第30話

 ヒース兄ちゃんとミザリーが後ろにいる。

 主にドラゴンブレスを阻止するためだ。

 俺は森の闇に紛れていた。

 森のすぐ近く、開けたところに騎士たちがいた。

 家紋が描かれている旗を立て、なんだか盛り上がっている。

 酒盛りしまくってる。

 隠れなくても見つからないだろう。


「皆の衆! 偽勇者を倒し、公爵様を王にするのだ!!!」


 お、おう。

 俺を倒すと公爵が王になるって部分が全く理解できないのだが?

 俺を殺しても公爵じゃ王様クソヒゲに勝てないと思うよ。


「我々の国を取り戻すのだ!!!」


 指をさしてミザリーを見る。


「僕にもわからないから。その顔やめろ」


「俺は騎士団に敵の状態を報告してくる。ガキども大人しくしてろよ」


 ヒース兄ちゃんが仲間の方に戻ってくる。

 さーて罠仕掛けとこうっと。

 まずはマキビシと。


「君は基本に忠実だね……」


「地味だけど一番効果があるからね」


 おっと蜂の巣みっけ。

 ひもに足引っかけたら巣が落ちてくるようにしとこうっと。


「凶悪すぎる……」


 さらに敵が森を突っ切ろうとしたとき用に草を結んで、コケそうなところにヒシをまく。


「……君のやり方は勉強になる」


「習ったとおりだけど」


 一通り終わるとヒース兄ちゃんが帰ってくる。


「先制攻撃の許可が出た。リック、攻撃したらお前はすぐに下がってカールと合流。俺たちは後ろから追う」


「どういうこと?」


「騎士として戦え」


「騎士じゃねえんすけど」


「子爵家の長男なんだから自動的に騎士になるの」


 うっわー。

 めんどくさ!!!

 しかたない。

 これ投げたらカール兄ちゃんのとこ行こう。


「それじゃ投げるね!」


 火をつけて振りかぶって……。

 ふんがッ!!!

 焙烙玉は弧を描いて敵の陣地の真ん中に落ちた。

 敵は酒を飲みながら飲めや歌えの大騒ぎだった。

 それが一瞬で地獄絵図に変わる。

 小さく爆発した焙烙玉が目つぶし粉をぶちまける。


「なんだ!!! 目が目があああああああああッ!!!」


「ぐあああああああああッ」


「誰だ!!! ぶっ殺してやる!!!」


 だがこの玉の責め苦はまだ終わってなかった。

 遅れて中から圧縮されたガスが噴射される。

 ガスは目や鼻にしみる……というか軽く火傷するものらしい。

 酸かな?

 アシッドクラウドの魔法を入れたのかもしれない。

 動物のゴールデンな玉の皮に詰めたんだって。

 火をつけると玉の皮が破裂してガスが噴出されると。

 非殺傷性だけどひでえ武器。


「ぎゃあああああああああああああッ!」


 悲鳴を上げながらおっさんが焚き火に突っ込んだ。

 うお、危ねえ。

 別のおっさんは樽を持ったまま火の中に……。

 焚き火が爆発した。

 酒じゃなくて油の樽だったか!


「行け、リック」


「うっす」


 俺は森を突っ切って味方の馬車へ向かった。

 自分で仕掛けた罠の位置など全部把握している。

 サクサク戻ってカール兄ちゃんを見つける。


「カール兄ちゃんただいま!!!」


 そしたら父さんもいた。

 鎧を着てる。

 防具からちょっと肉がはみ出している。

 体型を維持しないとこうなるんだね。


「リック、着替えろ。騎士としての初戦だ」


 うっわー。

 騎士としてか。

 あまり自信ないな。


「ほれ」


 父さんが棍を渡してきた。


「剣じゃないの?」


「剣も持たせる。でもリーチが長い武器が必要だ」


 なるほどね。

 棍は鉄製。

 練習用じゃない。

 騎士たちが来て、俺に鎧を装着する。

 子ども用の鎧だ。

 でもサイズが小さいだけで弱い鎧じゃない。

 ブレストプレートだ。

 下には鎖かたびらを着る。


「ヘルメット被れ」


 ヘルメットを渡される。

 ヘルメットはやたら派手なものだった。

 赤や黄色、緑や青に染色された羽でデコレーションされてる。

 さらに額の飾りに家紋が刻まれていた。

 指揮官と一目でわかるデザインだ。

 真っ先に狙われるわけだけどね。

 首の部分に鎧の上から鋲の打ってある革のチョーカーを装着。

 マントを着けて完成。


「重くないか?」


「これで動けないほどやわな鍛え方してないよ」


「じゃあ乗れ」


 父さんの馬に相乗り。

 なお父さんも軽装。

 ただし旗を背中につけている。

 たぶん指揮官見つけて突っ込んできた連中を周りの騎士でボコボコにする作戦だろうな。

 馬も装甲をつけられている。

 高級品だもんね。

 馬で森を迂回して移動する。


「森はお前の罠だらけだからな……」


 なるほど。

 森を迂回して行くと燃えていた。

 嘘だろ……。

 催涙ガスだけでこの状態よ。


「ひ、卑怯者どもが来たぞ!!!」


「うおおおおおおおおおおお!」


 涙目のおっさんたちが俺たちに突っ込んできた。

 俺悪くないよね。


「指揮官がいたぞおおおおおお!!!」


 あ、これは俺たちが目立ちすぎたせいだわ。


「じゃ、降りるね」


「あ、おい!」


 俺は馬から飛び降りる。

 このままじゃ邪魔になるだけだしね。

 俺は鎧を着たまま前に出る。

 周りに騎士がたくさんいる。

 安全な位置だ。


「死ねえええええ!!!」


 おっさんが剣を振り上げてきた。


「ホイ!!!


 棍で横薙ぎ。

 ガラ空きの胴をぶん殴る。

 矢が見えた。

 回転してマントで矢を叩き落としながら後方に飛ぶ。


「や、矢を防いだ……ば、化け物か!!!


「あんな化け物がいるなんて聞いてない!!!」


「まだだ! まだ魔法を使ってない! やつの本気はまだだ!!!」


 どうやら塔にいた貴族の残党がいるようだ。

 家臣だけだったらこの殴り込みも正当性が多少あるんだけどな。

 犯人がいるんじゃダメだよ。


「犯人もいるみたいだから魔法使ってもいいよね♪」


 今回はコントロールが効いてる。

 キレてないよ。

 全然キレてないですよ!!!

 我がケツの痛みを思い知れ!!!


「ドラゴンブレス!!!」


 今回は貫通より爆発多め。

 適当に転がせばいいや。

 ドラゴンブレス発射!!!


「ぎゃあああああああああああああッ!」


 着弾。

 おっさんたちが吹っ飛んだ。

 森からも悲鳴が上がる。

 罠にかかったな。


 そして空からやって来るのだ。


「リックきたよー♪」


 我が相棒が。

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