救う者と救われる者
医者と看護師が慌ただしく病室を駆け回ってる。
「お母さん。」
私は必死に呼んだ。
叫んだ。
それで少しでも助かる可能性があるなら。
「…ゅ…ぃ…。」
「お母さん。」
弱々しく握られた手。
「ユイ…。ごめんなさい…。私…あなたに……。」
「お母さん。」
次第に指先から冷たくなっていく手。
「ユイ…。あなたは幸せに生きていくのよ。大丈夫。あなたには素敵な友達がいっぱいできるのだから。」
「何言ってるのお母さん。」
かすれていく声。光を失っていく瞳。
「大好きよ。ユイ。」
「お母さん。ねえお母さん。」
ピーピーと電子的な鐘の音が静かな病室に響きわたる。
「お母さん。起きてよ。ねえお母さん。起きてよ。また眠ったの。お母さん。いい子にしてるから。お母さん。起きて。お母さん…。起きてよ…ねえ…お母さん…。起きてよ!!。」
そこからの記憶はなかった。
後日お父さんがきた。
私はどうしたのだろうか。
たぶん怒ったのだろう。
行き場を失った怒りをお父さんのせいにして、気づつけて。
私悪い子だ。
悪い子だからお母さんは起きないんだ。
ごめんなさいねお母さん。悪い子で。
その罪悪感で僕は覚醒した。
本来前世の覚醒は起きないという。
僕の場合はお母さんを失った悲しみとお父さんを追い詰めた罪悪感で限界になって、僕が目覚めることでなんとか命を繋いだらしい。
「ごめんなさい。あなたに必要のない後悔させて。これじゃ母親失格だね。」
「そんなことない。」
そんなことないんだ。
「確かにそういうこともあった。だけど、お母さんの言う通り。友達もできた。大切な人も。好きな人も。」
「好きな人?。」
少しが恥ずかしい。
恥ずかしいけど全部話した。
「ふふ、素敵な人ね。安心した。ちょっと予想外だったけど。でも好きになったからには大切にしなさいよ。」
「はい。」
汽笛が鳴り響く。
「時間みたいね。」
「そうだね。」
夜明けが始まる。
「もう少しここにいたかった。」
「夢は覚めるもの。大丈夫。まだ朝まで時間があるわ。それまでいっぱい話し合いましょ。」
僕達は汽車に乗り込んで、本来の居場所に帰った。
僕は駅舎に帰ってきた。
お別れの時間だ。
「ユイ。ありがとう。」
「こちらこそありがとう。レイ。」
お互いに抱き合った。
もう忘れない様に。
「最後に渡すものがあった。」
レイはセーラー服の下からひとつのペンダントを取り出して首から解いた。
彗星と星々が描いてあるロケットのペンダント。
「ちょっと後ろ向いてて。」
ペンダントを僕にかける。
「よし。良いわよ。」
ペンダントを手に取って中身を開く。
中には僕とレイの写真。
そしてもうひとつは切符。
ここのやつだ。
行先の書いてない切符。
「じゃあね。ユイ。」
「お母さ―。」
口が口を塞ぎ。
レイが僕を包み込んで。
深いキスをしながら頭を撫でた。
「元気でね。」
「うん…。」
汽笛がなる。
目覚ましの様に。
「妹。一花によろしくね。」
「うん。」
汽車がゆっくり前進する。
「あっ…。」
僕は追いかけた。
「お母さん。僕、幸せに生きるから。」
少しづつ遠ざかっていく。
「お母さんが後悔しない様にいっぱい。」
ホームの限界まできた。
でも最後に言いたかった。
これだけは最後に言いたかった。
「お母さん。」
聞こえなくてもいい。
届かなくてもいい。
でもこれだけは。
「大好き。」
笑顔で見送れたたかな…。
今度はちゃんと私の意思で。
僕はホームを出た。
ちょっと名残惜しいけど。
きっとすぐそばで見持っているから…。
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