第21話

 こんなところに泊まれるかよ。

 と言わんばかりの偉そうな人、たぶん秘書さんが無言で圧をかけてくるので王は泊まらずに帰って行った。

 これは嫌味でも失礼でもなく、うちの領地には王国中央政府の王という最上級VIPが泊まれる施設などない。


「ふむ! また来るぞ!!!」


 ねえよ。

 泊まるとこねえからもう来んな。

 王様が去って行くとカール兄ちゃんがしみじみと言った。


「リック、お前気づいたか?」


「なにがよ?」


「陛下はわざと口を滑らせた。サドラー、悪の魔道士の名前も王の杖を盗んだ理由も国家機密だ」


「どういうこと?」


「秘密を共有したんだ。【口を滑らせない限りは仲間だ】って」


「こ……怖ッ!!! ちょ、なんで罠仕掛けてるの!? しかも俺に伝わってないよ!!!」


「いいんだよ。人間関係を構築する中でだんだんお互いの秘密を増やしていくのさ。そうやっていけば相手の意思とは関係なく仲間になる。裏切ったら国家機密を漏洩したとして首をはねればいい。気がついたら臣下として忠誠を誓うしか選択肢がなくなる」


「……ちょ、怖すぎるんですけど」


「あきらめろ。ようこそ王国VIPの世界へ。陛下はお前に会ってお前をお前の意思とは関係なく上流階級にすることに決めたんだ。よかったなお前は試験に合格したんだ」


「なんの試験よ!!!」


「利用するだけして、邪魔になったらポイ捨てして人知れず始末するコースから、上流階級の仲間として、つまり諸侯、それも王が信頼する一握りとして共存するコースへの編入試験だな」


「嘘だろ……」


 父さんを見る。

 目をそらした。

 完全に罠なのか……。


「陛下はただもんじゃねえぞ。最初は【ああいう態度で接してもいい相手】だと事前に調べてたってことだし、それどころか俺や……たぶん家臣全員のプロフィールを頭に入れてきてる。事前に知ってたわけないからな。ちゃんと調べ上げて頭に入れてきたんだ」


「そこまでするぅ!?」


「する。しかもそれをふまえて小芝居までした。とんでもねえタマだぜ」


 怖い!

 王様怖い!!!

 一気に評価が変わった。

 王族やべえ!!!


「というわけで警戒しろ。全力でだ。次に何するかわからん。ほどよく距離を取りながら自由でいろ」


「うっす!!!」


 こういうときに中央の勤務経験者がいてよかったわ。


「行っておくが教会もだぞ。セーナ様いるだろ?」


「セーナ先生がなによ?」


「おそらくうちでは雇えない……要するに伯爵家の関係者だぞ。しかも家臣じゃないからな」


「血縁者?」


「そういうことだ。それにな。お前、自分を過小評価してるから言っておくが……俺は中央の正規軍出身だ。地方の爵位なし豪族にいる人材じゃない」


「知ってる」


「アズもヒースもユーシスもだ。やらかしたところを殿に救われたからいるんだ」


「知ってる」


「そうじゃない。聞け。つまり俺たちの教える内容は上級貴族相当なんだ。例えばヒース、シーフは上級貴族に関係あると思うか?」


「関係ないんじゃない? 普通に考えて」


「ヒースレベルのシーフは貴族家で働いてるし、鑑定は上級貴族に必須だ」


「は? 諜報とか?」


「違う。もっと現実的な部門だ。あのレベルの鑑定ができる人材は当主の財産を管理する部門の責任者だ」


「……それ偉いんじゃ?」


「そこらの男爵家当主より実入りがいいはずだ。もちろん当主もある程度の鑑定は習うし、できて当たり前だ」

 シーフ偉い!!!


「俺だったら、剣術指南役か地方の騎士団長か。アズラットに至っては王宮にいてもおかしくない。ユーシスは中央の官僚だったのは知ってるな」


 実際に政治の細かいところを動かしてるのは官僚だ。

 ユーシス兄ちゃんは【方向性を決めるのは王。実装するのは我々】って言ってたな。

 あんなおっさんに振り回されるのはさぞ地獄だろう。

 いや、あのおっさんだったら上手く立ち回るから後始末の必要はないのか……。

 王族……恐ろしい子。


「とにかく、お前は上級貴族クラスの教育を受けている」


 というわけで現実を知った俺はラクエルとふて寝する。

 ……待て!!!

 冷静に考えたら女の子と毎日同じベッドで寝るのが普通になっている!

 と自分の変化に驚きながら部屋の隅を見る。

 ミミックが……小さくなってね?


「わたしポメラニアン。かわいいわんこ」


「そんな四角いポメラニアンがいてたまるか!!!」


「わんわんわん! くーんくーん……ジャーキーください」


 なんかムカついたので、干し肉を投げつける。

 宝箱がかぱっと開いて干し肉が中に消える。


「塩味がきいてて美味しい……ところで王都行くんだって? お土産なににしようか? 一緒に考えようよ」


「……お前、着いてくるつもりなの?」


「え……? このかわいいポメラニアンを連れて行かない……だと?」


「お前は断じてポメラニアンではない」


 喧嘩してるとラクエルが起きる。


「んー? ミミちゃんお散歩?」


「はーい! ラクエルちゃん!」


 ラクエルは部屋の隅にあった縄をミミックの錠前をつける取っ手に繋ぐ。


「お散歩行ってくるね」


「お、おう……」


 ミミックを散歩させるドラゴン。

 もはや意味がわからん。

 ミミックはものすごく器用に歩いて行く。


「あ、言っておくね。ミミックはどこにでもいるし、なんにでもなれるし、どこにでも行ける」


「なんだその不穏なセリフは?」


「じゃあ、ラクエルちゃんと散歩行ってくるね」


 なんだあいつ。

 ということで一家で王都旅行が開始されるのだった。

 ……お土産なににしよう……ってあげるヤツいねえわ。

 それよりも……


「王様に会いたくねえ……」


 濃いキャラはまだいいけど、二重三重に罠張ってるとか……。

 あのナリで頭脳派とか。もう勘弁願いたい。

 ホント嫌すぎる!!!

 あと不穏なセリフをミミックが言ったのも気になる。

 ……って最近ミミックが喋ることになれてしまってないか?

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