第16話

 カールが言い訳をはじめた。


「つまりだな。傑出した力を持つ騎士を追い込むわけだ。そして頭の中がゆるゆるになったとき、なにか力がわいてくるんだ。体を鍛えるのも無茶な訓練をするのもこの状態まで来て失敗しないために体を作るのが目的だ」


 なんたる脳筋&経験則頼りの鬼稽古!!!


「そりゃ魔法使いは才能と知性で不思議な力を使う。それに比べて俺たちは才能って面では敷居は低い。ただ会得までがキツいけどな」


「父さんも使えるんでしょ」


 寝室の隅で息を殺していた父さんに話を振る。

「くそ、飛び火したか!」と露骨な態度で父さんは言った。


「使える」


「殿は達人だ。俺が知ってる限りじゃ上位に食い込む」


「父さんって正規兵? 実は貴族家の出身とか」


「違う。前の戦争はデタラメだったんだ。誰も攻めてくるとは思わず準備もできてなかった。しかたなく志願兵を募って秘匿されてるはずの騎士の訓練をしたんだ。それで俺は運良く覚醒したってわけだ。勇者だからって実は由緒正しい血統で……ってねえわ。少なくともうちは爺さんの代まで庶民だ」


「農民?」


「いいや、爺さんは王都の豆屋。親父は大工だ。俺は三男で、兄貴は王都で親父のあとを継いで大工やってるよ」


 その状態から爵位なしとはいえ領主まで成り上がったのだ。

 親のコネもなにもない状態で相当苦労したのだろう。

 父さん偉い。


「お母さんは魔道士ギルドの孤児院育ちだから血統とかわかんないわ~」


 母さんの方もバックグラウンドが激重である。


「でも魔法の才能あったおかげで普通の孤児院みたいに苦労もしてないから。お師匠様は優しかったし。お師匠様のおかげでご飯も服も不自由したことないなあ。学校もちゃんと出たし。少なくとも血統の線はないわー」


 魔道士は各地から才能のある孤児院などから子どもを集めて弟子にしている。

 才能が必要な魔道士はどうしても数が減りがちなのだ。

 だから才能のある子どもは大歓迎。

 体のいい人買いではあるのだが、引き取られた後に才能がないことがわかっても追い出したりしない。

 ちゃんと育てるので品のいい行為とは思われてないが、あまり非難されてない。

 母さんもそんな一人だったわけだ。

 つまり俺が偉大なる血統という線は消えた。

 じゃあなにが原因で聖剣が抜けたのか?

 それはわからない。

 考えるだけ無駄なような気がする。

 とにかく言えるのは、9歳目前にして暗黒竜と戦わせれば覚醒するんじゃねということだ。

 普通戦わねえけどな。

 するとアルバート先生が笑顔で言った。


「はっはっは。暗黒竜の本気を受け止めようした子どもが覚醒したことは本部に報告しておきます」


「その情報いらないと思いますけど」


「いえいえ。今はいらない情報でも仕組みを解明するのに役立つ情報かもしれません。昔からのやり方を盲信する方が危険ですので」


 わーお、こちらも魔道士顔負けの理論派である。

 結局、今はわからなくても少しずつ推論を重ねて解明していくしかないのだろう。


「それで俺は何すればいいんですか?」


「特には」


 なん……だと……。


「いえ、せっかく強化的なものを使えるようになったんですから! こう最強ごっことか……」


「若すぎる覚醒ですので、あまり体によくないかと。ジャックやジョージ、オリヴィアとの差が開きすぎましたしね」


「え……無駄技術……」


「もちろん忘れぬように指導はいたしますが……体を鍛える方が優先ですな」


 結局脳筋に着地。

 いいもん、弓体操と懸垂がんばるもん。


「それに……ラクエル嬢が心配ししておられますし」


 そういやずうっとラクエルがひっついてる。

 今は俺の膝を枕にして寝てる。

 女の子形態なのに手足がピコピコ動いてる。


「ま、少し休めってことだ」


「いいけどさ。休みのあいだ何しようかな?」


「ジャックとジョージは鍛えるからダメな。オリヴィアもだ」


 うーん、あまり追い込まないでやって欲しい。


「じゃあラクエルとピクニックにでも行くか」


 するとパチッとラクエルの目が開いた。


「ピクニック!!!」


「お、おう。起きたか」


「ピクニック……あの伝説の……パンとかお菓子を食べる……」


「フォーカスされてるものがなんか違うけどおおむね合ってる」


「ラクエル、お外でお菓子食べたい!!!」


「お、おう。行くか」


「いつ行く!? 今?」


「明日?」


 今日は疲れて行きたくない。

 明日なら回復してるだろう。

 カール兄ちゃんが同意する。


「ま、明日行って来い。しばらくは暇だしな。暇の潰し方を覚えてこい」


 そういや魔法の稽古は?


「魔法……」


「しばらく禁止な」


「嘘でしょ!? じゃあシーフの方は?」


「そっちは魔法も神聖力も関係ないから続行」


 シーフ偉い!!!

 ……それにしても先ほどから意図的に神聖力の話をはぐらかしているような?

 強化の正式名称すら言わないし。


「ところで神聖力……」


「いいな。お前の神聖力は異常だ。これ以上聞くな」


 多くて異常なのか。

 それとも少なくて異常なのか。

 たぶん多い方だろうけど。


「とにかく勇者殿は休んでください。なるべくゆっくりしてください」


 お、おう。

 こうして俺たちはピクニックに行くことになったのだ。


 ……と思うじゃん。

 俺は夜中、家から抜け出た。

 俺が神聖力なんていうおもちゃを見逃すはずないだろ!!!

 盾を光らせた要領で力をこめる。


「よしゃー! できる! そのまま呼吸しながら全力で」


 ピカーッ!!!

 光がほとばしって柱になった。

 くくく、俺のオーラ的なものがほとばしった!!!

 よし、ラクエルとこれで遊ぼう。

 さて帰るか……と思ったそのときだった。


「……止め方がわからん」


 ものすごくピカピカしてる。

 つまり目立つ。


「だ、誰だ!」


 カール兄ちゃんの声だ。

 よし逃げようと思ったら。


「つかまえましたぞ」


 背後にアルバート先生がいた。

 いつの間に!!!

 すぐにカール兄ちゃんも来る。


「やると思ったんだよな……無駄に光らせるヤツ。俺も止められなくなったなあ……」


「私も止められなくなりましたなあ」


「……どうやって止めるの?」


「残念な話なんだけど、止める方が難しいから」


「ふぁ?」


「止める方が難しいんだよ。止められなきゃ神聖力使い果たして気絶する」


「ふぁ?」


「仕方ありませんな。徹夜で止めましょう」


「ふぁーッ!!!」


 こうしてオールナイト訓練になったのである。

 最初から言えよ……。

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