第3話
「ママー!」
ラクエルが母さんに抱きつく。
すっかりママっ子だ。
あれから三日が過ぎた。
ラクエルは母親にべったりだ。
「ラクエルちゃーん、パパでしゅよ~」
野太い猫なで声が聞こえた。
父さんが母親に抱きつくラクエルに頬ずりする。
「や~ん♪」
短い足をパタパタ動かしてうれしそうである。
なんだろうこの幸せ家族。
夜の団らんの中心はラクエルになった。
両親にべったりなラクエルだけど、寝るときは俺と一緒だ。
俺が自分の部屋に行こうとするとラクエルは飛び降りて俺のところに来る。
「ねんこ? ねんこなの!?」
ピョコピョコせわしなく動く。
「うん寝るよ」
二人で子ども部屋に行くとラクエルはベッドに飛び乗る。
「寝るよ! 寝るよ!」
眠るテンションではないが、俺も毛布を被る。
するとムリヤリ入ってきて俺の足の間に入る。
その場で手足を使って寝床を作ってそこにゴロン。
俺の足を枕にする。
重いけどもうなれた。
ランプの明かりを消すとすぐに寝息が聞こえてくる。
そしてだんだん上半身まで移動してきて俺の腕を枕にするのだ。
そのまま抱き寄せて俺も眠った。
ラクエルは柑橘の匂いがした。
次の日。
なぜか抱き合った状態で起きる。
うーん?
うん?
ラクエルの抱き心地が違う?
ふわふわの毛がなくなってる。
なんだか布のような。
寝ぼけ眼で確認すると俺が抱きついて、同時に抱きつかれてる生き物が見えた。
だいたい俺と同じくらいの年。
さらさらの黒髪。
ブルネットとは違う漆黒。
透けそうなほど色白の肌。
右目の目元にほくろがある。
フリルの着いたかわいい服を着ている。
ただ頭にはヤギみたいな形の黒い角が生えていた。
侍の兄ちゃんと同じ民族だろうか。
だがとんでもない美少女だ。
お前女だったのか……。
そして背中にはコウモリみたいな羽が。それがピコピコ動いている。
とりあえず、だ。
俺に絡める手をそっと外して毛布をかけておく。
「ごは~ん……」
その声! まさかラクエルのなのか!?
……しかたなく父さんを呼びに行く。
「父さん! ラクエルが!」
雛を育てた経験のある父さんは飛び起きる。
小動物はすぐに容態が変わるのだ。
そして俺の部屋でラクエルを見る。
「ラクエル?」
30近い大人が小首を傾げる。
かわいくない。
「ラクエルだ」
「ラクエルちゃーん。パパでしゅよ~」
声をかけるとラクエルが起きる。
まだボケてる。
片目をつぶって船をこぎながら起きてくる。
「あい……パパ……」
「姿が変わったんでしゅね?」
「……あい。リックと同じになりたいと思ったらできました」
そのまま寝てしまう。
「リックあとで話し合おう」
家族会議開催決定。
ラクエルが起きてから家族会議。
今度は母さんも参加だ。
ラクエルはおすまししてる。
「あらあらあらあらー。かわいいー!!!」
え、そこ?
そこなの?
「どうしてリックと同じになりたかったの?」
さすが母さん。
優しい声で聞いている。
「あのねママ! リックと同じ遊びがしたかったの!」
確かにドラゴンの手は遊具を使う遊びに向いてない。
「そっかー」
納得したんかい!
すると母さんがラクエルを抱っこする。
「そっか。ねえラクエル、リックのこと好き?」
「だいすき!」
「パパは?」
「だいすき!」
「ママは?」
「だいすきー!!!」
「じゃいっか」
いいのかーい!!!
結局、家族会議の結果は思考停止。
しわ寄せは俺に来るのだ。
「リック~、待って~」
ニコニコしながら俺を後ろをついてくる。
そして俺に飛びついてくる。
女の子にこんなことされるなんて……なんか恥ずかしい。
「ヒューヒュー!」
ユーシス兄ちゃん……キャラ崩壊させてでも俺をからかいたかったのよ!
俺になんか恨みでもあるのか!!!
「私はモテるヤツは許さない。絶対にだ! ……それは冗談として」
絶対本音である。
「勉強の時間ですよ。その……ラクエルなんですよね? 一緒に勉強します?」
「うん! ラクエルやる!!!」
俺は勉強が嫌いだ。
でも、この時点で情けなく逃げるという選択肢は消えた。
ラクエルいるし。
そのくらいの見栄はある。
俺はユーシス兄ちゃんが差し出した本を開く。
「では前回の続きから。トリスタン2世の最大の実績は?」
「邪竜の討伐。勇者の功績なのに手柄を独り占めにするのはどうかと思うけど」
「討伐を発注したのも金を出したのも国王です。それが政治と思ってください」
「正解。邪竜は何をしましたか?」
「世界を腐敗と死で満たそうとした」
「正解。では邪竜退治で何が起きましたか?」
「諸侯への報償の支払いの遅延。相手が国じゃないから領土も金も持ってなかった」
「正解……ラクエルどうしました?」
ラクエルが目を見開いている。
てっきり眠ったと思ったのに。
「トリスタン2世……王様は約束を破ったよ」
「はい? あのラクエル……」
「王様は食べものをくれるって言ったの。でも行ったら千を超える騎士や魔法使いが待ち構えてたの」
「あ、あの……」
「羽に穴を開けられて、口に何かを詰め込まれ、魔法も使えないように目を焼いたの」
ラクエルの様子がおかしくなった。
すると庭からなにかが飛び込んできた。
「わん!」
パピーだ!
パピーはラクエルの前に立つとベロンと顔をなめた。
「にゃー! なになになになに!?」
パピーに押し倒される。
ラクエルはベロベロ顔をなめられた。
「やーん! やめてー♪」
俺はナイスタイミングと心の中でサムズアップした。
だけどユーシス兄ちゃん様子は違った。
何やら考えながらブツブツ言ってる。
「ラクエルはトリスタン2世を知っている……つまりなんらかの記憶の移転ができるはず……これだけで世界がひっくり返るニュースだぞ……」
ちょっと怖い。
「ラクエルあなたはいつの時代から来たんですか?」
「わかんない」
ですよねー。
わかりませんよねー。
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