翔子宜しく
俺と翔子の海で撮影したファッション誌だが最後に撮った二人の笑顔の写真が表紙になるという事になり事務所で盛り上がったと佐久良さんに聞いた。
俺としては、初仕事のぎこちない顔が全国に晒されるかと思うと恥ずかしくて死ねるレベルだ、でも、翔子の笑顔は見た人を殺せるレベルだ。
殺人雑誌なのか。
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昨日の夜、翔子から電話があった。
『急で悪いんだけど、明日、両親と逢ってくれない。丁度、パパもママも家に居るから』と言われ引き受けた以上今更断れないので了承した。
翌日、電車に乗って待ち合わせの駅まで行くと、翔子が迎えに来てくれたので、そこから家まで向かったのだけど、途中には同じようなマンションが何棟かあり、すべて○○姫嶋とついているところを見ると関係のある建物だろう。
マンションの林を抜けると白亜の豪邸が見えた。
言うまでもなく姫嶋翔子お嬢様の自宅だろう。
なんて広さの家なんだと思ったが、翔子の家は町工場をしていたらしく、その跡地に現在の豪邸を建造したらしい。
俺の家が10個は入りそうな敷地だ。
「翔子、帰っていい?」「ダメに決まってるじゃない!」家の前まで来て、怯んだ俺は情けない提案を翔子にしたが速攻却下された。
仕方がない、ここは腹をくくって特攻するしかない。
覚悟を決めたところで翔子に続いて玄関から入った。
「ただいま、帰りました」「失礼します」と翔子に続いて挨拶をしたが、返事がない、暫くして隣の部屋から翔子にそっくりな女の人が出てきた。
「いらっしゃい、あなたがユーリアさん?」確実に驚いているなと思った。
「初めまして、翔子さんとお付き合いさせていただいております。ユーリア・イリイーチ・ヨシムラと申します」定型文の挨拶をする。
「初めまして、翔子の母の
「ロシア系のハーフです。本当は父がハーフで母が日本人なので僕はthree quarters(4分の3)なんですけど見た目がこんな感じなのでハーフって言ってます。国籍は日本です」
「そうね、名前の後にヨシムラって姓がつくって事は、おじいさまが日本人ってことですものね。私にもロシア人のお友達がいますのでわかりますわ」と言った。
名前で、わかってくれたのは初めてだ。
流石、世界規模の企業だなと思った。
「立ち話もなんですから客間のほうへ、翔子、案内してあげて」
「はい、お母様」いつもの翔子ではなく完全なお嬢様モードだ。
客間と呼ばれる20畳ぐらいのホールに案内されたのだけど、ソファーに父親らしき威厳のある男の人が座って、書類を見ていた。
「お父様、私のお付き合いしている方を連れてきました」そこで初めてこちらを見た。
「は、はじめまして、翔子さんとお付き合いさせていただいております。ユーリア・イリイーチ・ヨシムラと申します」と先ほどと同じ挨拶をしたが、さっきより緊張した。
「うむ、父の姫嶋慎太郎だ。翔子とはモデル仲間ということだが、君も高校生かい」翔子が同じ高校に行きたいと言っているのにその質問かと思ったが
「はい、同じ歳です。初めてのモデル仕事で意気投合してお付き合いさせていただいております」
「そうか、ところで姫嶋鋼業って会社は知っていたかい」また、変な質問だ。
「名前は聞いたことがありますが詳しくは知りません。日本有数の企業って程度です」思ったまま答えたが何が言いたいのか解らなかった。
「ほう、翔子がその企業の社長令嬢って知ってたのかい」そう言うことか、俺が翔子の正体を知って近づいたと思ってるのか、意図が分かった途端、腹がたった。
「知りませんよ、そもそも、翔子は翔子です。姫嶋鋼業だろうが、世界有数の企業だろうが知ったこっちゃないです。俺は翔子と付き合ってるんであって翔子の肩書と付き合ってるわけじゃあないですから」と大きな声を上げてしまった。
当然、翔子はドン引きしてるし、お母様も驚いていたけど、父親はというと俯いて肩を震わせていた。
怒らせてしまったかと一瞬、考えたがむかつく質問に何と思われようともかまわないって調子で答えた。
悔いはない。
「ハハハハハ、面白い青年だね。ちょっと沸点が低いようだが、……翔子、お前の転校を認めるよ。但し、転校してすぐ別れましたは無しだ、お前が認めた相手ならとことん付き合え、良いとこも悪いとこもきちんと見極めるといい、それが人を見る目を養うってもんだ」とお父様は面白いものを見つけたという感じでそう答えた。
「良かったな、翔子、これで本当に同級生だ」隣の翔子の頭を撫でながらそう言うと「はい、これからはずっと一緒に居られるね」と嬉しそうに答えた。
ずっと一緒に居られる?なんか不穏なキーワードが出てきたのだが……。
暫く、慎太郎さんと美咲さんと翔子の4人でモデルの仕事のことや俺の高校のこと、俺の家族のことなんかを話した。
最初の印象と違って、翔子の両親はとても好意的で親しみやすかった。
俺の両親が日本に居ないことを知って、たまには遊びに来るように言われた。
帰りも翔子に駅まで送ってもらったが行きと違って車を出してくれた。
