第13話

 王国が我が領地に人を派遣する。

 この目的は多岐にわたる。

 まずは俺を政治利用しないように親や教会を監視すること。

 最後の手段としては俺とラクエルを消すのだろうが、それは本当にどうにもならなくなったときだ。

 反撃のリスクは常に考えてると思う。

 お願いだからバカじゃないことを祈る。

 次に俺を教育すること。

 教会が偏った教育をしないように、自分たちの思想も教え込むのだろう。

 次にコンプレックスを作らないようにすること。

 要するに田舎もんの俺を中央の貴族と交流させるにあたって恥をかかないようにするのだ。

 コンプレックスを抱えたまま歪んだ価値観を持った大人にしない。

 と教会も王国も考えているのだろう。

 だけどさ、お前らさ、王の教育何回間違えた?

 やべえヤツが数回は誕生してるよな?

 とツッコミを入れたら聖女の婆ちゃんに嫌な顔された。


「そのようなことを言うときは遠回しな表現を使うのです」


 ダメな教育の見本と言いたいのだろう。


「でも失敗は失敗だよね」


「成功の確率を上げるために教育するのです。大物になる必要はありません。友人を作り、人間関係を構築し、家族を作り、社会の一部になるのです」


「……ラクエルしか友だちいませんが」


 シェリルはまだわかんない。


「ッ!!!」


 聖女は目を見開いた。


「も、もしかして……この領地に子どもは……?」


「上でまだ三歳とかですね」


「手紙を書くので失礼致します! ……これはすぐに対処せねば」


 え?

 なんかまずかった?

 ラクエルは婆ちゃんにもらったクッキーをもしゃもしゃ食べてる。


「友達いないとダメなんだって」


「ラクエルもいない!」


「俺は?」


「つがいー!!! 家族!」


 そっかー。ラクエルは家族枠か。

 こうして婆ちゃんが手紙を出した数日後、豪華な馬車が来た。

 父さんとカール兄ちゃんと出迎える。

 まずは官僚兼教師だろうか。

 来たのは若い女性だった。


「学院から派遣されたセーナでございます」


「はあ、ええっと……」


「家庭教師兼文官と思ってください」


 それと軍服を着たヒゲのおじさん。

 こちらは軍服に教会の光りが放射状に伸びてるマークが着いてるので神殿騎士だろう。


「神殿騎士のアルバートです。勇者様の神殿武術の指導を承りました。こちらは神殿からの命令書にございます」


「はあ、これはご丁寧に」


 父さんは平民丸出しで頭を下げた。


「お父様、お母様も礼法のレッスンを致しましょう」


 セーナは圧力満載の笑顔で言った。

 そうなるよね……。

 わりと予想してた。

 そして……ビックリしたのは馬車から出てきた複数の親子。

 母親と子どもが三組。

 俺と同じくらいの年だ。


「騎士スミス家のジョージです」


 黒い髪の男の子だ。

 結構威圧感がある。


「騎士ウィリアムズ家のジャックです。よろしく!」


 こっちは茶色い髪の男の子。

 代々茶髪なのかも。

 明るい子のようだ。


「騎士ブラウン家のオリヴィアです」


 金髪の女の子だ。

 そばかすのある子だ。

 思慮深そうな子だ。

 優等生ってヤツだろうか。

 三人とも都会の子みたいだ。

 都会の子はシェリルで学習した。

 一目見れば違いがわかる。

 さすが都会だわ。


「領主マクレガー家のリックです」


 はい礼法。騎士の方。

 心に薔薇を。

 胸の薔薇という体のなにかをつかんで差し出すポーズ。

 片膝をつき、左手は剣を持っている設定なので後ろに。

 最後に立って胸に手を当てて礼。

 ……そういや彼らやってなかったな。

 もしかして地方ではメジャーだけど都会ではやらないやつ?


「礼法……できるんですか?」


 なぜかジョージくんが暗い表情で言った。


「うん?」


 ほら、礼法って記憶が飛ぶくらいやらされるじゃん。

 礼法できないと稽古させないの。


「できるの……ですか……」


 なぜかジャックくんも暗い顔になる。


「え……?」


 するとアルバートおじさんが小声で教えてくれる。


「普通できません」


「嘘。できないの!?」


「ええ、相当優秀な子でもできません。では太陽礼拝の型は?」


「できますよ。ヘタですけど」


 あれは片足立ちが多いので案外バランスが難しいのだ。


「では学院の初等科の学生より高度ですな」


「さすが誉れ高きカール殿の教え子!」


 アルバートおじさんは、わざとカール兄ちゃんに聞こえるように言った。


「やめてください。かの有名な百人長に誉れ高きなんて言われるようなことはしてません」


「それでも村を焼くのを止めるために千の兵を足止めしたのは事実だ」


「みんな村を焼くのは嫌だったんですよ。だから俺がいるからと命令をボイコットしてくれた。彼らが本気なら私が止められるはずがない。噂は誇張されすぎです」


「それでも貴公は最初に命令違反をし、皆の前に立ちはだかった。もし私だったら、同じ事ができるとは思えない」


 お子さま三人はまるで物語の登場人物をみてるようだった。

 カール兄ちゃんに熱い視線を送っていた。

 もしかして……カール兄ちゃんって思ったより何倍も有名人?


「過大評価です」


「そう言わんでください。ここだけの話ですが……私はあなたの大ファンでしてな」


「ありがとうございます」


「どうでしょうか? もしお望みであれば、王国に紹介いたしますが」


「いえ、今は弟子が心配ですので」


「でしょうな。出来がよすぎる」


 あ、俺に飛び火した。


「出来が悪くても心配ですが……出来がよすぎるというのも……その、ラクエルも」


 あ、ラクエルにも被弾。


「わかります。協力しましょう。ラクエルさん、リックくんと同じ稽古をしませんか?」


「いいの!?」


「はい。リックくんと共に生きるために必要なこと。人間と生きることを一緒に学びましょう」


 どうやらアルバートさんはちゃんとした人のようだ。

 俺の小賢しい考えは間違っていたのかもしれない。

 そういやユーシス兄ちゃんが言ってたな。

 他人を信じるのはよくないが、人間を信じないのはよくないって。

 斜に構えすぎたか。

 国と教会が、俺を品と教養のある善人として教育しようと考えているのは伝わった。

 そしてラクエルも。

 ラクエルも貴族社会で生きていくように教育するようだ。

 意図はわからないが悪意はなさそうだ。

 国ってもうちょっと打算的だと思ってたわ。

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