優しい人のおかげで無事についたんですよ、これが

夢見ルカ

優しい人のおかげで無事についたんですよ、これが

 初めに、エッセイを書くにあたって恋について書こうと考えた。恋の経験は恥ばかりだったが、確かにそこに甘酸っぱい感情があった。だから、私は恋について引き出しを恥ずかしくも開けた。

 それは図書委員会最後の年だった。昼休みに図書の先生が言った。

「放課後、本屋さんで君たちがいいと思う本を買ってきてくれるかな」

 三年間で初めての出来事だった。そんなことがあってもいいのかと、当時高校生だった私はわくわくした。なにせ、私は本が好きだ。表紙を開くと自分の知らない世界を覗ける時間が好きだ。

 そう、その時はそれ以外なにも考えていなかった。早く放課後になればいいと授業など話半分に聞いて、待ちに待った放課後。集まったのは先生以外の図書委員5名。

 嬉しいことに仲良し組だ。不安なことなど何もない。一つあるとしたら、指定された本屋さんの場所が全員あやふやだということくらいで。

 もとより先生とは現地集合と告げられていたし、深く考えなかった私たちである。

まぁ、何とかなるだろうと出発したわけだが、果たしてたどり着けたかというと。答えは簡単。なんと、ちゃんと着いた。

 ふんわりとしか知らない場所に人間ってたどり着けるんですよ。驚きじゃありませんか。誰より自分たちが驚いた。が、しかしだ。20分で着く場所までにかかった時間はなんと、2時間。なにをしていたのかというと胸を張って言えることじゃないが、迷子をしていた。分かりきった答えだったかもしれない。

 ただ、その迷子の時間が私にとって青春ともいえる時間だったのだ。

 5人の友人の中に、ひとり男の子がいた。別に好きでもなんでもない友人の。その日までは気の合う友人だと思っていた。

 話を戻して、学校を意気揚々に出た私たちが進んだのは正解のルートだったらしい。まぁ、それも後から知ったことだが。

 おしゃべりをしつつ、車には注意して進むこと15分ほど。はたと道を間違えた気がした。襲い来る不安から、店のある方向に曲がればいつかは着くだろうととりあえずで信号を渡ったのが間違いだった。

 誰も知らない道に出た。引き返せばよかったのに、おしゃべりが盛り上がり、テンションも高々の女子高校生と巻き込まれた男子高校生。止まることなく進んだ。

歩き続けて30分。歩き疲れたとごねるのが一人。誰かというと私だ。まごうことなき我儘を言ったのは私。

 そもそも、道を間違えたかもと言い出したのも何を隠そう私である。みんな優しいから黙ってついて来てくれていた。置いていってもよかったのに。

その後どうなったかというと、自転車を持ってきていた男の子が荷台に座っていいと言ってくれた。実はこの男の子、ずっと押して歩いていたりする。みんなと歩幅を合わせ、邪魔にならないよう、車道側を歩き。

 そして、終いには我儘な女を乗せて歩いてくれると言った。遠慮を知らない私はもちろん荷台に乗った。周りの子もいいんじゃないと言ってくれたのもある。

 荷台の上で知らない道を仲のいい友人たちとおしゃべりしながら進む夕暮れ時に、何気なくみた男の子の顔を、ずっと忘れられなくなるとは思いもしなかった。

 恋の自覚にたどり着くまでは全て蛇足じゃないかと言われたら、元気にそうだね、と答える。思っていい。私がそう思っている。

 もちろん、たどり着いたら先生には心配され、怒られもしたし、帰り道も歩きだったし、なんだったら、恥ずかしいことに叔母にそれを目撃されてもいたけど、私はそのどれもが忘れられないくらい、男の子に身を預けて揺られた時間が楽しかった。

 落ちるほどの衝撃でもなく、世界が色づくわけでもない。それでも、あれは私が恋した瞬間だ。

 私の恋は成就しなかった。だから、これは遠い昔の引き出しにしまった恋の話。

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優しい人のおかげで無事についたんですよ、これが 夢見ルカ @Calendula_28

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