第24話

 二日目、三日目と嘘のように平穏だった。

 平穏無事に過ごしてわかった。

 監視されてる。

 正確には、ただ見てるだけの監視から、俺たちを王様ご一行と勘違いした暗殺者の徹底排除にシフトした。

 俺たちに丸投げするはずだった暗殺者のみなさんは事前に殲滅。

 あと不自然に行く先々の家がつぶれてる。

 どの貴族の屋敷も門が閉まっている。

 鎧を着た国軍の騎士が槍を持って誰も入れないように立っていた。

 どの騎士もカール兄ちゃんを見ると無言で会釈する。

 カール兄ちゃんも胸に手を当てて会釈した。

 正式な挨拶じゃない。

 簡易のやつだ。

 もう外の人なのでこういった挨拶になるそうだ。

 だけどわかるのはカール兄ちゃんは案外味方が多かったってことだろう。

 ファンも多い。

 命令違反が伝説になって、その伝説を口にすることを誰もとがめない。

 上司ぶん殴ったユーシス兄ちゃんと違って手配書も回ってない。

 要するに王国もカール兄ちゃん側なのである。

 ここからは推測なのだが、おそらくカール兄ちゃんは戻りたいと言えばすぐに中央に戻れるのだろう。

 だが兄ちゃんはそれをしない。

 そこになにか計算があるのか?

 それともこれこそが騎士の名誉というやつなのだろうか?

 俺は心が魔道士やシーフ寄りのためわからない。

 ただいいタイミングで辞めた。

 その結果生きる伝説になったのだ。

 行く先々で常に熱い視線を受ける。

 父さんは完全に脇役である。

 ただ父さんなら、


「脇役に徹するのも上の仕事ってやつよ」


 と笑うのだろう。

 働きやすい職場ではある。

 伯爵確定っぽいから将来性もあるし。

 さて、そんな我らだが、一つ大きな問題に直面していた。

 それは4日目。

 伯爵領の大きな街に入る手続きでのことだった。


「えっと……そちらのお嬢さんは?」


 当たり前のことであるが、ラクエルが審査で引っかかった。

 そりゃねえ。

 なんの種族か一目じゃわからないもの。


「ラクエルです!!!」


 元気よく挨拶。


「は、はあ……」


 兵士さんも困惑。


「うちの娘だ」


「あの子爵様……娘さんにしては明らかに種族が……その……違うような……」


「息子の嫁だ」


 正確にはまだ子爵じゃないんだけど。

 父さん貫禄出てきたな~。

 兵士が助けを求めるような目でこっちを見る。


「だいたいそういうとこです」


「あ、はい。こちらとしては通さないわけにはいかないのですが……」


「人身売買とかじゃありませんので。一緒に暮らしてますし。分け隔てなく暮らしてます」


「あ、はい。それなら……記録には残しますので」


 思いっきり人身売買を疑われている!

 おそらくこの領地では人買いは強く禁止されてるのだろう。

 父さんは笑顔で答える。


「ええ、問題ありません。この街では宿泊と物資の調達をします」


「承知致しました。目的地は王都ですね」


「ええ、出仕命令が来ましたので」


 出仕命令書を出す。

 それを見て兵士はうなった。

 あやしいことこの上ない集団だけど、書類は本物なので嫌々解き放つ気分だろうな。

 ホント嫌そうな顔してる。

 解放されて街へ。

 外に出ると町人に扮したシーフが出迎えた。

 足音しないからすぐわかる。


「お迎えに上がりました。宿にどうぞ」


 ぺこりとシーフの男性が頭を下げた。


「門番にも根回ししてくれたらよかったのに」


 父さんが笑顔のまま言った。

 するとシーフは無表情で答える。


「ここも内偵対象でしたので」


「うわぁ……」


 あきれていると宿が見える。

 宿は高級なところだ。

 お値段は父さんの髪の毛が抜けるレベル。

 当然国の金だ。

 ラクエルと手を繋いで中に入る。

 屋根が高い……。

 玄関がやたら広い。


「いらっしゃませ」


 高そうな服の従業員が出迎える。

 俺は自分の服を見る。

 絶望。

 センスが違いすぎる。

 ラクエルも自分の服を見てる。


「おう……」


 田舎の限界が見えてきた。

 それは父さんも母さんも同じだった。

 父さんがぽつりとつぶやいた。


「服を買いに行く服がない……」


 母さんがうなずいた。

 俺はシーフの人を見る。

 見つめる。

 ラクエルもマネして見つめる。


「うっ!」


 うるうるうるうる……。


「……わかりました! 上に掛け合いますから!!!」


 おねだり成功。

 王都で恥をかくのは避けられた。

 その後、部屋に通される。

 その後服屋にいくのかなあと思ってたら、仕立屋のおばさんとお姉さんが来た。

 まずは母さんとラクエルの採寸。

 男衆はロビーでお茶を飲む。


「リック……お前……貴族の子弟っぽくなってきたな……」


「やめて父さん。王都で恥をかきたくなくて必死だっただけだよ」


「ま、母さんもラクエルも喜んでるからいいか」


 当然、王都では服は用意してある。

 貴族の式典服だ。

 だが王都に入った時点で笑いものになる可能性はあった。

 それを事前に回避できたのは大きい。

 俺や父さんが笑いものになるのはいい。

 粗野な地方の豪族なのは事実だから。

 でも母さんやラクエルを笑いものにさせない。

 そのためだったら手段は選ばない。

 どんな手も使う。


「リックお前……ラクエルのためだと手段を選ばんな……」


「文句ある? 父さん」


「……ないです。頼むからその目やめろ」


 父よ……怖がってももう遅い。

 あの王様に一泡吹かせるにはこの路線しかないのだ。


「あーあ、やべえのを覚醒させやがった……」


「ヒース兄ちゃんなにか?」


「あーあ、陛下無事でいられるか……」


「カール兄ちゃん、そんなことしないから」


 ラクエルや母さんに手を出したら殺すけど。


「闇堕ち勇者か……この国終わったな」


「まだ闇に落ちてねえし!」


 でもね、あの王様は俺の教育に悪いと思うのよ。

 デタラメすぎんだよ!!!

 あのテンション爆上がりの姿すら計算のうちとか、もう戦うには相手のレベルに合わせるしかない。

 待ってろ王都よ。

 罠を仕掛けやがったら全力で引っかき回してやる!!!

 聖剣すらおとりに使ってな!


「うわぁ……うちの息子が闇堕ちしてる……」


「闇堕ち言うな!!!」

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