第17話
光をなんとか止められるようになるまで三回気絶した。
止める方が難しいのはトラップだと思う。
そりゃ止めるわ。
こんなの成長にいいはずない。
しばらくは止める方の訓練だけである。
シーフの訓練は継続。
シーフ偉い。
で、今日はピクニックである。
さすがに昼まで寝て、起きてから出発。
聖女様と騎士の二人と父さん&母さんは会議。
アズラット兄ちゃんとヒース兄ちゃんがお目付役だ。
オリヴィアと珍しいことにシェリルも参加。
聖女様が会議だから休みもらったんだって。
どうせ近くの丘までの散歩である。
事故なんか起こるはずもない。
「あはははははー! こっちこっち~!!!」
お外に出てテンション上がりまくったドラゴンの姿がこれ。
女の子形態で走り回る。
俺も走る。
オリヴィアとシェリルがどん引きしてる。
もうね、最近遊んでなかったから思いっきり遊ぼうかと。
「ふはははは! 待て~!!!」
全・速・力!!!
ラクエルはドラゴンだ
男女の力の差など存在しない。
「にゃははははははははは!!!」
「ぬはははははははははは!!!」
ぎゅんッ!!!
え?
なんか変な音がした。
それもそのはず。
すぐ前にいたはずのラクエルが消えた。
そして俺も。
「お、おい! 消え」
アズラット兄ちゃんの声が聞こえた。
もうなにがなんだか。
突然目の前に洞窟が現われた。
止まろうとするが、すぐ前にいたラクエルの背中にぶつかる。
「お、ここどこだろ?」
ラクエルは痛そうなそぶりもなくそう言った。
なお俺は痛かった。ラクエル頑丈すぎる。
「とりあえず入り口から横に移動して……」
そっとラクエルを横にどける。
「リックううううううううううううッ!!!」
「がきどもおおおおおおおおおおおッ!!!」
アズラット兄ちゃんとヒース兄ちゃん到着。
さらに後ろからシェリルがやって来てヒース兄ちゃんの背中に激突。
「ふみゅ!」
「お、悪い」
鼻を押さえながらシェリルは説明する。
「オリヴィアが助けを呼びに行った。どうやら魔力のあるものが一定のスピードで駆け抜けないと開かないゲートのよう」
「条件がピンポイントすぎない?」
「でも実際、今まで発見されなかった」
「なる。じゃー、帰ろうか」
空間が歪んでいるところを進もうとするが壁にぶつかる。
「……帰れない」
「一方通行」
俺はラクエルを見る。
二人とも汚い笑顔だ。
「探検する?」
「探検する!!!」
ということで探検である。
「ま、お前ら二人に関しては危険はないと思うけどさ」
アズラット兄ちゃんが言った。
完全に思考を読まれている。
「俺とアズラットはシェリルを守るわ」
ヒース兄ちゃんもあきれた声を出した。
よっしゃ!
ダンジョン探索!!!
俺たちは洞窟を進む。
丸っこいゼリー状の生物。スライムがいた。
「きゅぴ?」
かわいいな。
スライムはラクエルを見る。
俺を見る。
考える。
「ぎゅびいいいいいいいい!!!」
ラクエルには勝てないと踏んだのか、俺に襲いかかってきた。
ぺちん。
反射的に手で叩き落とす。
下に落ちて動かなくなる。
「……倒してしまった」
捕まえて飼おうと思ったのに。
するとスライムから煙が出る。
「宝箱だぞ」
ヒース兄ちゃんの言うとおり宝箱が出現した。
なのでヒース兄ちゃんとアズラット兄ちゃんによる宝箱解錠講座だ。
「まずは宝箱を鑑定しろ」
「うーっす。魔法の錠前。罠あり」
「確かに当ってる……スライムのドロップのわりに高度な錠前だな」
魔法の錠前は高難易度ダンジョン、要するに入ったら死ぬ系のダンジョンの化け物が持っている。
開けるのが難しく、毒ガスとか電気とか、厄介な罠がかけられている。
「俺が解錠するか……」
「大丈夫。これならできるよ。あ、ほい!」
俺は勝手に解錠する。
だって簡単だもの。これ。
針金とナイフを出す。
俺は魔法の錠の表面を開ける。
魔法の回路があった。
これを針金でジャンパーして、ここを切ってセキュリティーを無効化して……はい解錠。
魔法の鍵だろうがミミックだろうが任せておけ!!!
「なあ……俺な、鍵が開けられる騎士がいてもいいとは思ってたんだ……だけど魔法の鍵を一瞬で開ける勇者は見たくなかった……」
ヒース兄ちゃん酷くね?
「神官が鍵開け得意なんだから、勇者が鍵開けられてもいいじゃん」
「つうかよー、お前さー。魔法使ってね?」
アズラット兄ちゃんの珍説が来た。
「鍵開けの魔法なんて習ってないよ。魔力回路いじるのは針金とナイフしか使ってないし」
「だよな。教えてねえや。でもお前のことだから使ってじゃねえかと思ってさ」
シェリルが変な目で見てる。
「なに?」
「聞いてはいた……本当にシーフの技能を持ってる?」
「お持ちでってほどじゃないけど。習ったことはできるけど」
「待って、魔法の鍵の解錠は一流のシーフにしかできないはず」
「だろうな。魔道士の俺もなにやってるかわからねえし」
「え?」
待て、アズラット兄ちゃんがわからない……だと……。
「俺たち魔道士は大量の魔力を回路にぶち込んで壊してるだけだしな」
「はいぃッ!!! ……ヒース兄ちゃん」
ヒース兄ちゃんが目をそらす。
「兄ちゃん!!!」
「いや……その……な。教えればすぐにできるようになるから面白くて……その」
「勇者様。落ち着いて聞いて欲しい。おそらく勇者様は並のシーフよりも腕が上」
いや待って。
兄ちゃんの腕前が凄いのは知っていた。
だけど俺も!?
「勇者様、将来ソロで魔王城攻略しようとしてる?」
「魔王もういないじゃん!!!」
「それもそうか」
なんたる無駄技術。
あ、でもダンジョンの攻略には有利か。
「それで中はなに入ってたよ?」
アズラット兄ちゃんに言われて中を見る。
バッグじゃん。
「バッグが入ってた。外れか?」
「待て待て待て待て。鑑定かけてみろ」
なぜかアズラット兄ちゃんがあわてる。
「俺もアズラットと同意見だ。鑑定かけてみろ」
お、おう。
鑑定。
と言っても不思議技能ではない。
微弱な魔力を感じて、それが魔法のかかった品かどうかがわかるだけだ。
あ、魔力あり。
この辺に……魔法回路あったわ。
「魔法回路あった」
「マジックバッグだ。高級品だぞ」
「へーこれが」
初めて見た。
「貴族の家だと家宝になってたりするな」
「へー……」
ラッキーではあるが、俺が保っていいのだろうか?
バッグを押しつけようと二人を見る。
思いっきり目で拒否された。
「勇者が持っておけ。お前のために誰かが用意したのかもよ」
「勇者の仕事って荷物運びと鍵開けだったっけ?」
「いいじゃん、そういう勇者がいても」
ラクエルがほほ笑んだ。
まあいいか。
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