傷つく灰銀

職員室から出た俺は一旦、教室に戻って鞄を取り帰ることにした。



教室には、男女6、7人くらいのグループが残っていて、どこか行こうかとか他愛のない会話をしていたが俺が教室に入った途端みんな黙った。


露骨に嫌な顔をする人もいる。


俺が出て行った途端またガヤガヤと話し声が聞こえた。


嫌われ者は退散、退散…。


途中で委員長とすれ違った「さようなら」と言ったが、目を逸らせて何も言わず通り過ぎた。



いつもの帰り道が遠く感じる。


俺、何かしたかな?


みんなの態度に高校に行くのが嫌になった。


帰っても一人暮らしだし、最初に思ったバラ色の高校生生活なんて夢のまた夢だ。


現実はそんなに甘くないってことか。



誰もいない家に、一応「ただいま」と言う、当然返事はない。


今日のこと、先生や委員長の態度に結構傷ついた。


誰かに聞いてほしいそう思った瞬間、何とも言えないタイミングでスマホから着信音が鳴った。


モデル事務所の史内さんからの電話だったのですぐに出た。


「史内さん、こんにちは、どうかしたんですか?」


『こんにちは、ユーリア君。急に連絡してすまないね。君に会わせたい人がいるんだが来週、学校が終わってから会えないかな?』


「そうですね、部活の準備とかあるんで木曜日なら大丈夫ですけど、それでいいですか?」


『ああ、問題ない。そうだね、君の学校からだと駅の近くの“カフェルークス”に4時でいいかな?』


「はい、大丈夫です。では、来週木曜日に伺います。それでは失礼します」そう言って話を終えた。


只々、来週の木曜日の予定が出来ただけだが、心の隙間が少しでも埋まった気がした。




晩御飯を食べながら「部活かぁ~、誰か誘うにも嫌がるだろうし、一人でやる部活何かないかなぁ~?」と独り言。


でも、何人から部活動になるんだろう。


1人でもいいのだろうか。


先生の言う、俺と委員長の2人居ればOKなのだろうか。


生徒手帳にそこら辺の決まりでも書いてあるのか、色々疑問が残るがとりあえず俺の部活だからやりたいことをやろう。


そう考えていたら、またさっきの2人の態度に悲しくなった。


嫌っている人と仲良くする必要はないのは分かるんだが、誰ともな仲良くなれないのは自分にも原因があると思う。


人を寄せ付けないのは見た目が悪いからかもしれないが、これは生まれつきなのでどうしようもない。


こんな俺でも友達になってくれる人を探せばいいのか。


決めた。


俺の部活は『友達部』


友達を、俺の友達を作ろうって部活にしよう。




次の日、部活の内容を決めた俺は早速担任の?先生、誰だっけのところに行くことにした。


職員室に入ったが先生の名前が出てこない。


暫く考えていると後ろから「ヨシムラどうした?」と声を掛けられた。


振り向くとそこに?先生がいた。


「部活、考えてきました。俺一人でもいいんですよね?」


「ああ、かまわないよ」


「『友達部』にします。俺の友達を作るための部活です。要は俺がウロウロしなきゃいいんでしょ認めてくれないと“ウロウロ+睨みつける”オラオラ系でいきますよ」


先生は苦笑いしながらそれで通しとくと言ってくれた。



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無事、『友達部』の申請も通って、部室もあっさり空き教室を確保できた。


これで晴れて部活動開始となる。


今は部員一人だけなので実質、学校内に個室を貰ったようなものだけど、ありがたく使わせてもらおう。


とりあえず、必要なものを運び込んどくか。


机と椅子はもともとあったものを使うとして何がいるかな?


誰かが来た時にお茶とか出したりするのにポットとかコップとかの食器、あと本棚も欲しいな。



先生に頼んで本棚やカーテン、ポットと食器、テレビ、冷蔵庫、古い応接セット(テーブルと3人掛けのソファーが2台、1人用を2脚)を確保した。


入り口には『友達部』の張り紙、部室という名目の完全な個人スペースが出来上がった。



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部室が完成して2日が経った。


入り口の引き戸をノックする音がして、突然、来訪者がやってきた。


引き戸を開けると、すごく可愛い女子が申し訳なさそうに立っていた。


「こんにちは、ここ『友達部』でいいんですよね?」自信なさげに俯いたまま聞いてきた可愛い女子に「ああ、『友達部』であってるよ」とぶっきらぼうに返す。


顔を上げた女子だったが、次の瞬間泣きそうになっていた。


やっぱりそうなるわな、この子、気弱そうだし。


「俺は、『友達部』の部長で唯一の部員、1年A組のユーリア・イリイーチ・ヨシムラ、見た目こんなだけど怖くないからね」って小さい子に諭すように言うと可愛い女子は姿勢を正して、


澄川紗季すみかわさきです。1年C組です。入部希望できました。よろしくお願いします」とまるで面接でも受けるかのように挨拶をした。


「じゃあ、中に入って話聞かせてくれるかな?」部室に初の訪問者を招き入れ、ソファーに座るように勧めた。


「何か飲む?結構なんでもあるよ。アルコール飲料は無いけど」和ませようとそんなことを言ったが、なぜか澄川さんは固まっていた。


失敗したか、コミュニケーション能力の低さにつくづく嫌になる。


「あっ、お構いなく」遠慮する澄川さんに冷蔵庫からお茶を出した。


「遠慮せずにどうぞ」と言って自分も対面のソファーにズカッと腰を下ろした。


「ヒっ」なんか小さな声が漏れたが気にしない。


「で、うちの部って何する部活か知ってる?」って聞いたら


「……友達をつくれる部ですよね」って返事が返ってきた解ってたんだ。


「でも、現状、部員、俺しかいないんだよね。友達、俺でいい?」変な質問だ。


「アハハ…」ひきつった笑みを浮かべて澄川さんは言った。


「私も、友達いないんです。だから、この部に入ろうかと思いました」


「俺も友達いないし、見た目が悪いんで誰も近づいてこないんだ。別に取って食おうって訳じゃあないのに、どうして他人ひとは第一印象で判断するんだろう」


「私の直感だけど、ユーリアさんは皆が噂しているような人じゃない気がして…、見た目は確かに怖いですけど、なんとなくだけどいい人だとオモウ……」最後、小さな声で聞き取れなかったけど気持ちは分かった。


「……あ、ありがとう。そんな風に言われたの初めて、この部だって俺が放課後、ウロウロしないようにって学校が用意してくれたようなもんだから、他に入部したいなんてはいないと思ってた。こんな部活だけどいいの?本当に入部するの?まだ入部届けだしてないんだったら、もう少し考えてもいいんだよ」


って、もう入部届けだしました。先生にも仮入部から始めれば、みたいなこと言われたんですけど、自分で決めたことですから」可愛い見た目とはうらはらに芯がしっかりした子なんだなという印象を受けた。


「じゃあ、これからよろしくね澄川紗季さん、『友達部』にようこそ」


、こちらこそよろしくお願いします」にっこり笑い部長という言葉にドキッとした。


美少女の笑顔、最高です。





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