不良と別嬪
土曜日、今日は朝からモデルの仕事が入っている。
少し遠出をするということで朝からの出発となった、目的地は海のようだ。
初仕事でいきなり野外撮影とはと思ったが、話を聞くと本来この仕事をするはずだったモデルが不祥事で降ろされたという事で急遽、俺になったそうだ。
午前6時、早い時間に佐久良美鈴さんが大きなワゴン車で迎えに来てくれた。
もう一人、モデルさんを乗せて行くということで待ち合わせ場所に向かった。
待ち合わせ場所の駅のロータリーには、白のワンピースにサングラスをかけた落ち着いた感じの黒色の髪の長い女性が立っていた。
この人が、今日一緒に仕事をするモデルさんのようだ。
車を止めて自動で後部座席の扉が開く。
「おはようございます」とサングラスを外しながら、意外と元気な声で乗ってきた。
目鼻立ちのはっきりした、正に別嬪さんという感じの女性だった。
「おはようございます。初めまして、ユーリア・イリイーチ・ヨシムラと申します。今日はよろしくお願いします」と新人なので自己紹介も兼ねて挨拶をした。
「アッ、初めまして、
「はい、高校生です。1年です。一応、ロシア系ハーフですけど国籍は日本です。って姫嶋さんは何年ですか?先輩ですか?」質問を返す。
「私も高1よ、モデルとしては先輩ね。1か月だけど。ユーリア君はこの仕事が初だよね。モデル童貞貰っちゃったテヘ」1か月を先輩というか、童貞って童貞だけど…。
「それでわ姫嶋先輩、本日は、ご指導、ご鞭撻のほどよろしくお願いいたします」
「おっ、いいね!美鈴ちゃん、私にも後輩出来たよ」とニカッと取っつきやすそうな笑みで美鈴さんにいうと「良かったね」と冷たくあしらわれていた。
見た目、落ち着いた大人っぽい別嬪さんなんだけど話してみると少し残念な感じが否めない。
海に向かう途中、姫嶋先輩と色々と話しをした。
姫嶋先輩は地元では有名な中高一貫のお嬢様学校の生徒で、モデルの仕事は親にも秘密にしているということ、学校は楽しいみたいだけど規則が厳しくてバイトとかも禁止らしい。
先輩は、そのうちバイトがばれて転校することになると嬉しそうに話してくれた。
俺からしたら嬉しいっていうのが信じられない、そう思えるほど今の俺は転校することに対して嫌だと思っていることになるんだろうか。
姫嶋先輩と他愛のない話をしていたら海に着いた。
5月の終わりとはいえ海はまだ冷たい。
俺と姫嶋先輩は水着だ。
撮影のコンセプトは恋人たちの夏から秋みたいな感じらしい
寒いねって言いながらもカメラを向けられると楽しそうにするという行動を繰り返す最初の強張った笑顔から段々と慣れてきて自然な表情ができるようになってきた。
二人共、撮影が楽しくなってきて、気持ちが乗ってきた姫嶋先輩に水着で抱き着かれるという嬉しいハプニングもあったけど俺の顔がNGだったらしい。
姫嶋先輩に「スケベ」と言われた。
水着の後、夏服、秋服と何着かの服を着替え色々なパターンの撮影をしたけど、終始楽しく撮影が終わり最後にまた姫嶋先輩が抱き着いてきた。
その写真は二人とも最高の笑顔で演技無しに恋人の雰囲気が出てるとカメラマンさんにも褒められた。
姫島先輩にも「モデルとして自信が持てたわ、ありがとう」と言われた。
「こちらこそ、
帰りの車は疲れたのもあって、いつの間にか寝ていたがふと太ももに重みを感じて目が覚めたら姫嶋先輩が膝枕で寝ていた。
見た目は大人っぽい落ち着いたお嬢さまって感じだけど寝顔は可愛い女子高生だなと思いながら頭を撫でていたら「んっ~~ぅ」と色っぽい声で起きそうだったので慌てて寝たふりをした。
姫島先輩を駅のロータリーのところで降ろした後、俺の家に向かう途中、佐久良さんから今日の感想を聞かれた。
初のモデルの仕事は楽しかったこと、姫嶋先輩のリードが良かったこと、カメラマンさんがモチベーションをうまくコントロールしてくれたこと、スタッフさんの雰囲気も良かったことなど挙げて佐久良さんにいいところに気付いたと褒められた。
単純に、姫嶋翔子とユーリア・イリイーチ・ヨシムラの相性が良かったんじゃないかという事になった。
家の前に着き、明日は、事務所の近くのスタジオで撮影をするので昼過ぎに迎えに行くと業務連絡をもらって車を降りた。
また、誰もいない家に入って「ただいま」と言った。
でも今日はいつもと違って帰ってすぐに姫嶋先輩からRINEがあった。
『お疲れ様、今日の撮影楽しかった。また、一緒に仕事しようね童貞君♡』と入ってきた。
