第27話

 王様のわがままでもう一泊。

 父さんも母さんも意味がわからないという顔をしていた。

 俺とヒース兄ちゃんは苦しい笑顔。

 王様を脅迫したなんて言えるはずもない。

 夜中、言われたとおり外に行く。

 ヒース兄ちゃんが待っていた。


「うっす」


「じゃねえ!!!」


 ぐわしと顔をつかまれる。

 アイアンクローだ。

 ヒース兄ちゃんは指が長いのでものすごく効く。


「おしおきな♪」


 ぎゃあああああああああああああッ!


 お仕置きがすむと反省会。


「そりゃさ、脅し方は教えたよ。でもよお、それは隣の領地の貴族とかであって、国王脅すんじゃねえっての」


「えー、でも逆に喜んでたよ。国王クソヒゲ


「うるせえ! で、勝負ってなんだ?」


「ミザリーだって。宮殿の警備してたシーフ。出し抜いたのが悔しいみたい」


「待て。それ死神ミザリーか?」


「知らない。そんなに年変わらなかったけど」


「嘘だろ……死神ミザリーを出し抜いた?」


「さっきから驚いてるけど誰?」


「王宮つきのシーフの頭領の娘だ。化け物って噂の天才だ」


「へー、なんで死神?」


「単純に強いんだよ。なんでも、お姉さんを怪我させた盗賊団に拉致されたフリして侵入して壊滅させたとか……正面から戦ったらお前らクラスだ」


 俺とラクエルくらいらしい。

 案外普通じゃね?


「【へー、案外普通じゃん】って顔すんじゃねえ! お前は興奮したドラゴンと遊んで無傷だろが! お前もすでに人外の域に入ってきたからな!」


「えー……」


 まあいいや勝負しよう。

 中庭に行くとニヤニヤした王様がいた。

 殴りたい。その笑顔。


「こちらは死神ミザリーだ」


 女の子が会釈する。


「僕を出し抜いたのはこの子?」


「勝負するんだって? なにする?」


「なら正面から戦闘で……」


 すると申し訳なさそうな顔でヒース兄ちゃんが手をあげる。


「あの……陛下。リックの師匠から言わせてもらいますが、そいつが本気になったら宮殿がなくなります。さらにラクエルが来たら被害が2倍になるかと」


「……え、それ本当?」


「神の名に誓って本当です」


「……はい。戦闘行為禁止!」


 あ、ビビりやがった。

 ヒゲだせえ!!!


「勝負は鬼ごっことする!!!」


 完全に日和りやがった!!!

 王様だせえ!!!


「今から! スタート!!!」


 はい不意打ち。

 でもやつの性格がおかしいのはわかっていたし、これも想定内だ。

 すうっと闇に溶ける。


「気配がつかめない! どうして!!! どれに見えない」


 そりゃね。

 光の魔法は得意だし。

 正解は、


【月の光を利用して遠くの俺をただそこに映してただけ。音は魔法でそこに飛ばしてただけ。実際の俺はすでに塔の上に逃げてたよ】っと。


 ただの姑息な手だけど効果は絶大。

 特にヒース兄ちゃんがアイアンクローしてくれたおかげで、そこにいるって思わせてくれた。

 実際は王様が戦えって寝言言った時点で逃げてたんだよね。

 シーフの心得。

 何事も正面から受けるな。


「どこ! どうして!!!」


 めちゃくちゃ焦ってるな。

 しかたない。

 適当な場所に石投げて音で気を逸らそう。

 ほい。


 小石を投げる。

 彫像に当たった石はカンッと音を立てた。


「そこか!!!」


 ミザリーがなにかを投げた。

 ゴツ、バキバキバキっと音がした。

 重量がおかしい。

 彫像が砕けていた。

 砕けた先には槍のようなものが突き刺さっていた。

 貫通?

 貫通した?

 ミザリーは鬼のようなスピードで走ってきた。

 そのまま石突きを握ると振り回す。

 先の剣が槍とは違い湾曲してる。

 あ、あー!!!

 薙刀だ!!!

 カール兄ちゃんが剣で戦うなって言ってたやつ!!!

 え、でも、今あの娘、彫像を壊してたよね。


「僕をコケにしたことを後悔させてやる」


 ……俺も甘かった。

 完全に見誤っていた。

 最初からミザリーは俺をぶち殺す気だったのだ。


「出てこい!!! ぶち殺す!!!」


 キレてる!!!


「やめてー!!! 彫像が!!! 彫像があああああああッ!!!」


 王様の悲鳴が上がった。

 お前は自業自得じゃい!!!


「そこかー!!!」


 ぶんっと薙刀が飛んできた。

 あぶな!!!

 別の塔に逃げる。

 元いた塔に薙刀が突き刺さった。

 塔が崩れる。


「我が悪かった!!! ちょっと天才の戦うところが見たかっただけなんだ!!! もうやめてー!!!」


「どこだー!!!」


 さっきの一撃。

 俺の居場所を把握してたわけじゃないのか。

 やべえぞこの娘。

 キレたら止められない。

 しかたない。

 スリープの呪文で眠らせるか……。


「スリー……」


「来たよ~!!! 遊ぼ!!!」


 あ、終わった。

 ミザリー以外はそう思っただろう。

 ラクエルが起きてきてしまった。


「あなた誰!!! 僕は忙しいんです!!!」


「ラクエルだよ!!! リックと遊んでるんでしょ、混ぜて混ぜて!!!」


 ピコピコ動いている。

 完全に遊ぼうモードだ。


「あ、いた!!!」


 なぜわかった!!!


「リック、行くぞー!!!」


 ラクエルは息を大きく吸う。

 闇の炎だ!!!

 ブレスが俺めがけて放射された。


「光よ!!! ドラゴンブレス!!!」


 光のブレスで攻撃して自分の周りだけを守る。

 ラクエルのより、こっちの方が貫通力は高いはず。

 逸れた。

 だがこれで終わらない。

 ラクエルの闇の炎が爆発する。

 だが俺は逆に爆発を隠れ蓑にして闇に潜む。


「うわーい!!! かくれんぼ!!!」


 俺がいたのは王様の影の中。

 くっくっく……俺がこんなアホなところに隠れてるとは誰も思うまい……。


「ど、どこだ! 僕と正々堂々戦え!!!」


 シーフなのに!!!


「どこだー♪」


 死んでも隠れよう。

 むしろもう部屋帰っていいっすか。

 と思ったそのときだった。

 殺気を感じた。

 酷く薄く、まるで虫のような殺気だ。

 ヒース兄ちゃんが王様に駆け寄る。

 俺も隠れるのをやめて姿を現す。

 それは矢だった。

 王様めがけて矢が飛んできていた。

 俺はそれをつかむ。


「え? なに? うそおおおおおおおおおッ!!!」


 王様が周回遅れの絶叫をした。

 同時に近衛騎士が何人もやってくる。

 あの人と、あの人は味方……じゃああっちのは……。


「お前だー!!!」


 俺より早くヒース兄ちゃんが不審者の顔面を蹴り上げた。

 俺たち、まずいことになってね?

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