「ユーリア、今日は来てくれてありがとう色々話せて楽しかった」
「俺も楽しかったよ。また、遊びに行くよ」そう言って別れた。
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姫嶋家に訪問してから数日が経った。
いよいよ今日から翔子がうちの高校に転校してくる。
朝から校長室に入っていく翔子を見かけた生徒が美人の転校生の話をクラス中に広めてワイワイ騒いでいた。
自分たちのクラスに転校してくることは机の配置を見ても明らかなのに男子という生き物は単純で度し難い。
ちなみに席は俺の隣、なんか忖度のにおいがする。
で、今はその席に紗季が座っていて朝からにぎやかなクラスで俺と話していた。
「翔子、今日からだね。ユーリア君は結局、彼氏ってことで翔子の両親に認められたって、嬉しそうに話してくれたんだけど、私ってユーリア君の何になるのかなと思って」確かに俺は紗季に付き合わないかと言った気がする。
「俺、前に紗季に付き合わないか聞いたよね?紗季の返事聞いてないんだけど、今のところは紗季は部活仲間だな。翔子はモデル仲間だけど、ひょっとして翔子に嫉妬してたりする」両方の手のひらを前に出しながらバタバタと紗季が明らかに狼狽えている、その見た目が可愛くて思わず頭を撫でてしまった。
「そういうところ、私を子ども扱いしてるでしょ」顔を真っ赤にしてるのは相変わらずだ、怒っていてもかわいい。
「可愛いなって思って、自然と手が頭のほうに…、怒った?ごめんな」そんなやり取りをしていたら朝のHRの時間になったので紗季はクラスに戻った。
朝のHRは先生に続いて、みんながお待ちかねの転校生、姫嶋翔子の登場である。
翔子は真っ先に俺を見つけて手を振ってきた。
近くの男子が顔を赤らめている。ラノベあるあるか。
「今日からこの学校に転校してきた姫嶋翔子さんだ、みんな仲良くしてくれよ。姫嶋、自己紹介よろしくぅ~」と担任が翔子に振った。
「初めまして、姫嶋翔子と申します。そこのユーリア君とは、すでに友達以上の関係ですが皆さんとも仲良くしたいなと思いますので、これからよろしくお願いします」と、おいっ友達以上の関係ってなんだ。
「姫嶋さん、ユーリア君と友達以上ってどういう関係ですか?」陽キャの代表みたいなやつが質問した。
「え~と、…男と女の関係?みたいな⁉」
「「「「「ええええええええええ~~~~~~~!!!!!!!!!」」」」」クラス一斉に声が漏れた。
早速、翔子のペースにのせられて、と思ったから「お前らが考えているような不純な関係ではないぞ」とだけ言っといた。
当然のように翔子が隣の席に座って「どう、私の挨拶、完璧でしょ」と絡んできたので「どこが」と言うと「これで、私に悪い虫は寄り付かな~い」とドヤ顔で言った。
流石、姫嶋翔子と感心せざる負えないな。
授業の合間の小休憩の度に、翔子の周りに人が来たので居心地が悪かった。
最近、昼休憩は部室で昼食を食べているので、教室を出ようとしたら翔子に腕をつかまれた。
「ユーリア、お昼、一緒に食べよう。どうせ学食か購買でしょ、お弁当作ってきたからどう?」と聞かれた。
「アッ、弁当か、紗季が作ってくれてると思うんだ。これから部室に行くけど翔子も来る?」と聞くと「行く行く」と言って弁当を持って着いて来た。
部室に行くと既に紗季がいてお茶を3人分用意していた。
「用意がいいね。翔子が着いて来ること知ってた?」と紗季に聞くと「女の勘ね」と答えたので初めて紗季がうざいと感じた。
いつものソファーに座り、紗季と翔子から差し出された弁当を食べたのだけど、食べなれている紗季の弁当はともかく翔子の弁当もすごくおいしかった。
「翔子も料理上手だな。弁当、めちゃくちゃ旨いよ。紗季もいつもありがとう、今日の弁当も美味しかったよ」と言うと「朝から頑張ったからね。一応、私の手作りだから、喜んでくれてなによりだよ」と翔子にしては珍しく照れていた。
紗季は相変わらず顔を真っ赤にして、自分の弁当を食べていた。
「ところで、この部室って二人の愛の巣か何か?なんか色々充実してない」と周りをキョロキョロ見ていた翔子が気になったのかそんな事を聞いてきた。
「愛の巣ってことはないけど、俺たちの自慢の部室だよ」
「翔子、愛の巣って古くない、sweet roomとでも呼んでほしいな」と紗季が言うので「それを言うならsuite roomな」と訂正しておいた。
大体、甘い部屋ってお菓子の家か。どうでもいいけど。
お昼ご飯を食べ終えてお茶を飲んで寛いでいたら翔子が俺のほうを見て
「二人にお願いがあるんだけど、私も『友達部』に入っていい?」と聞いてきた。
俺も紗季も当然入部するものだと思っていたから了承した。
「一応、決まりだから後で、先生に入部届出しといて」と言ったら、今度は翔子が俺たちに「よろしく、先輩」と言ってきた。
その後、昼休憩が終わるまで、また三人でまったりしていた。
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