第5話

 で、だ。

 この厳しい修行の結果はすぐに出た。

 無駄話だと思っただろ?

 俺も無駄スキルだと思ってた。

 それはラクエルが来て一ヶ月くらい経ったころだろうか。

 すっかりお母さん子になったラクエルは、いつものように母さんにひっついていた。

 俺はアズラット兄ちゃんの魔法の稽古である。

 アズラット兄ちゃんは自己主張の激しい口ひげの魔法使いだ。

 兄ちゃんの地元じゃヒゲを生やしてないと大人と認めてもらえないんだって。

 めんどくさ。

 他の大陸の人らしい。

 船が難破して奴隷商人に捕まって売られそうになったところを父さんに助けてもらった。

 それ以来、父さんの家臣として魔法使いをしている。

【世界で8番目に強い魔法使い】を自称している。

 比較対象がないから実際はわからない。


「目くらましの魔法は騎士にゃ必須のスキルだ。一瞬の隙でも生死を分ける……」


「うりゃー! 」ドラゴンビーム!!!」


 ラクエルは目から怪光線を出す。

 俺はそれをバリアーで防ぐ。


「ナイトバリアー!」


 バリアーがビカビカ光る。

 なお威力はないので俺たちはこれでよく遊んでる。


「……普通は目くらましの魔法でも習得に苦労するんだが。まあいい。森の探索を許可する」


「よっしゃ!」


 実は魔法の稽古は森の探索許可がかかっていた。

 ようやく許可が出たのだ。


「最後にそこの的を撃ってこい」


 的がある。

 魔法を弾く構造になっている。

 これを壊せれば一人前だそうだ。

 俺は手を前に出す。

 ラクエルは大きく息を吸う。


「「ドラゴンブレス!!!」」


 同時に魔法を行使する。

 ラクエルに教わった必殺技だ。

 ラクエルはドラゴンの逆鱗にある魔力機関を使って。

 俺は腹の下部にある魔力機関を使う。

 大気中のマナを吸い込み圧縮して吐き出す。

 その際にマナに術式で属性を与え攻撃魔法に変換する。

 ラクエルと遊んでたらできるようになった。

 これをある程度自由に使えるようになると空を飛ぶことにも応用可能だ。


「人間にゃ普通できねえはずなんだけどな……」


 アズラット兄ちゃんがぼやく。

 できるもんはしかたない。

 ドラゴンブレスを放つ。

 今回は光。

 一番速いからだ。

 極限まで圧縮された魔力は熱々のスープみたいにぐつぐつ煮立っている。

 それを光に変換して発射。

 光は最速。

 一瞬で的を貫く。

 弾かせなんかしない。

 コツはなるべく細く撃つこと。

 ただ実戦じゃ、あまり細く撃つとたとえ貫いても止められない。

 最後の力を振り絞って襲いかかってくるそうだ。

 その点、地属性みたいな質量で潰す魔法は遅いけど実戦的だ。

 だからこれは実戦じゃなくて試験用。

 俺は次々と的を撃っていく。


「冗談みてえな精度と速さだな」


「えへへへへ」


 驚かれて喜んだのも束の間。

 ラクエルが炎の魔法を行使した。

 ラクエルのというか、ドラゴンの魔法は単純明快。

 火の玉を発射。

 着弾すると爆発する。

 これは習得したわけじゃない。

 種族の固有魔法だ。

 人間や人間近縁の種が使えない特殊魔法。

 たとえば吸血鬼なら自動回復魔法。

 サキュバスなら魅了。

 ドラゴンは爆発するブレスだ。

 オークの怪力なんかも固有魔法とのことだ。

 厄介なのはこれらの固有魔法はどれも強力なことだ。

 人間には到達できない領域だろう。

 人間は才能さえあれば全ての魔法が使えるから本当は優遇されてるのかもしれないが……。

 ラクエルの炎が的に着弾。

 周囲の的ごと爆発する。

 全ての的が消し炭だ。

 結局、威力が全てを解決するのだ。

 憶えておこう。


「やったー!!!」


 ラクエルはぴょんぴょん跳ねる。


「はいよくできました」


 アズラット兄ちゃんもラクエルには甘い。

 というか兄ちゃんたち、寄ってたかってみんなラクエルを猫かわいがりしてる。


「合格だ。じゃ、用意するから明日な」


 アズラット兄ちゃんはそう言って終了を宣言した。

 さすがにラクエルと二人だけでは森には行かせてもらえない。

 カール兄ちゃんとアズラット兄ちゃんがついてきてくれる。

 うちには他にもシーフの兄ちゃんや武僧の兄ちゃんがいるけど、残念ながら今回はお留守番だ。

 さて、なぜ急に森を探索することになったのか?

 それは少し前に遡る。

 それはある日のことだった。


「巣に荷物忘れた」


 いきなりラクエルが言い出した。


「荷物って?」


「剣。あのね、定期的にダンジョンのモンスター減らさないと外にあふれてくるの! 剣を振れば少なくなるの!」


「いまいちわからん」


 なので父さんに伝える。


「まずいことになった」


 父さんがうなだれる。

 状況は案外深刻だった。


「もしモンスターが外に出てきたら、領地の戦力じゃ足りないかも」


 ……状況は最悪だった。


「剣は選ばれた挑戦者だけが触れるよ」


「選ばれた……?」


「うんリック」


「お、おう」


 選ばれてしまったらしい。


「さすがに若すぎるんじゃないかな? ラクエル、パパが代わりに行こうか?」


「ダメ。リックに決まったの」


 よくわからんが決まってしまったらしい。

 父さんも普段なら笑ってスルーするところだが、ことダンジョンのことでドラゴンの言うことだ。

 真剣に検討するしかない。


「ねえラクエル。あふれるまで時間はどのくらいあるのかな?」


「次の夏まで」


「案外時間がないな……それじゃ……リック、鍛えながらダンジョンに入れるようにするぞ」


 そもそもダンジョンへの挑戦は前から打診してた。

 すこーしだけ訓練のスケジュールがハードになるだけだ。

 たぶん少しだけ。

 ものすごく?


「まずはカールとアズラットの許可を取れ。そしたら実地で訓練するぞ」


 ということになったのである。

 俺への期待と信頼感が高いのだろう。

 誰も反対しなかった。

 むしろ兄ちゃんたちの多くが【俺も行く】と言い出した。

 本当はものすごく心配したのだろう。

 今考えれば当たり前だよね。

 でも俺はそのときそこまで考えてなかった。

 ただラクエルとの【ごっこ】じゃない冒険に胸を膨らませていたのだ。

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