欠けて満ちる

東雲そわ

思い出に寂しさが混じるのは、もっと先だと思ってた。

ぐずぐずと泣いてしまった。


前の晩に、押し入れから卒業アルバムを引っ張り出してきて、あの頃を懐かしんでいたのがいけなかったのかもしれない。


一緒に写っている写真があることなんて、完全に忘れてた。


卒業アルバムの中に残っている笑顔と、変わらない笑顔が遺影の中にもあって、それを見た瞬間、不思議とほっとした。


あの頃と変わらず、笑っていられたんだなって。


思い出の中の先生はいつも笑顔で、最後まで笑顔のままだった。





先生はたくさんいるけれど、思い出の中に残っている先生は、一人だけだった。


誰よりも仲が良かったってわけじゃないけど、決して褒められる生徒でもなかったと思うけど、一番楽しかった時期を、一番近くで、それこそ友達みたいな距離で見守ってくれていた大人だったから、一枚絵だったパズルからピースが一つ抜け落ちてしまったような、喪失感が今もまだ少し続いてる。


花を手向けることができたから、最後までちゃんと見送れたから、ありがとうって気持ちを少しでも伝えることができてたらいいんだけど。


感謝の気持ちが足りん!って、怒られるかもしれないけど。


足りない分は、今度みんなで一緒に墓参りに行くときに伝えるから、今は許して欲しい。




楽しかったよ、本当に。


本当に、先生と、みんなで過ごしたあの頃は、楽しかった。

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欠けて満ちる 東雲そわ @sowa3sisu

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