第25話

 さらに10日ほど。

 ゆっくり馬車で移動して王都に入る。

 わざと時間をかけた。

 これは聖女の婆ちゃんとセーナ先生の助言によるものだ。

 戦争での召集でもないのにあんまり急ぐのはエレガントではないようだ。

 がっついていて下品と思われる。

 うちのように将来伯爵が予定されてる家がそれじゃ、先行きが危ないと思われてもしかたないわけである。

 めんどくさ!!!

 なのでわざと時間をかけた。

 陛下の3倍くらいの時間をかけてえっちらおっちら。

 王都に入る前には風呂に入って髪をセットして服も貴族っぽい服にする。

 王都の最新モードとはいかないが、普通に恥ずかしくない格好だ。

 服屋に行く服装着!!!

 じゃあ陛下のあれはなんなのよ。

 それはほんと、そう。

 腹立つわ。

 王都に入る。

 門番にはすでに連絡が入っていたようだ。


「マクレガー子爵様ご一行ですね。お通りください」


 もうビックリするくらいスムーズに入ることができた。

 中に入るとシーフたちが出迎える。

 いや、半分は文官かな?

 半分だけ足音がしないからすぐにわかる。

 文官の足音からはあまり運動をしてないことがわかる。

 シーフの一人が頭を下げる。


「マクレガー子爵様。おめでとうございます」


【子爵様】なのはまだ最上級貴族ではないからだ。

 これが伯爵になるとなにかしらの国の役職に就いているので【閣下】になる。

 めんどくさ!!!


「すぐに近衛騎士隊が来ます。お馬車を先導致します」


 場所教えてくれたらいいのに。

 と思ったが迷子になったら、それこそ恥か。

 騎士の乗る馬に先導されて宮殿に行く。

 あの王様の家だから悪趣味に違いない。

 そう思ったのに、宮殿は普通に城だった。

 石造りで重厚な、攻略の難しそうな城だ。

 つまり攻略しろということだ。

 嫌がらせの第一歩である。

 城に宿泊するのでまずは部屋に通される。

 で、風呂に入れられて、もっといい服に着替えて、化粧もされる。

 フォーマル衣装に着せられた田舎者のできあがりっと。

 俺とラクエルは父さんと母さんの後ろに付き従う。

 先導するのは近衛騎士だ。

 兄ちゃんたちとはここで別行動。

 従者は騎士団主催の宴に参加だ。

 俺たちはまずは式典に参加せねばならない。

 ホールに通される。


「マクレガー家ご一行、到着されました!!!」


 騎士が大声で叫んだ。

 するとホールの空気が張り詰めた。

 視線が俺たちに集まる。

 値踏みするような目が並ぶ。

 俺程度にわかるのだから、こいつらは小物。

 ほほ笑んで表情から感情を読み取れないのが上級貴族か。

 しかめっ面を崩さないのに特に嫌悪の感情がないのは軍人だな。

 強くて使えるやつならなんの問題もないっていう人たち。

 するとラクエルが耳打ちしてくる。


「あっちのおばさんは歓迎してるよ」


 ラクエルの視線の先にいたのは、おばさんって言うには若い女性だ。

 それはお姉さんだろうと。


「あのお姉さんが喜んでるって」


「うん、そういう感情の流れが見える」


 ラクエルは感情も読めるのか。


「へえ、じゃあ俺は?」


「ラクエルを守ろうとしてる」


 当たり。

 こりゃ本物だ。


「お姉さんがどうして喜んでるかわかる?」


「仲間になりたいのかな?」


 なるほど、細かくはわからないのか。


「ありがとう。他に歓迎してるのは?」


「王様だけ」


 ……え?

 王様歓迎してるの?

 そのわりには全力で喧嘩売ってきてるよね?


「そういう愛情表現?」


「人間極限まで根性が曲がるとそうなるのかな?」


 王や貴族はラクエルの教育によくないことはわかった。


「無関心は?」


「大多数」


 そりゃそうか。

 自分の財産や権利が奪われなければ、どうでもいいのか。


「敵は?」


「向こうの人たち」


 無表情グループの一部が敵のようだ。

 へぇー、ほほ笑んでるのに腹の中は怒りで煮えたぎっていると。

 貴族って怖いね。


「公爵様、おなーりー」


 階段の上から公爵閣下が現われる。

 金髪を短く刈った若い男だ。


「公爵閣下は陛下の弟君で、事実上の王族です」


 案内してくれた近衛騎士が耳打ちした。

 王様になにかあったら公爵が王様になるのね。

 ある意味スペアである。


「リック、激しい怒り」


「なんで怒ってるの? 俺関係ないけど」


 すると父さんが小声を出した。


「陛下が嫌いなのさ。陛下に見いだされた勇者が許せないんだろうな」


「俺悪くない」


「ああ、わかってる。それでも公爵様はお前が許せないんだ。よかったな。公爵派には誘われないぞ」


 ありがたくて涙出そう。

 公爵は階段から降りてくる。

 公爵と目が合った。

 するとほほ笑んだ。

 そのままこっちに来る。


「今日の主役は彼らだね。ヘンリーだ」


 こちらも敵意を感じさせないようにほほ笑んで、挨拶。

 公爵閣下の子分じゃないが王族なので臣下の礼。

 セーナ先生!!!

 一番役に立ってるの、セーナ先生の授業です!!!


「ふふ、兄のこと頼んだよ」


 内心【ぶち殺してやる!】と思ってるんだろうけど。

 ホント、王族怖いわ。


「聖女様到着致しました!」


 やっぱり王族とコールが違うのね。

 意味があるのか不明だけど。

 聖女の婆ちゃんとシェリルが来た。

 階段から降りてきてこちらに来る。


「ごきげんよう」


 目上の人に取るポーズっと。

 聖女の婆ちゃんはほほ笑んでシェリルをこちらに渡す。


「勇者殿。我が弟子をつけます」


 いつもつけてくれてるんだけど、ここでは貴族に【勇者はワシらのもんじゃ!!! 文句があるなら教会が相手になるからな!!!】と宣言したのだ。

 もう流されるままに生きようと思う。

 次に王族が来る。


「陛下のおなーりー」


 王様は前会ったときと違って知的なメイクをしていた。

 中身は頭おかしいおっさんなのに。

 王様がなぜか順番をガン無視してこちらにやって来る。


「おお、マクレガー来たか! 皆の衆! こちらはマクレガー。我と兄弟の契りを結んだものだ!!!」


 やられた!!!

 王様は父さんの手を取り手をあげた。

 要するに、バックが教会で王様と兄弟の契り……要するに最重要幹部と宣言しやがった!

 おま、公爵が笑みを忘れてにらんでる!!!

 なにしてくれてんの!?

 公爵も公爵だ。

 一瞬だけとんでもない顔になったが、次の瞬間笑顔に戻った。

 人間の顔ってあそこまで歪むんだね。


「ラクエル……俺怖くて泣きそう」


「がんばれー♪」


 王様絶対に許さねえ!!!

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