第11話

 ノブは私の話しを信じた。

 海の星を空が写し取る。


 藍空はやがて無限の闇が広がり、はっきりと丸い月が出る。


「ノブ、髪を解いてくれる?」


 ああ、とノブは縄のように編んだ私の髪をほぐす。


 うねる髪に月明かりが落ちる。闇に浮かぶ漆黒はじわりじわりと七色に変化する。


「これは見事!」


 袷から櫛を出しいつものように髪を梳かせば星の子が跳ねた。


「おお!!」


 星の子は辺りに散らばり海に輝きを散らす。


「これが鮮彩染の材料なのか」

「ええ」

「美しい」


 ノブに褒めてもらえて嬉しいが礼は言わない。

 その代わりノブにお願いをする。


「ねえ」

「なんだ」

「私の髪を切って」


 星の子を見ていたノブの視線が私を差し、なぜ、と強く問う。


「要らないの」

「髪が?」

「ううん、鮮彩染が。もう描かない。描きたくないの。お父さん――マムシの言いなりにはなりたくない」

「その決意は認める。だが髪は帰蝶の一部だろう。本当に良いのか?」


 私は袂にある巾着袋を出し、紐を緩めて中身を出す。昨日の星の子がよたよたと歩き海に落ちていく。


「重たいのよ」


 ――心が。

 

 軽くなりたい。そのためには自分が変わりたい。


 目を閉じる。私の覚悟を感じたのだろうノブの腰にある刀がカチと鳴った。


 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る