第28話

 ヒース兄ちゃんは襲撃者の一人を腰に巻いていた布で縛り上げる。

 舌を噛まないように口の中に布を詰め込んでさらに猿ぐつわした。

 処置は完璧だろう。


「マクレガー家従士ヒースでございます! 陛下を傷つけようとした賊の一人を確保した! 引き取りお頼み申す!」


「あいわかった!」


「マクレガー家従士ヒースよ! 天晴れである!!!」


 王様は襲撃のショックで目がぐるぐるしてるのにちゃんと宣言できた。

 王様偉い。

 ただのクズじゃなかったんだね。


「マクレガー家長男リック、妻ラクエルよ! ヒース、ミザリーとともに我を守れ!!!」


「はッ!」


 非常に遺憾ではあるが、王様をとっさに守ってしまった。

 甘い自分に反省。

 次は見捨てよう。

 今は服従したフリだ。

 ……って待てよ。

 いまさらっとラクエルのこと【妻】って言わなかったか?

 さすがに年齢的におかしいだろ。

 そう思って王様を見ると、かつてないほど悪い顔をしていた。

 あ、やられた!

 わざとだ!

 クソ! 王様にはフィジカルでは完全勝利してるのに、こういう心理戦で勝てたためしがない!

 いつか見捨ててやる!!!

 歯ぎしりしてるとヒース兄ちゃんが大声を出した。


「おいそこ! 猿ぐつわを外すな!」


 おい、嘘だろ!

 騎士の一人が話を聞こうとしたのか猿ぐつわを外そうと手をかけた。


「や、やめ!」


 ミザリーも叫んだ。

 一瞬、男がニヤッと笑ったように見えた。

 次の瞬間、男が爆発した。

 俺はとっさにラクエルを抱き寄せて地面に伏せる。

 途中、ミザリーがボケッとしてたので服を引っ張って地面に伏せさせる。

 それがいけなかった。

 最後まで体を起こしてた俺の背中と尻にブスッとなにかが突き刺さった。


「痛てええええええええええええ!!!」


 それは釘だった。

 この痛さは釘に違いない。

 遊んでて釘のついた板を踏み抜いたことあるからわかる。

 骨に到達したキーンという痛みはない。

 たぶん骨は無事だ。

 折れた感じもしない。

 脱臼した音も体に響いてない。

 次は内臓だ。

 息を吸う。

 息は……大丈夫だ。

 肺に刺さったりはしてない。

 口から血は逆流してない。

 内臓も無事だ。たぶん。

 呼吸を整えて痛みをコントールする。

 これはシーフの技術じゃない。

 騎士の技術だ。

 別名やせ我慢。

 この速度じゃ魔法障壁なんて間に合わない。

 だが魔道士としては納得いかない。

 次は絶対防御してやる。

 帰ったら魔法障壁を執拗に練習しよう。

 あと王様はぶっ殺す。

 王様への理不尽なバッシングで痛みを意識から外す。

 これでまだ少しは動ける。

 絶対に泣くな!!!

 泣くこと自体が隙だ。

 安全になってからいくらでも泣けばいい。

 気合を振り絞り、振り返るとラクエルもミザリーも無傷だった。

 動ける。腱も無事だ。

 筋肉が引きつった感じはあるが、怪我の程度は中破。たぶん欠損はない。


「リック!!!」


 ラクエルが起き上がろうとした。

 俺は手を前に出して制する。

 まだ襲撃があるかもしれない。

 俺は腰に隠していたダガーを出す。

 ケツ痛てえ、ぶっ殺してやる……じゃなくて二人を守らねば……。

 王様はそこで死ね!!!

 全部てめえのせいだ!!!


「へ、陛下! 気を確かに聞いてください!!! ほぼドラゴンの方がキレました!!!」


 どうやらヒース兄ちゃんは陛下を守ったようだ。

 それにしても【ほぼドラゴン】ってなによ?


「え、それどういう……」


「ぐぎゃあああああああああああああああああッ!!!」


 あまりの痛みに俺は咆吼した。

 もうね、痛みから意識を逸らすの。これ以上無理。


「り、リック! 痛いの痛いの飛んでけ!」


 ラクエルがヒールをかけてくれたみたいだ。

 だけど、刺さったままなのよ。釘。

 いてええええええええええええええッ!!!

