第6話

人生はエキサイティング


 ところが、人生とは一寸先もわからないだけにエキサイティングなものである。

 驚いたことに、そのすぐ翌日、言語学校のマネジャーから真奈に電話が入ったのだった。


「ハーイ、マナ、ハウアーユー?」


 マネジャーの声は前日とは対照的に弾んでいた。


「You are not going to believer this! あなたが帰ったその直後に、なんと日本語を習いたいという電話が初めて舞い込んで来たんですよ!信じられますか?まるであなたがこの学校に幸運を運んで来てくれたみたいですよ」


 小さな鉄鋼会社の社長と副社長だった。


 翌週、言語学校のクラスルームに行くと、真奈のアメリカで初の生徒二人がマネジャーと一緒に立っていた。


 背がものすごく高い金髪の社長と黒っぽい毛でハンサムなプレイボーイ風の副社長が彼女の方を真っ直ぐに見ていた。


「ミセス・なんとかが先生だと聞いて、もっとずっと年老いたよぼよぼの日本女性を想像していたよ。こんなに若い子が来るなんて僕は嬉しいな」


 まず先にプレイボーイの方が口を開いた。


 なんと真奈が日本語を教え始めたその頃から、日本の自動車会社とアメリカの自動車会社の合併が相次ぎ、特にデトロイトでは、ビジネスマンは日本語さえやっていれば成功するとまで言われるほどの時ならぬ日本語ブームが到来していた。


地元の大学や高校までも即座に日本語コースを設置し始めた。


 そんな波に乗って、真奈の日本語教室も予想外に大繁盛となった。朝も昼も夜もビルの一室に缶詰めになって日本語を教える毎日が続いた。


 ジョー・グレイという俳優に似た若きエグゼクティブやキャデラックを乗り回す会社社長。奥さんと二人して日本へ行く寸前のビジネスマン。日本人のガールフレンドともっとコミニュケーションしたいという中年男など様々なバックグラウンドのアメリカ人たちが真奈の生徒とあいなった。


 日本語クラスと言っても、アメリカ人が始める場合は、学校で英語の基本を勉強している日本人が英会話の勉強を始めるのとは大違いで、ほとんどが一から始めなければならない。


要するに、先生にとってはとてつもない大仕事が待っているということになる。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る