紗季の正体

澄川紗季はいじめられていた。


入学早々、澄川紗季は男子の話題を独占するほどの美少女と噂が広がった。


学年、一、二を争うかというレベルの女の子ということで、1年C組の教室には澄川紗季を見たさに1年のみならず先輩男子も覗きに来ていた。


そんな美少女だから、すぐに告白するような男子が現れ、連日、澄川紗季は告白を理由に呼び出され、断るのに苦労する日々が続いた。


一部の女子からは告白を断り続ける澄川紗季の行動を不快に思い、嫌がらせといういじめを澄川紗季に行っていた。


次第に、いじめはエスカレートしていきクラス全体に広がった。



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ユーリアは澄川紗季がいじめられていることを知ったのは、紗季に用事があってC組の教室を訪れた時だった。


すぐに教室に居た澄川紗季を見つけた。


と言っても澄川紗季の周りには誰も居ないのでわかりやすかった。


そばに行って気づいた、紗季の机の上にぼろぼろの教科書と落書き、紗季に声を掛ける前に教室全体を睨みつけると、教室に居た生徒は一斉に目をそらせた。


ユーリアはとりあえず自分の用事を済ませるため紗季に声をかけた。


紗季もこちらに気づいて、一瞬寂しそうな顔をしたが作り笑いで答えた。


「紗季、俺、今日用事があるから、のカギ渡しとくから適当にくつろいでいてくれ」と教室中に聞こえる声で言ってのカギを他の生徒が見えるように渡した。


「えっ!」紗季は一瞬驚いたような顔になったが渡された鍵が見覚えのあるのカギだったのでユーリアの言葉の意味を理解した。


「今度、作っとくわ。…それと教科書貸してやるから俺について来い」といって紗季の手をひいて教室を出て行った。


二人が出て行った教室では、澄川紗季とユーリアが付き合っているとか同棲してるとか澄川紗季をいじめるとユーリアが黙っていないとかいろいろな声が聞こえた。


ユーリアの意図するところだ。


ユーリアと紗季はユーリアの教室、1年A組に来ていた。


不良のユーリアと美少女の澄川紗季の登場に、A組の生徒もC組同様、驚いていた。


先ほど、C組で見せたように手をつないで自分の机まで行き、数学の教科書を紗季に渡した。


「俺の教科書も落書きだらけだけど紗季の教科書よりは見やすいと思う」


「あ、ありがとう」紗季はちょっと泣きそうな顔になって感謝の気持ちを伝えた。


「ごめんな、余計なことをして、でも、もう大丈夫だと思うよ。みんな勘違いしてるはずだから」小さな声でそう言って紗季の頭を軽く撫でた。


「じゃあ、授業終わったら返しに来るね」目元に少し涙しながら紗季は教室を出て行った。


その日のうちに、不良のユーリア・イリイーチ・ヨシムラと学年一、二の美少女、澄川紗季は付き合っていると学園中に噂が流れた。




授業が終わり、紗季が教科書を返しに来た。


「ありがとう、ユーリア君の教科書、ノートみたいに補足が書いてあってわかりやすかった。いっぱい勉強してるんだね。又、貸してね」と微笑む紗季を見て良い事をしたのだと自分に言い聞かせた。


「3週間ほど入院してたからね、退屈だったんで病院で自主勉強してたんだ。おかげで中間テスト7位だったよ。名前はユリアになってたみたいだけど」


「すごいね、私は15位だったかな。名前、載ってたみたいだけど見に行かなかったんだ」と寂しそうに言うので「紗季も勉強、頑張ってるな。今度、一緒に勉強会しようか」というと嬉しそうに「はい」と言った。


本当は、策略とはいえ紗季の気持ちも考えずに自分の彼女の様に扱うのは、あまりに自分勝手だなと反省していた。


そんな身勝手な俺に接してくれるのだから紗季はきっと女神なのだろう。


教科書と一緒に鍵も渡してきたが、本来の目的である今日の部活に行けない事を紗季に説明する。


「今日、俺、放課後用事があるんで鍵は渡しとく、多分、入部希望とか来ないと思うけど一応、部室に待機しててほしいんだけど」


「じゃあ、私も今日は部活、休もうかな」と言って、やっぱり鍵を返してきた。


「了解した。じゃあ用事のついでに合鍵作ってくるわ」そう言って受け取ろうと手を伸ばしたら紗季は耳元に寄ってきて「責任、とってよね」と色っぽく微笑んだ。


一瞬で豹変した彼女にドキッとした。


心を鷲掴みにされた気分だった。



この子は女神じゃなくてサキュバスか


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放課後、待ち合わせの前にユーリアは鍵屋で部室の合鍵を2本作った。