童貞は余計じゃと思いながら返信を返す。
『お疲れ様でした。先輩の寝顔かわいかったです。俺の宝物にします♡』と仕返した。
速攻で『ありがとう♡アイシテル』と返してきた。
なっ『俺もだよ翔子』と返したら、色っぽい水着を着た先輩の写真が送られてきたので『ごっつあんです』と返してRINE合戦は終了した。
誰かと、こんなにRINEしたのは初めてだなと、また一人の時間の寂しさにふけっていたら今度はスマホに着信があった相手はやっぱり姫島先輩で明日のスタジオでの仕事の後、会えないかという事だった。
日曜日、昼からはモデルの仕事で事務所近くのスタジオで撮影がある。
午前中は特に用事が無いので家の掃除をしていた。
結構まめに掃除をするほうなので、そんなに汚れている訳ではないが、綺麗になるのは素直に嬉しい。
そうやってちまちまと昼までの時間を過ごしていたが、冷蔵庫に何もないことが気になって近くのスーパーに買い物に行くことにした。
昼ご飯は何か作って食べていこうと思ってたので食材を買う。
スーパーのカートを押しながら、いくつかの食材を入れていたら「ユーリア君?」と声を掛けられた。
振り返ると澄川紗季がカゴを持って立っていた。
「えっ、紗季。買い物?」スーパーだから買い物に決まってるだろうけど、こんなところで紗季に会うとは思ってなかったので変な質問をしてしまった。
「うん、この近くにおじいちゃんとおばあちゃんが住んでて代わりに買い物に来たんだけど、ユーリア君はこの近くに住んでるの?」
「ああ、俺はここから5分くらい行ったところの住宅地。児童公園があるあたりだ」
「ひょっとして、カメの滑り台があるところ?」
「そうそう、よくわかったな。紗季の祖父母の家ってそのまわりか?」
「そうだよ、小さい頃よくその公園で遊んだんだ」
「はっはっは、意外と世間は狭いな俺と逢ったことあるかもな」
「ユーリア君と逢ってたら覚えてないわけないよ」
「そうだな、見た目こんなんだもんな、忘れるわけないか」
紗季と話しながら買い物を済ませ、同じ方向だったので紗季と一緒に家に帰った。
家の前で、「俺ん家ここなんだ。寄ってく?」と普通に聞いてしまって、後でしまったと思ったが遅かった。
紗季は恥ずかしそうに「うん」と言って着いてきた。
同級生女子を初めて家に招くというイベントをやってしまった。
紗季をリビングに通して、買ってきた食材を冷蔵庫にかたずけながら「寛いでてよ」
と言ったら「ひゃい!」と変な返事が聞こえた。
「紗季は男子の家に来たのって初めて?」と聞きながらお茶を出した。
「うん、付き合ったことないから…。ユーリア君って本当に一人暮らしなんだね」
「両親は、今年から仕事で海外だからな、まだ慣れてないけど」
「その割に家の中、綺麗ね。家事とかやるんだ」と感心しているようだ。
「たまに掃除してるし洗濯は全自動だけど、一応、料理とかもできるぞ」
「それで、同棲とかって問題なかったんだね。いいなぁ、一人暮らし」
「紗季なら問題ないぞ。一緒に住むか?」って紗季をからかっていたら本気で怒ってきた。
「何度も何度もからかわないで!!」顔が真っ赤だけど
「正直な話、一人暮らしって寂しいよ。帰ってきて“ただいま”って言っても返事ないしね、慣れてきたらこんなものかと思うのかもしれないけど今はまだ慣れないし…」
“だから結構、本気だったんだ、この前、紗季に付き合うかって言ったこと”とはなんか寂しさを紛らわすために付き合おうとしてるみたいで言えなかった。
「ごめん、何かしんみりしてきたね。お昼ご飯なんか作るけど食べてく?」そう聞くと、紗季は頭を振って「ううん、そろそろ帰るね。また、あそびにきていい?」って聞いた来たので「いつでもおいで」と答えた。
玄関で紗季を見送り、キッチンに戻ってチャーハンを作って食べた後、出かける用意をしてリビングで寛いでいたら、インターホンが鳴ったので佐久良さんが迎えに来たのだと思って玄関に行くと紗季が立っていた。
「さっきぶりだけど、なんか忘れ物?」紗季は俺の格好を見て固まっていた。
「これから、…出かけるの?」
「ああ、バイト」
「…そっか」そのタイミングで佐久良さんの運転するワゴン車がやってきた。
運転席に佐久良さんの引きつった笑顔が見えたかと思うと後部ドアが開いて姫嶋翔子先輩が満面の笑顔で手を振ってきた。
「綺麗な人」紗季がボソッとつぶやいた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます