第29話

 宮殿の4分の1ほどを崩壊させた俺たちは帰路につく。

 正直言うと損害賠償って言われたらどうしようかとビクビクしてた。

 だけど、王様の暗殺計画を阻止したため報償と相殺で許された。

 俺は無罪だー!!!

 式典だけはあったので帰りは予定より遅い時間になった。

 式典は宮殿の庭で行われた。

 ついでにヒース兄ちゃんの主任司祭の授与も。

 俺とラクエルとヒース兄ちゃん、それにミザリーがお褒めの言葉をもらう。


「よくぞやった勇者一行よ!」


 どさくさ紛れにミザリーも勇者一行にまとめられる。


「我の暗殺計画を阻止し、下手人を捕縛したこと! まことに天晴れ!!!」


 褒賞くれないって約束したからこれ以上はない。

 安心である。


「ついては公爵家など30家ほどの爵位と領地が宙に浮いたわけだが」


 オイコラ約束が違うだろ!!!

 そしたら王様はニヤッと笑ってこっちを見た。

 こっち見んな。ヒゲ抜くぞ。


「公爵は確保したぞ。楽しみにしてるぞ。リック」


 はい、【報償を今は渡さないけど予約したぞ】入りましたー!!!

 死ね!!!


「それとヒース。教会と我の名において主任司祭に任ずる。地域の責任者だ。励めよ」


「ははーッ!」


 これでヒース兄ちゃんは司祭に復帰。

 うちの領の筆頭シーフも兼任だ。

 シーフ偉い!

 というわけで宮殿はあちこち壊れてるので簡単な式だけで解放。

 馬車に乗る。

 俺にラクエルにミザリー。

 ……ミザリー、なぜいる?


「僕の任務は君の護衛だ。君がキレて暴れるのを防ぐのが任務だ」


 あくまで俺が暴れないための護衛である。

 俺の身の安全は全く考慮されてないと見た。


「とにかく僕と暮らしてもらう」


 まあいいや。

 うちも子爵になったし、一人くらい食客がいても問題ないだろ。


「はっはっは。婿取りとか言われたら困るとこだったぜ」


 ナイスジョークで場を温める。


「……」


 黙るな。


「……」


 お願いだから黙るな。


「……父上から婿に取れとは命じられた。でもラクエル友だち。僕、友だち悲しませたくない」


 ラクエルがミザリーに抱きついた。

 君ら仲良くなるの速すぎね?

 まあいいか、空気が重いよりは。

 帰りの馬車は行きよりも予定日数は少ない。

 悠長に遠回りする必要はないのだ。

 ルートも指定されてない。

 ただ神殿と国から派遣された護衛の騎士が増えた。

 そんなに警戒しないでもいいのに。

 足の速い馬車と馬で進む。

 馬を使い潰すようなマネをしなくても、これだけで速くなる。

 高い馬なので休憩を多めに取りながら進む。

 これは【やはり騎士の家系。物事をよくわかっている】と評判がよかった。

 だが彼らは知らない。

 うちの父さんは騎士ですらない。

 ゴリゴリの民兵だ。

 元から騎士扱いされてたが、正式な叙爵はされてない。

 騎士や男爵に叙爵するという約束も忘れられてすでに十年近く経過してる。

 そもそも領主であることすら忘れられていた。

 王都行ったら知らんうちに騎士ということになってて本人面食らってたぞ。

 なお子爵になった今では自動的に騎士である。

 数日後、王様と敵対してた伯爵の領地を通り過ぎるときが来た。

 あちこちに国軍の兵士が立っていた。

 反乱鎮圧のための部隊だ。

 反乱が起こる前に潰そうというつもりだ。

 やっぱり王様、そつがない。アホのくせに。

 で、この街は泊まらずに通過。

 住民に襲われたら困るし。

 中央の騎士たちもこの判断に賛同してた。

 なので野営。

 明るいうちに野営地にテントを張る。

 ラクエルと同じテントである。


「質問だけど。君らはいつも一緒に寝てるのか?」


 ミザリーに聞かれた。


「うん、ずうっと一緒に寝てるが」


「ねてるよー!!!」


 するとミザリーの顔が真っ赤になった。


「……えっち」


 そういうマジな反応やめて。


「不潔」


 傷つくからやめてください。

 それ地味にハートに来ます。


「ラクエル、僕と寝る?」


「お泊まり」


「うん女子会」


「ねるー!!!」


 あっさりラクエルを取られた。

 久しぶりの独り寝である。

 ラクエルもシェリル以外にも同年代の友人が必要だろう。

 オリヴィアだとラクエルの侍女みたいでなんか違うんだよね……。

 なおそれを口に出したら、兄ちゃんたち&父さんに


「お前の同性の友だちは?」


 と詰められた。


「いや出現しないんだから無理でしょ」


 そう言い返したら……そのかわいそうな生き物を見る目やめろ。

 今思い出しても腹立たしい記憶である。

 さてそんな夜半。

 気配で起きた。

 地面に耳を当てると遠くで馬の走る音が聞こえた。


「お前も気づいたか」


 いつの間にかヒース兄ちゃんが立っていた。

 遅れてミザリーがやってくる。


「変な気配が……もう起きてたか……僕また負けた」


 ミザリーは必要以上に落ち込んでる。

 ついでにラクエルも起きてくる。


「ごはん?」


「違う。襲撃だ」


 鳥と視界を共有する魔法は夜だから使えない。

 ようやくカール兄ちゃんと騎士たちが起きてきた。

 カール兄ちゃんは腰巻き一丁だ。

 寝るとき全裸だからな。


「どうしたヒース?」


「襲撃だ。ちょっと偵察してくる」


 そう言うとヒース兄ちゃんは闇に消えた。


「君のお師匠……ただ者じゃないね……里でもあんなに隠形が上手い人はいないよ」


 へへん。

 鼻の下ゴシゴシ。


「あれでも聖職者だよ」


「……君の周りは変な人ばかりだね。君も含めて」


「俺は普通だ」


「君より異常な子見たことない」


 ひどい!!!

 そんな茶番を経て少し待つ。

 するとヒース兄ちゃんが帰ってきた。


「公爵軍と伯爵軍、それに今回の件で粛正された家の関係者が百人はいるぞ」


「なんでわかるの」


「バカだから自分の家の旗立ててる」


「それにしちゃ数少なくない?」


 連合軍なら1000は兵を用意できたのでは?


「反逆になるのわかっててやるバカは少ないってことだ」


 まさにアホである。

 騎士たちは準備運動していた。

 真っ正面から行くつもりである。

 うーん、騎士の兄ちゃんたちが怪我したら面白くないな。

 俺はテントに戻る。


「なー、ミミ。なんか武器ない? 敵も味方も殺さなくてもいいやつ」


 ミミックのミミが口を開ける。


「これ使って」


 焙烙玉か。


「中に辛子とか灰とかが入ってるよ」


「ナイスゥッ!!!」


「いっぱいあげるね」


 箱いっぱいの焙烙玉を持ってテントから出る。


「それ……うちの里で最近開発された……」


 ミミさんよー、どこから盗んできたんだよ。


「おう、これ使って嫌がらせしてくるわ」


 さーてこれがシーフの戦い方よ~♪

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