてる。

 しかたないなあ。


「もう一発行くぞ~!!!」


 なお三発目は想定してないためセリフなし。

 どん!!!


「もう! やめぎゃあああああああああああああッ!」


「お前ら鬼だろ」


 アズラット兄ちゃんの声がした。

 下を見たらラクエルの足にロープを引っかけていた。


「ごっこ遊びで作った魔法撃ってみたいじゃん!!!」


「ごっこ遊びでそれか。さっきの話だけどな、魔法使いならそれくらいできるって言ったやつな。全部嘘だわ。実際は目くらましの魔法を使えるだけでエリートなんだわ」


「ふぁ?」


「ほとんどの魔法使いは当たらない魔法を手数で撃っていくスタイルなんだよ。弓兵の劣化版。火攻めするときは活躍するって程度かな」


「ふぁ?」


「シーフならミザリーレベルで天才、魔法使いならドラゴンブレスが使える時点でお前は人外だ。騎士に関しちゃ思春期を迎えてないから天才レベル。大人になりゃ国一番の剣豪だって目指せるぞ」


「どういうこと?」


「少し教えりゃなんでもできるようになるから面白くてよ」


 そんな理由?

 こうして襲撃の夜は俺たちの蹂躙で終わったのである。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る