第26話

 式典はすぐに終わった。

 父さんと、なぜか俺が王の前でひざまずいた。


「マクレガー卿、ならびに勇者リック・マクレガーよ。いまここでマクレガー家に子爵の称号を与え、リックには」


 勇者の称号ッスね。


「男爵を与える」


 はいいいいいいいいいいいッ!!!

 てめ、なにしやがってんだボケが!!!


「家長であるマクレガー卿には国境警備隊司令官の地位を与える」


 おま!!!

 それ子爵に与える仕事じゃねえだろ!!!

 伯爵の中でも超絶偉い辺境伯とかのウルトラVIPの仕事だろが!!!


「そしてリック」


 やめろ、俺に仕事を与えるな!

 さっきから公爵の目が怖いんだよ!


「ドラゴン管理官の地位を与える」


 え?


「ラクエルの世話を頼むぞ」


 そういうことか。

 ラクエルの世話に国から金出してもらえるわけね。

 そうなれば「ははー」と受けて終了。

 はっはっは。

 完全勝利だね。

 公爵が目だけキレそうになってるけど。

 笑ってるけど目だけ笑ってないの。

 顔芸やめてもらっていいですか?

 で、外に出ようとする。

 すると入り口で侍従さんに呼び止められる。


「陛下が別室でお待ちです」


 なんだろう?

 不安しかない。

 このまま良い気分で終わらせてくれないかな?

 部屋に行くと長い金髪の可愛らしい女の子がいた。

 同い年くらいかな?

 たぶん偉い人なので、こちらから挨拶。

 臣下の礼をとる。


「マクレガー家のリックにございます」


「ラクエルです」


「アンにございます」


 ちょこんとお辞儀。

 うお! 本物だ!

 見ただけで本物とわかる気品だ。

 俺たちにはマネできない。


「もしかして陛下の……」


「第二王女ですわ」


「本物のお姫様!!!」


 あ、ラクエルのスイッチ入った。


「うおおおおおおおおおおお! リック、本物のお姫様初めて見た!」


「ラクエル……最初に呼ばれた部屋に何人もいたよ……」


「え、でも……なんか怒ってて可愛くなかった!!! アンはかわいいよ!」


「ラクエル。様付け! 様付け忘れてる!」


「あ、ごめん。えへへへ」


「あら、いいんですよ。これからお友だちになりましょう。私もラクエルとお呼びしていいですか?」


「いいよー。アン」


「うふふふふ♪」


 なんだろうか……和む。

 変なヒゲの権力者とか、ホントは美形なのにひたすら顔芸してくる権力者とか。

 あと冬眠前の熊みたいにガンつけてくる令嬢とか。

 そういう世界はホントいらない。

 こういうのでいいんだよ!

 こういうので!!!

 平和最高!!!

 平和大好きー!!!

 するとまーたデリカシーのない足音が聞こえてくる。

 絶対わざとやってやがる。


「やあ、勇者よ!!!」


 魔王おうさまが来やがった。


「どうだ。我が娘は? その側室的に」


 もう黙れクソヒゲ!!!

 ラクエルが気づかれたら困るだろが!!!

 ほら、ラクエルも威嚇して……。

 あれ?


「アン、お姫様ごっこしよ」


「はい、ラクエル」


 ……おう。

 王様が俺の肩を叩く。満面の笑みで。

 あ、そういう態度。

 ふーん。そういうことするのね。


 復 讐 決 定 ! ! !


 もう容赦しねえ。

 そういうわけで深夜。

 俺は部屋を出て外壁を登る。

 界壁の通路に着くとヒース兄ちゃんがいた。

 俺は隠密する。

 世界に自分が溶けてその一部になるくらいに存在を薄くする。

 目の前を通り……。


「甘い!!!」


 棒手裏剣を投げてきた。

 とっさにかわす。

 音を立ててしまった。

 だが次の瞬間には冷静になって闇に隠れる。


「おいリック! 考え直せ!!!」


「いーやーでーすー!!!」


 そこか!

 と手裏剣を投げると俺の置いたダミーの人形に突き刺さった。


「……くっそ、どこにいるかわからねえ。やっぱり天才か」


 そのときには俺はすでに宮殿の頂上にいた。

 魔法で音声だけを人形に飛ばしていたのだ。

 くくく、シーフの技術に魔法を加えればできぬことなどない。

 さらに塔を登る。

 王の私室が見えた。

 なんで知ってるの。

 うん。すでに忍び込んだから。

 王の護衛のシーフと騎士がいた。

 正確には騎士は扉の前で、シーフは屋根の上にいた。

 女の子だ。

 若いのに実力者なのだろう。

 俺の方が腕は上だが。

 俺はシーフに気づかれないように侵入。

 ヒース兄ちゃんに比べれば出し抜くのは楽なものだ。

 私室には王様が寝ていた。

 メイドさんがいるが俺には気づかない。

 枕元にサフランの花を置く。

 シーフの世界の符号だ。

 意味は【調子にのるな】。

【いつでも殺せるぞ】という意味でもある。

 そっと置いて俺は闇に隠れ出た。

 次の日。


「……やってくれたな」


 ブチ切れる王。


「はてなんのことやら」


 しらばっくれる俺。

 なぜか俺だけ呼び出された。

 でもヒース兄ちゃんが密告しなきゃ発覚しないだろ。


「腕がよすぎる」


「はて?」


「……王宮シーフの頭領の孫だぞ。百年に一人の天才だぞ! それに全く感知されないなんて! お前しかいないだろが!!!」


 そういう見分け方!


「だいたいトラップはどうした!? 宮殿にはありとあらゆる罠があったはずだ!!!」


 は?

 ∞ミミックすらなかったが?

 しょぼい警報やら細い糸に引っかかると音が鳴るとか。

 釣り天井も槍が突き刺してくる床もゴーレムも毒ガスすらなかった。

 見えない光が体を引き裂くとか、突然床が底なし沼になるとかもない。

 あんなもん解除する必要すらないわ!!!

 魔法の錠前くらい置け!!!


「あんなもんトラップのうちに入らないですな」


「……完全にお前の能力の想定を間違えていた。今回は我の負けだ」


 勝利である。

 だが監視を増やされるのも面白くない。


「報復なんぞせんよ。公表したら山ほど処分せねばならなくなる。……だがやられっぱなしも面白くない。楽しみにするがいい。ちょうどいい立地に住んでるのと王の杖を取り戻したのが運の尽きだと思え」


 やだ怖い。


「それと……今日も泊まるがいい。もう一度忍び込め。ミザリー。シーフの頭領の娘が勝負を望んでる」


「その勝負、受けないダメですか?」


 双方だんだん態度が崩れてきた。

 本当はまずいんだろうけど。

 でもプライベートだから許されてるようだ。


「受けないと……泣くぞ」


「誰が?」


「ミザリーとアンが。二人は友人での」


「そりゃたいへんだ」


 女の子を泣かせるのは主義に反する。

 じかたないなあ。

 延長戦だ。

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