第18話

 ラクエルが先頭を歩く。

 ピコピコ音を立てながら。

 ドラゴンだから俺たちの中で一番強い。

 前衛でも問題ないと思う。

 歩いていると半分溶けたゴブリンがいた。


「気を付けろ! トキシックモンスターだ!!!」


 消化されそうなゴブリンだと思ったら、そういう生き物なのか。

 ラクエルがブレスを吐く。

 黒い炎がモンスターを焼き尽くす。

 一瞬で消し炭になった。


「もうラクエルだけでいいんじゃね?」


 ヒース兄ちゃん……核心を突くなっての。

 トキシックモンスターを倒すとまたもや宝箱が出現した。


「あ! 宝箱!!!」


 ラクエルが小躍りする。


「ドロップ率100パーセントかよ。ほら鑑定」


 ヒース兄ちゃんに言われて鑑定。

 ふむふむ、魔法なし。

 外側は金属に見えるけど貝の殻と。

 俺は隠し持ってた金属の棍を組み立てる。

 それで思いっきり殴る。

 ガラガラガラと宝箱が転がっていく。


「あー! 宝箱が!!!」


「ミミックかーい!!!」


 ミミックっていうのは貝の仲間のモンスターだ。

 宝箱に擬態して、開けようとすると触手でつかんで中に引きずりこんでくる。

 中で窒息した後、ゆっくり溶かされるわけだ。

 結構怖い。

 でもそれよりも、ミミックってなんか存在がイラッとするよね。

 楽しみにしてた宝箱に擬態するとか万死に値すると思う。

 俺は棍を叩きつける。

 さらに叩く、叩く、叩く!!!

 叩いてるとだんだん割れてくる。

 よし外側から葬る準備が完了した。

 手をかざす。


「ドラゴンブレス!!!」


 光のブレスで攻撃。

 光を一点集約させ割れた箇所に発射。

 一発では倒せない。

 だけど光の攻撃で中が熱くなってくる。


「ぎゃあああああああああああああッ!」


 はい、ミミックの光り蒸し完成。

 俺の前に現われたのが運の尽きだったな。


「ふはははははははははー! ミミックは絶滅だー!!!」


「よ、容赦ねえ……おい、ヒース。リックになにがあった!?」


「あー……あのな、初めてのドロップ宝箱がミミックだったんだ。模擬戦ではずれ引いてな……」


「うわぁ……普通引かねえだろ」


 テストでは十個の宝箱の中に一個ミミックを模したゴーレムがある。

 俺はミミックを引いてしまったのだ。


「あー……そんでキレたリックがな。素手でミミックゴーレム壊しやがってな……」


「は? 今より小さかったんだろ。どうやって……」


「ミミックゴーレムを縄で縛って振り回した」


「いや重いだろが。石製だろ」


「振り回してた。しかも床に叩きつけた」


 当然の報復である。

 俺はミミックの存在を許さない。

 ミミックだけは見かけ次第殺す。


「やはり勇者……?」


 シェリルが首をかしげる。

 違う。聖剣の持ち主までは認めるが、俺は勇者じゃない。

 俺は……単にミミックの存在が許せないシーフだ。

 少なくとも今は全シーフを代表してミミック退治してる。


「あ、宝箱ドロップしたよ」


 ラクエルがそう言うと宝箱がドロップした。

 俺は笑顔になった。

 努力が認められたのだ!

 さあ鑑定を!!!


「外側。貝の殻」


 棍でぶん殴る。

 無言でぶん殴る。

 またミミックかーい!!!


