第19話

 ミミックを倒すと部屋に扉が出現した。

 入れということだろう。

 扉に入ると元の場所に帰ってきた。

 当然、数時間も行方不明になっていた。

 しかもオリヴィアによって通報済み。

 俺らを探す捜索隊と出くわしてしまった。


「やっほー!」


「無事か!?」


 父さんが出迎える。


「ミミック祭りだった……」


「あー……うん、お前ミミック嫌いだもんな」


「ミミックだけは許さない!!!」


「あー、うん。今度、聖女様に相談しようか……たぶん、心の傷とかそういうのじゃないかな。うん」


 ひどい言いようである。


「で、それはなんだ?」


「あードロップアイテム。ほら銅貨がこんなに」


 マジックバッグを見せる。


「いやマジックバッグも珍しいんだが、その手に持ってるの。なに?」


「王の杖だよ。パパ」


 ラクエルが父さんに抱きつく。

 本当に人なつっこい。

 かわいがられる才能がありすぎる。

 だけど王の杖と聞いた父さんの顔はみるみる青くなっていった。


「え……?」


 ですよねー。

 こんなもん持って帰っても困るよねー。


「あー……ヒースや。俺の息子、ドロップ運がよすぎないかな?」


「ほとんどミミック引いたのにこれだもんな!」


「運なの? 勇者補正じゃなくて?」


 もう意味がわからん。

 俺はヒース兄ちゃんに聞いた。


「運だな。こういうどこにあるかわからなくなったアイテムってのは、いったんダンジョンに吸収されて、その後別のダンジョンのドロップアイテムになるんだ。竜の巣なんかは生活スペースだからそういうのがないがな」


「つまり……大昔に誰かがダンジョンでなくしたものを運で手に入れたわけ?」


「ここからは想像だが、誰か王の杖を盗んだやつがいて、そいつが追手をかいくぐるためにダンジョンに入って死んだんだろう。で、リックのところに来たわけだ」


「引きがよすぎる!!! むしろ悪意しかない!!!」


「ま、あきらめろ。伝説になるやつはたいてい運がいいものさ」


 なんてこった。


「……はあ、別に息子に伝説作ってほしかったわけじゃねえんだけどなあ……聖女様に報告してくる。シェリル、一緒に来てくれ。アズとヒースも!」


「かしこまり!」


「御意」


 やはりヒース兄ちゃんの方が品があるなっと。

 みんな行ってしまう。


「ふむ、家出の準備せねば……」


「させるかよ」


 カール兄ちゃんに捕まった。

 そのままラクエルとセットで母さんに引き渡される。

 なおオリヴィアはすでに逃げたようだ。


「怪我がなくてよかった……」


 ごく当たり前の感想に感動した!!!

 これだよこれ!!!

 こういうのが欲しかったの。

 なおラクエルは母さんにべったりひっついてる。

 もう目を細めて船をこいでる。

 完全におねむのようだ。


「ラクエル拾ってきたときから、【この子普通の人生歩めなそう】とは思ってたけど、あまりにも速すぎて、母さん困っちゃうわ」


 酷い言われようである。

 あきれていると【ドドドドドドドドド!】という音がした。


「な、なに!?」


「教会の緊急連絡用の馬だ。お前とラクエルがなにかやらかしたとき用に潜んでたんだろうな」


 カール兄ちゃんが当たり前のように言った。


「俺たち……監視……されてるの?」


「されてるに決まってるだろ」


「されますな」


 どこからともなくアルバート先生が現われる。

 足音もしなかった。

 えっと……俺のシーフ聞き耳センサーを回避するのやめて。

 地味に自信がなくなるから。


「リック殿。あなたは勇者。しかも、王の杖を見つけて献上するという国への貢献を致しました。運がどうとか関係ありません。王の杖を見つけた。それが勇者の伝説のはじまりなのです」


「……えっと、ちょっと意味が」


「要するに、もうお前は勇者にしかなれんのだ。これから酒クズになろうが、賭けクズになろうが、女クズは……ラクエルが許さないだろうからいいや、とにかくお前はなにをしようが勇者として国の宣伝に使われる。安心しろ、国はお前を見捨てない。扱いに困ったら殺すかもしれんが」


「怖ッ!!!」


「とりあえず最初は名誉騎士あたりを与えて、殿は男爵与えるのやめて子爵あたりになるかな。とにかく首輪つけて管理するぞ。すぐに国のお偉いさんが来るからすぐにわかるさ。だがよかったな。ラクエルがいるから伯爵家あたりの婿になる線はねえぞ」


「うわぁ……」


 知らん女子の婿になるとかありえない。

 そもそも貴族の女子となに話していいかわからんわ!

 というわけで、そのままふて寝したわけだ。

 ラクエルと一緒に。

 次の日もゴロゴロしてた。

 もうなにも考えたくない。

 なんか部屋に変な宝箱が出現したけど触りたくもない。


「ごはんください」


「るせー!!! バカミミック!!! なんで俺の部屋にいるんだよ!!!」


「ダンジョンボスクビになったの! 責任取って置いて」


 しかたなく干し肉を投げる。


「わんわん!!!」


 なんだ犬か。

 もういいや犬で。

 げぷーっとか言ってるけど。

 そしたら数日後、とうとう来たね。

 すんげえ豪華な馬車の上に乗った変なおっさんが。

 やたら豪華なマントをつけたマッチョなおっさんだ。

 カールした金色の長髪と天を突くようなカイゼルヒゲの自己主張が激しい。

 うん変なおっさんだ。

 不審者だ。


「変態だね」


「変態だな」


 父さんとボケッと見てたら母さんが指をさして絶句する。

 その指は震えていた。


「陛下……王都のパレードで見たことある」


「さすが魔法学校出身。都会っ子だ」


 シェリルも絶句してた。

 そういやシェリルも都会っ子だ。

 ラクエルと会ったころは都会っ子ってよくわかんなかったが、普通の人間なんだなって最近思う。

 で、あのおっさん誰だって?


「陛下」


 はーん!

 陛下って国王的なキングのことか。

 ……は?

 こんなとこに来るんじゃねえ!!!

 もうちょっとあるだろ!?

 上位の文官とか大臣とか!!!


「王の杖を取り戻したと聞いたぞ!!!」


 変態がなにか騒いでる!


「最難関ダンジョンを攻略した勇者に敬意を!!!」


 ポカーンとしてたら聖女の婆ちゃんが応対するのが見えた。


「勇者様がお待ちです。陛下」


 待ってない。

 断じて待ってない。

 あんな濃い生き物待ってない!!!

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