 あまりの痛みに俺は意識が飛んだ。

 そう、余計なことを一切考えない透明な世界の中で、俺は悪意を感じた。

 王様の話じゃない。

 犯人を見つけたのだ。


「ミツケタ」


「うわああああああああああ! 弟子が人間やめたー!!! おい、俺も今から全力でヒールかけるからな! それまで意識を保て!!!」


 オレ意識保ツ。

 ガンバル。


「まずは釘抜くからな! 大人しくしろ!!!」


 ムリ。

 ソレヤメテ。


「いち! ふん!!!」


「ふんぎゃああああああああああッ!!!」


 光が見えた。

 死ぬ前に見えるという何かなヤツ。

 そう、オープンザドア。

 光の先に……行けば楽に……。

 ってクソ野郎に報復してねええええええええッ!!!


「ドラゴンブレス最大出力!!!」


 目標は目の前の塔。

 悪意の根本がそこにいる。

 雑だが、あの塔ごとぶち殺せばいいだろう。

 というか、痛すぎてそれしかできない。

 俺は竜語で呪文を唱える。

 人間には咆吼にしか聞こえないうなり声。

 実は詠唱はあまり意味ない。

 デカいヤツを撃つので気合を入れているのだ。


「あああああああ! 陛下逃げて! お前らも! リックはマジで敵を殺す気だ!!!」


 殺す気ですが?


「お、おい! なにがあった!?」


 父さん到着。


「うちの子がブチ切れてる!!! 逃げろ! 逃げろおおおおおおおッ!!!」


 はい避難開始。

 もう撃っちゃっていいよね?

 いつもの光に火をプラス。

 さらに水を入れて爆発もプラス。

 トッピングマシマシにして、念のために地属性のアンカーを地面に打ち込んで反動を抑制っと。


「滅びよニンゲン!!!」


「殺しちゃだめー!!!」


 ラクエルとミザリーが抱きついてきた。

 そのせいで狙いが逸れる。

 あ、発射……しちまった。

 今まで聞いたことのないような轟音がした。

 体の芯まで振動し、心臓がまでもが揺れた。

 塔には当たらなかった。

 だけど当たらないのに、塔は崩れていく。


「塔が! 塔がああああああああッ!!!」


 王様の叫び声が聞こえた。

 お前は反省しろ!!!


 ……結果の話をしようか。

 死人は出なかった。

 直撃したら死んでいたが、外れたので大怪我だけですんだ。

 で、犯人だが、なんのひねりもなく公爵だった。

 気の早いことに王様抹殺を祝して同志15名とパーティーを開いていたわけだ。

 そこをドラゴンブレスで一掃。

 近衛騎士の裏切者30名ごと半殺しにしたわけである。

 めでたしめでたし。


「お前さ。それで終わると思う?」


 すっかりなれなれしくなった王様が言った。


「暗殺計画阻止したんだからいいじゃないっすか」


「我の計画じゃ三年かけて公爵おとうとの派閥を弱体化する予定だったの!!! 一滴も血を流さずにな!!!」


「誰も死んでねえじゃん」


 もうこちらも体裁を整える気はない。

 今だってケツ痛いから立ったままだし。

 ヒールは治るけど痛みが残るのだ。


「金銭的被害が恐ろしいことになってるけどな!!! そのおかげでお前関連の予算通し放題だ!!! ぶぁーか!!!」


「はあ、それはそちらの仕事ですんで」


「ウキー!!! むかつく!!!」


 なんだか最近、王様のこと似てるから憎悪してるんじゃないかって思ってきたわ。


「あ、お前、コードネーム【ほぼドラゴン】な」


「なにそのやる気ない名前!?」


「うるせえ! しばらく実家で大人しくしてろ! 王都に来んなぶぁーか!!! あ、お前の護衛ミザリーな」

「お、おう友だち用意してくれたんだ」


「そう取るか……汚れちまったな……我も……」


 遠い目すんな。

 イラッとするわ。

 もともと汚物だろうが!!!


「いいから帰れ!!!」


 というわけで帰路についたわけだ。

 そういや……あの虫のような殺気。

 誰だったんだろう?

 相当な手練れだ。

 捕まえた連中の中にいなかったな。

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