第6話

 騎士カールに魔術師アズラット、それにお子さま二人。俺とラクエル。

 このパーティーで行くことに決まった。

 父さんも自らの調整が終わり次第合流する予定だ。

 長い領主生活で養った腹回りを解消せねばならないとのことである。

 他の兄ちゃんたちはダンジョンから合流。

 彼らもまた戦場の勘を取り戻すべく調整してる。

 俺はカール兄ちゃんと前衛。

 アズラット兄ちゃんとラクエルは後方から援護である。

 盾役はカール兄ちゃん。

 大盾と槍を装備。

 まだ大きな武器が使えない俺は片手剣と小さな盾。

 ラクエルは武器なし。

 ブレス攻撃を期待されてる。

 ラクエルさえいればいいような気がする。

 アズラット兄ちゃんはその他諸々。

 この場合、【その他】が一番重要だ。

 森に入る。

 いつも果実を採取しに来るところだ。

 敵の気配はない。

 動物の気配もない。

 鳥のさえずりすら聞こえない……。

 カエルの声すら……。

 おかしい。

 普通、森ってそんなに静かじゃないよ。

 なんかしら生き物の音が聞こえるもん。

 死のような静けさが辺りを支配していた。

 こういうときこそシーフの兄ちゃんに教わった極意だ。


【少しでも異常があったら撤退】


「静かすぎる。撤退しよう」


 俺がそう言うとカール兄ちゃんは笑顔になる。


「撤退判断が速くて素晴らしい。リックは将来いい指揮官になりそうだな。アズラット意見はあるか?」


「リックの判断に任せる」


 はい撤退……とはいかなかった。

 森の奥からなにかが現われる。

 まずい、鉢合わせしてしまった。

 相手が普通の動物でも鉢合わせは命取りだ。

 熊とか本気で殺しに来る。

 だから俺はそのときにはドラゴンブレスを準備していた。

 風のドラゴンブレス。

 風属性にしたのは単純な理由だ。

 下に落ちてる石やゴミなんかを巻き込んでぶつける。

 光みたいに貫通はしないが多くの傷をつけることができる。

 それに火を使わないので山火事が起こりにくい。

 火は自爆するので扱いが難しいのだ。

 何者かにドラゴンブレスが当たる寸前。

 ようやくその姿が見えた。

 人間に似た姿。

 緑色の怪物ゴブリンだ。

 それが棍棒を持っている。

 ゴブリンは人ではない。

 人とモンスターの区別は難しい。

 世界にはエルフやドワーフだっている。

 ラクエルだってドラゴンだ。

 リザードマンだっている。

 同じ形をしているとは限らない。

 人の定義は定まってないのだ。

 だから便宜上、話し合いができるのを亜人種、話し合いができないのを怪物やモンスターとしている。

 ゴブリンは話し合いができない存在だ。

 話し合いをしようとして死んだ人間も数千人はいるだろう。

 なので出会ったら即抹殺。

 ブレスをそのまま当てる。


「ぎゃあああああああああああああッ!」


 出てきたのは合計四体。

 ゴブリンたちが悲鳴を上げる。

 そこにラクエルがブレスを発射。

 ブレスは地属性。

 地面が隆起してゴブリンを押しつぶした。


「はい、ぷちー」


「お前ら容赦ねえな……」


 アズラット兄ちゃんがどん引きしてた。

 一方、カール兄ちゃんは別方面から現われたゴブリンと戦闘開始した。

 敵は二体。

 まずは一体を槍で突き刺す。

 もう一匹を前に俺は援護する。

 光属性の貫通攻撃。

 だけどそれじゃゴブリンは止まらない。

 穴の空いた体で突撃してくる。

 俺は剣を持って立ち塞がる。

 ゴブリンが棍棒をデタラメに振り回してくる。

 俺はそれを盾で弾いてく。

 三発は盾でいなす。

 四発目で大振りになったところで蹴り。

 ゴブリンがのけぞる。

 間合いを広げたらラクエルの攻撃。

 ラクエルは大きく息を吸って、ブレスを撃った。

 俺たちを巻き込まない程度の威力で爆発。

 炎上こそしないがゴブリンがどこかに飛んで行った。

 威力が大きすぎる。


「ラクエル、帰ったら手加減の練習な」


「あい!」


 しゃきーん。

 返事だけはいいヤツ。

 静けさの原因は取り除いたようだ。

 でも、その日はそこで撤退した。

 そんなやりとり……森のモンスター狩りを繰り返してどんどん奥に行く。

 本当に実戦形式で学習していく。

 もちろんキャンプ、新兵相当のサバイバルも学習した。

 これはできて当たり前。

 むしろできなければ兵士になれない。

 火のおこし方から簡単な料理までをカールに教えてもらう。

 水虫除けの薬草をすり潰して軟膏を作ったり。

 カエルから傷薬を作ったり。

 これで最低限なのだから奥が深い。

 ラクエルが手加減を覚えたころ。

 数カ月を要して徐々に森の深部へと入ったのである。

 森の深部はオークが出るらしい。

 オークはゴブリンと比べて体格がいい。

 当然力も強く手強い。

 でも俺たちは心配をする必要はなかった。

 その頃には父さんが合流。


「ぐはははー!!! かかってこいやー!!!」


 カールと父さんでモンスターを蹂躙していた。

 オークなんて流れ作業みたいに倒していく。

 特に父さんは張り切ってモンスターを倒すので楽ちんである。

 俺たちブレスからの連携ばかりで面白くないしね。

 と言うわけで訓練がピクニック気分になったころ、ドラゴンの巣へ到着したのだ。


「巣なの」


 さすがに往復だけで一日潰れるのでドラゴンの巣で後続を待つ。

 ご飯の支度をラクエルとする。

 火を焚いて……。


「面倒だからブレスで」


「俺がやる」


 普通の火の魔法で枯れ枝に火をつける。

 うむ。いいできだ。

 焚き火の番をしていたら遠くで音がする。

 ゴブリンともオークとも違う人間の歩く音だ。


「おっすガキども!」


 シーフのヒース兄ちゃんがいた。

 これで巣の偵察隊は全員揃ったわけである。


「ところでさ父さんは調整わかるけど、ヒース兄ちゃんはなんの調整してたの?」


「アル中の治療。酒が抜けるまで縛って家から出られないようにしてもらった」


 酒だったか。

 納得の理由である。

 酒はダメだよ。

 少し痩せたみたいだし。

 そして次の日。

 ようやくラクエルの実家に突撃するのだった。

 長かった……。

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