「ああ、また勇者様の被害者が……」


「ミミックなんて一匹残さず駆逐してやるー!!!」


 またミミックを光のブレスで始末する。


「あ、またドロップ」


「やめい!!!」


 一応調べると今度は普通の宝箱だった。

 中には銅貨がたくさん入っていた。

 中央に穴が空いていてひもが通されている。

 それがいくつもあった。


「ヒース……重いだけで価値のない銅貨ってのが嫌がらせすぎて泣けねえか?」


「ま、よくあることだが。今回はマジックバッグあるしな」


 二人が俺を見る。


「了解」


 大量の銅貨を収納する。

 これ一束で千枚だよな。

 結構な金額だ。


「でも使うところが……」


 ヒース兄ちゃんの飲み代くらいにしかならない。

 酒は行商人が運んでくるんだよなあ。

 するとシェリルが俺の肩をつかむ。


「そういうときは教会を使えばいい。教会傘下の行商人がなんでも取り寄せてくれる。手数料代わりの御喜捨が必要だけど」


 要するに手数料だけど名目上はお布施なのね。

 少しあきれていると、シェリルはとんでもないことを言った。


「蜂蜜とか砂糖も買える」


 なん……だと……。

 高級品じゃないか!!!

 ラクエルも敏感に反応した。


「さ、砂糖……本で読んだことある。すごく甘いやつ……」


「蜂蜜もちゃんと養蜂したやつ。野生のと比べて太ってるから味もいい」


「なん……だと……」


 うちの領地は戦闘特化型の人材ばかりだ。

 養蜂などという超高度な技能持ちなどいない。

 蜂自体はたまに取れるが、たいてい酒に変わる。

 酒を造るんじゃなくて、村人の酒を買う原資としてトレードされる。

 哀しい。

 でもこの金は俺にも権利があるはずだ。

 甘味……甘味が欲しい。

 俺はラクエルを見る。

 ラクエルはうなずいた。

 甘味代になるだろう。

 すこしよだれを出しながら先に進む。

 すると大きな部屋に出た。


「おい、ヒース。ここはボス部屋か?」


 アズラット兄ちゃんがつぶやいた。

 部屋には大きな宝箱が鎮座していた。


「ねえヒース兄ちゃん。ツッコミ入れていい?」


「やめろ。できる限り流れに逆らいたい」


 だよねー。

 すると声が聞こえてくる。

 妙に甲高い女の子の声だ。


「ダンジョンを踏破せし強者たちよ……我を開けるがいい。金銀財宝、古代の英知、王の証。望むものはなんでもくれてやる」


 よし。


「ドラゴンブレス!!! ラクエルも手伝って」


「は~い♪」


 ラクエルの暗黒ブレスと俺の光のブレスの同時攻撃。

 もうね、どう考えてもミミックだろが!!!


「あ、ちょ、やめ! やめえええええええ! 殻が割れちゃうううううう!!!」


「てめ、殻って言ったな!!! ミミックじゃねえか!!!」


「はい確かに我はミミックですぅ~。問答無用で攻撃するとか人の心がないんですか~!?」


「うぜええええええええええええッ!!!」


「あ、そういう態度!? あーはいはい! もうバトルなんかしてあげないもん!!! これ持ってとっとと帰れ!!! ばーか、ばーか!!!」


 するとミミックはペッとなにかを吐き出した。

 そのまま煙を出して消えてしまった。


「杖だね?」


 きゅっとラクエルが首をかしげる。

 はい鑑定。

 儀礼用の杖。

 材質はたぶん金属と象牙、それに木。

 持ち手の横には琥珀が埋め込まれている。

 前端に宝石。やたら大きい紅玉ルビー

 ラクエルのところで見たものより大きい。

 魔法回路の反応あり。


「あれ……? お高いやつ?」


「どれ、見せてみろ」


 まずはヒース兄ちゃんが見る。


「高級品だな。アズ、これ見てくれるか」


「おう、魔法回路は……証明書用。証明書の持ち主はザックⅠ世……王の杖じゃねえか……おい……紛失してたのか」


「王の杖?」


「あー、この国の持ち主ですよって証明だ」


「まためんどうくさそうなのが……」


「うん、これは教会経由で報告しなければ」


「アズ。俺も報告しなきゃならん」


 教会関係者が二人もいるもんね。

 さーめんどうくさくなって参りました。

 俺シラネ。

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