紗季と翔子

「佐久良さん、何故に姫嶋先輩が乗ってるんです?」


「ちょうど、午前中、事務所のほうに来ててね、一緒にお昼してて、ユーリア君を迎えに行くって言ったら着いて来たのよ」


「なるほど、姫嶋先輩は今日オフって言ってませんでした?暇なんですか?」


「そうだけど。ところでユーリア君の彼女、可愛いね。同じ学校?」と紗季に聞いた


「はい、澄川紗季です。同級生で、同じ部活です」彼女のところは否定しないんだ。


「へぇ~、私は、姫嶋翔子、ユーリア君の先輩モデルよ。部活って何部?スポーツ系?楽しい?」姫嶋先輩はここぞとばかりに、質問攻めにしてる。


「先輩モデル?…えっと、『友達部』です。部員は2人だけですけどね」紗季は真面目だから普通に答えてるけどやっぱりよそよそしい、人見知り何だろうな。


「へぇ~、友達部って、友達になるよって部活?友達作ろうよって部活?」


「どっちもかな。基本は俺の友達を作る部活なんだけどね。俺さ、生徒や先生から嫌われててさ、部活動でもして大人しくしとけって部活なんだ」と姫嶋先輩に説明すると「そんなことで部活ってできるんだね」と不思議そうにしていた。


「姫嶋さんってモデルさんなんですね。先輩ってことはユーリア君のバイトってモデルさん?」と紗季が聞いてきたので「そうだよ、これから撮影なんだ」と答えた。


--------------


「佐久良さん、紗季が着いてきても良かったんですか?」


「大丈夫よ、モデル志願の見学者って割といるからね。ユーリア君が有名人だったらNGだけどね」


「そうなんですね」今、このワゴン車には助手席に俺、後ろの席に姫嶋先輩とたまたま俺ん家に来た澄川紗季が乗っている。


紗季はモデルの仕事に興味があるらしくて、見学に来る?という佐久良さんのお誘いに二つ返事で答え、俺のモデルの仕事に同行している。


しばらくして、車はスタジオのあるビルに到着した。


エレベーターで10階まで上がりスタジオの受付で佐久良さんが話をして、俺たち3人は佐久良さんの後に続いて中に入った。


俺がモデルの仕事をするスタジオは1面Rホリゾントと呼ばれるタイプで壁と床の接合面が半径1〜2m程度のR(アール)で繋がっていて、撮影時に角に影が入りにくい作りになっていた。


撮影まで、奥の控室で休憩していると佐久良さんから連絡をもらった史内さんがやってきてたので、俺は澄川紗季がモデルに興味がある事を伝え色々話を聞くことにした。


「こんにちは、澄川紗季さん、私はスカウト部の部長をしている史内隆俊と言います。丁度、現役のモデルさんが2人いるので詳細はユーリア君や姫嶋さんから聴くと良いでしょうけど、私からは契約面の話をいくつかしないといけません。澄川さんがうちの事務所に所属してくれるとして、レッスン料とか契約金のような金銭は一切発生しません。ただし、報酬の30%は事務所側の収入となります。仕事は事務所を通してという形になりますので勝手にSNSとかに投稿するというのは控えてもらいます。恋愛云々に関しては事務所が禁止するというのはありませんが節度のある生活を送ってください。細かいことは契約書に書いてありますが概ねこんな感じです」史内さんの話が終わるころ、そろそろ準備をしてくださいとスタッフさんに言われたので着替えることにしたが、紗季も姫嶋先輩も、俺の着替えをじっと見るので後ろを向いて着替えた。


「何、もじもじ着替えてんのよ」「減るもんじゃなし」「恥ずかしがってんじゃないわよ」と姫嶋先輩のヤジがうざい。


今日の撮影は、秋ファッションということで新着のコーデを着こなすという普通の撮影だった。


クライアントさんが、いくつかレディースも持ってきてるということで、後から姫嶋先輩と紗季も撮影に参加した。


姫嶋先輩と俺のツーショットは一度撮影しているだけに完璧だった。


紗季と俺のツーショットは、初めてのモデル撮影で緊張したのか、紗季がずっと顔を真っ赤にしていたが、それが気に入ったのかカメラマンさんのシャッターを切る速度が半端なかったように思う。


3人での撮影は紗季も慣れたのか楽しく撮影ができた。


突然の乱入者とはいえ、女子がいると撮影が華やかになるせいか、スタッフさんやカメラマンさんの気合いが違う気がしたのは気のせいではないはず。


今日の主役は俺なので二人はエキストラ的な感じで扱われるらしい。


撮影が終わり佐久良さんが送っていくと言ってくれたので、みんなで車に乗り込んだのはいいけど何故か俺の家に行くことになった。


「紗季は家に送っていかなくていいのか」って聞いたが「大丈夫」というし、姫嶋先輩は「ユーリア君に話があるから」って最初から家に来るつもりだったらしい。


佐久良さんには「まだ仕事があるから行けないが、くれぐれも理性をなくすことのないように」と釘を刺された。


場合によってはわからんよ。


だって、男の子だもん!


--------------


俺の家に今、別嬪と美少女がいる。


今日のモデルの仕事を終え帰宅してきたわけだけどなぜか2人が着いてきた。


姫嶋先輩は、仕事の後、話があると言ってたんだが、紗季は帰らなくていいんだろうか。


「紗季、帰らなくて大丈夫なのか?姫嶋先輩も俺の家でなくても話はできただろ、どうして2人ともついてきたんだよ」とちょっと不機嫌な感じを混ぜて二人に抗議した。


「私は、大丈夫ですよ。明日はおじいちゃんの家から学校に行くつもりだったし」紗季がなんとなくお泊りしそうな言い方をしてきた。


「紗季…、何言ってんの」姫嶋先輩が紗季の発言に俺と同じニュアンスを感じたのか紗季を咎める。


「えっ、おじいちゃんの家この近所だから大丈夫だけど」紗季にしたら普通に祖父母の家で泊まる段取りの様だ。


「で、姫島先輩もまさか近所ってわけではないですよね」


「私は、タクシーででも帰るわよ。まさか、お泊りするとでも思ってたのかしら。私で童貞捨…」とんでもないことを言いそうだったので慌てて口を塞いだ。


「なんで俺が童貞ってことになってるんですか。そもそも…まっ、いいです」


「ユーリア君はドウテイなんですか?」顔を真っ赤にして紗季が聞いてきた。


「そんな話はいいから、先輩の話って何です?紗季も一緒に聴いていいんですか?」


「そうね、別に紗季がいてもいいわ。それより紗季は名前呼びなのに私は先輩って、翔子って言ってもらいたいんだけど」今更、名前呼びにしろと言うのか。


「先輩は、先輩って感じなんだけどな。翔子っていうのなんか違和感があるなぁ、紗季も翔子さんて言ってるじゃないですか」


「えっ、翔子さんって年上ですよね?」


「ほら、紗季も勘違いしてるじゃない。私は同い年よ高校1年生だから先輩ってわけじゃないんだけど、モデルとしては先輩だけどね」


「そうなんですね、ユーリア君がずっと先輩って言ってたから年上だとばかり思ってました」姫嶋翔子は大人っぽく見えるからな、ほんと見た目で判断する人間が多いから色々損をする。


「そういうことで、二人とも今度から、翔子っていう事、分かった」


「翔子、で、話って何?」


「急にぞんざいな扱いなのね、…私ね今の学校、やめようかと思ってるの昨日の海での撮影って全国版の人気ファッション誌なのよ、発売日に間違いなくばれるはずだからユーリアには言ったわよね。モデルの仕事がばれると退学になるって、その前に辞めようかと思って、自主退学っていうより転校ね。ユーリアや紗季の学校に転校しようかと思ってるの、それでねユーリアにお願いなんだけど私の両親に逢ってもらえないかな?同じモデル仲間で付き合ってる人ってことでね、どうせモデル仕事がばれると退学だから彼と同じ高校に通いたいってことをお父様に話そうと思ってるの、架空の彼氏より現物がいたほうが説得力あるでしょ、お願い協力して」現物って俺は物かよと思った。


「昨日、知り合ったばかりの俺で言いの?」と心配になり聞いた。


「他に頼める友達もいないしね。ユーリアとは相性良さそうだし適役かなと思って」昨日、一日仕事をしただけだが確かに翔子とは相性がいい気がした。


それに別嬪のお願いには弱いんだよな。


美少女のお願いにも弱いけど。


「いつ、両親に逢えばいい。俺、一張羅とかないけど制服でいいかな?あと挨拶って“翔子さんを僕にください”って感じでいいか?」ってふざけてみたけど、ツッコミもなく、それどころか翔子は真剣な顔をしているので引き受けることにした。



その時の紗季の顔は何だか辛そうだった。








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