12 雑草?いいえ魅惑の宝石です
国一番の庭師たちによって厳しく管理され、日々手入れを施されているこの御花園において、花木の根元に生い茂る野苺は駆除すべき草扱いらしい。
雑草抜きを命じられた宮女達が野苺を素手で引き抜いては、
『あ、ああっ、自然の恵みである野苺を! そのまま食べても、干しても、煮込んでも美味しい魅惑の宝石を! 頑固にはびこる悪者扱いなさるのはあんまりです……っ』
(野苺は『
『白雪月餅』とは白州の伝統茶菓子だ。
(もちもちとした弾力、ひんやりと心地よい冷たさ、そして優しい甘さの餡に、甘酸っぱいみずみずしい果実……っ。まさに今、口に含んだかのように鮮明に思い出せます)
苺苺は両頬に手をあて、じゅわりと口内に広がる母特製の『白雪月餅』に思考を飛ばす。
脳内では雪のごとく繊細な生地がもちもちと伸びて、のびて、のび〜て……ぱちんっ。
『はっ!』
苺苺は弾かれたかのごとく戻ってきた思考に、頬の緩みを戻す。
(異国から白州にやってきた菓子職人によって根付いたお茶菓子ですので、王都の人々がその存在を知らないのも無理はありません。けれど皆様、野苺は染め物にも最適なのをご存知でしょうか!?)
千切っては投げ、千切っては投げ、と大好物がぞんざいに扱われるさまを青ざめながら眺める。
(よく潰して、丁寧に濾して、色止めの酢を加えたら、布や糸が綺麗な真赭色や桃色に染まります。赤錆のついた鉄を加えた染料で染めますと、あら不思議。紫色に! 女官服や
『伝わってくださいまし、この熱き思い!』
と、熱心に念じながら見つめていた苺苺を、宮女たちはヒソヒソと噂話をしながら顔を顰めて煙たがる。
そんな中、苺苺の頭にはぴこんと名案が閃いた。
『そうですわ! わたくしも木蘭様ぬいぐるみのお衣裳に、野苺で染めた布や糸を使ってみたいです! 木蘭様の瞳の色も鮮やかに表現できそうですし、はぁぁ、きっとかわゆい仕上がりになりますわっ』
頬に手を当てた苺苺の紅珊瑚の瞳がきらりと光る。
推しへの愛がこもった布や糸を使ったら、木蘭に向けられた悪意を祓うのだって、今まで以上に力強くなりそうだ。
(なにより、自らの手で愛情をかけて育てた果実を使って、こだわりの染色を施した布や糸で木蘭様ぬいぐるみを製作できるだなんて、なんという贅沢の極み!)
その工程を想像するだけで、木蘭様への熱き想いが溢れて胸がいっぱいになる。
『このまま雑草として堆肥になるのでしたら、わたくしがすべて根っこから引き抜いたところで、咎められたりはしないはずです。なによりもったいないですしね!』
苺苺はさらなる推し活のため、野苺の苗を貰い受けに行くことを決意する。
そうして、そのままの勢いで雑草抜きの宮女たちのもとへ突撃したのだった。
『すみません。お捨てになるのでしたら、そちらの野苺の苗をいくつかいただけませんか?』
白蛇妃の突然の来訪に、宮女たちは嫌悪を隠さぬ忌避した様子で顔を見合わせた。
そうして、礼も取らずにクスクスと笑い声を響かせる。
『申し訳ございません。下女の私どもに白蛇妃のお手伝いなど勤まりません』
『必要な雑草がございましたら、どうぞお好きに引き抜かれては?』
『雑草が欲しいだなんて、白蛇妃様は変わっておられますね』
彼女たちは今しがた手で握りつぶしている野苺の苗並みに、苺苺をぞんざいに扱った。
草抜きに命じられるのは、様々な雑事や洗濯を司る
妃嬪たちからは『懲罰房』とも呼ばれ、窃盗や悪事を働いた女官が堕とされることもある。
そんな宮女たちが皇太子殿下の妃に対して随分な対応である。これが苺苺でなく他の妃であれば、彼女たちは揃って打ち首になっていてもおかしくない。
けれども変わり者の苺苺は宮女を咎めることもなく、『まあ、そんな。好きに引き抜いていいのですか?』とホクホクの笑顔で道端にしゃがみ込む。
『〝どれがお好きな株かわからないので、好きに選り分けてください〟と言ってくださったのですよね? もとより自分で引っこ抜く予定でしたが、妃であるわたくしが道端にしゃがみやすいようにお言葉を選んでくださるだなんて、皆様がお優しくてよかったです』
『は? いえ、私たちはそんな……』
『ご親切にありがとうございます!』
『いえ、親切ではなく……』
『ではでは、さっそくお言葉に甘えまして。じゃんじゃん行きますよー! はい、じゃーんっじゃんっ』
苺苺は宮女たちの引きまくった視線を物ともせず、散歩用の大袖の
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