そのあと、待ち合わせの喫茶店、カフェルークスに顔を出す。


カフェルークスにはすでに2人のスーツ姿の男女が席についていて、その前にユーリアは座った。


男のほうがまず口を開いた。


「ユーリア・イリイーチ・ヨシムラさん、今日は時間を取っていただきありがとうございます。こちらはあなたの担当をしてもらう佐久良美鈴さくらみすずです。今年からモデル部門の担当になった新人ですが仕事は出来ますので安心してください」と史内隆俊ふみうちたかとしさんが言った。


「佐久良美鈴です。これからよろしくお願いします」綺麗な女の人っていうのが佐久良さんに対する第一印象だ。


「ユーリア・イリイーチ・ヨシムラです。ロシア系のハーフです。まだ高校生なので本格的な仕事は無理かもしれませんが自分なりに頑張りますのでよろしくお願いします。史内さん、佐久良さん」


「これからは佐久良が君の担当として会社とのつなぎ役になるからねスカウトの僕はここまでの仕事かな」と史内さんが言った。


「俺は、史内さんのこと信じてモデルの仕事引き受けたんで、そんな冷たいことは言わないでください。まだまだ見ててくださいよ」


「ヨシムラ君はずいぶん史内さんのこと買ってらっしゃるのですね」


「俺を、一人の男として認めてくれた人ですからね。この仕事が俺の居場所になると史内さんが言ってくれたので決心したんです。学校では不良だ、邪魔者だ、って先生や生徒から、かなり嫌われてます」そう言って史内さんを見たら辛そうな顔をしていた。


モデルの仕事をするきっかけになったのは確かに史内さんにスカウトされたことが始まりだけど、俺もこの人もなんか似てるなって感じたのが話を聞こうと思ったきっかけだった。


色々、話しているうちに史内さんが兄のように思えてきてこの人なら信用してもいいかなってくらいの気持ちになった。


それでモデルの仕事をしてみようと思うようになった。


その後、佐久良さんとモデルの仕事について話をして、史内さんも交えながら業界のことや裏話なんかも聞きながら、所属している事務所が結構大手ということでビックリしたりして、楽しい時間が過ぎていった。いつの間にか午後7時になっていたので、今日は帰ることにした。


仕事は大体、土日で早速、明後日の土曜日からということになった。


帰りは、土曜日の迎えの下見ということで佐久良さんの運転で俺の家の前まで送ってもらった。


礼を言って車から降り、誰もいない玄関で「ただいま」と言う。


当然、返事はないがいつもより人と接した分だけ気分が良かった。


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次の日、いつもの時間に学校に登校したが、皆の視線がやけに気になった。


教室に向かう途中も俺のことを見てひそひそ話しているように感じた。


自分の席に座り授業の準備をしていると、紗季がやってきた。


「おはよう、紗季。どうかした?」紗季の顔を見つつそう聞くと


「ユーリア君、学校中で私たちの噂で持ちきりなんだけど」


「噂って?」なんとなく解っていたけど紗季に聞いてみた。


「私とユーリア君が付き合ってるとか、…みたいな噂」耳まで真っ赤にして紗季がそう答えた。


「迷惑?紗季が迷惑なら大声で否定するけど」いじめを止めさせる手段としての作戦だったが本人が迷惑だと思ってたら本末転倒だ。


「ううん、迷惑じゃないけど……同棲は…ちょっとね」伏し目がちな紗季もかわいいなとか思いながら、美少女のもじもじするしぐさを官能していた。


「朝から眼福だな」お~っと、心の声が漏れた。


「眼福って何よ!!ユーリア君、ひとごとみたいね」どうやらお楽しみはここまでか、紗季を怒らせてしまった。


「ごめんごめん、いっそ俺たち付き合うか?同棲もいいかもな。俺、一人暮らしだし」


「えっ!!」盛大に驚いているが相変わらず顔も耳も真っ赤だな。


「あっ、そうだ紗季に渡したいものがあったんだ。これ」と言って昨日作った合鍵を2本出して1本を紗季に渡した。


冷静な紗季なら部室のカギだと解りそうなものだけど、今の紗季は冷静でなかったのか鍵を受け取った途端、さっきより真っ赤になってしだした。


「今日の紗季は忙しいな」また、心の声が漏れたけど聞いてなさそうなので良かった。




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