【第六章】 美女が風呂に入ったら覗くのがお約束、と相棒が言っていた

第120話


 今日も今日とて、俺は魔王リディアと旅をしている。

 今は次の目的地へ行くために二人で山を登っているところだ。


「やっぱりショーンはメガネをかけていない方が良いのう」


「そうですか?」


 俺はエラと別れる際に、借りていたメガネを返すことにした。

 度が入っていないとはいえ、メガネは安いものではない。

 それにエラとは次にいつ会えるか分からない。

 あの場でメガネを返す以外の選択肢は無かったのだ。


「変装が一つ減っちゃいましたけどね」


「メガネをかけていても、勇者たちには一瞬でバレていたではないか」


「あー、確かに。俺って顔に特徴がある方ではないと思うんですけどね」


「なんだかんだ、一緒に旅をした期間が長かったからじゃろう」


 魔王リディアとのんびりお喋りをしながら歩いていると、不意に後ろから声がかけられた。


「あれ!? ショーンとリディアじゃない!?」


「ヴァネッサさんとドロシーさん!?」


 振り返ると、ヴァネッサとドロシーが、俺たちの後ろから山を登っていた。

 顔で気付かれるどころか、まさか後ろ姿でバレるとは。


「よく俺たちだと分かりましたね」


「幼女と二人旅をしてる男は、ショーンくらいでしょ」


 なるほど。

 俺と魔王リディアが二人で並んでいると、顔を見るまでもなく俺たちだと分かるのか。


 それにしても、こんな場所で知り合いに会うとは思わなかった。


「お二人はどうしてここに?」


 俺の質問に、ヴァネッサとドロシーが顔を見合わせて笑った。


「あたしたち、二人で旅をしてるの。ねー!」


「はい。楽しい二人旅の最中なんです。ねー!」


 二人ともにこにこととても楽しそうだ。


「ほう。ショーンが望んだ通りの結果になったわけじゃな」


 確かに俺は、たった一人で村に取り残されてしまったドロシーを、ヴァネッサが救い出してくれたらいいな、と思っていた。

 そしてその願いは叶ったようだった。


「さすがに二人で旅を始めるとまでは思ってませんでしたけど」


 俺は、ヴァネッサがドロシーを近隣の町へ連れて行って、それで終わりだと思っていた。

 しかし、ドロシーはヴァネッサと一緒に旅をすることにしたらしい。


「ドロシーのおかげで快適な旅なのよ」


「私ではなく、この子たちのおかげですけどね」


 ヴァネッサとドロシーの周りには、たくさんの毒蜂が飛んでいる。

 きっとドロシーがネクロマンサーの能力で操っているのだろう。


 ヴァネッサはお世辞にも強いとは言えないから、ドロシーが旅の仲間になったことは、ヴァネッサにとっても良い結果に繋がったようだ。


「小さいのに偉いですよね、毒蜂さんたちは」


「この毒蜂を操ってるのはドロシーなんだから、ドロシーの手柄よ」


「ふふっ。毒蜂さんをまとっていると、盗賊が近付いて来ませんからね。毒蜂様様です」


 ドロシーが手を伸ばすと、一匹の毒蜂が彼女の手の上に乗った。

 毒蜂の胴体は大きく抉れており、死んでいることは明白だった。


「連れてるのが魔物だと町に入れないもんね。毒蜂なら町に入れるし、本当に便利」


「私としては、もっと強力な仲間が欲しいんですけどね。大蛇とか巨大ガエルとか」


「ドロシーって可愛い顔して、そういう生物が好きよね」


「モフモフ系も好きですよ。熊とか虎とか」


「そこで犬や猫が出てこないところがね」


 どうやらドロシーは、大型の動物に囲まれたいらしい。

 ドロシーの持つネクロマンサーの力は、あの村で俺も見ている。

 あれだけの数の人間を同時に操ることが出来るのなら、大型の動物も問題なく操ることが出来るはずだ。


「あっ、そうだ。あたし、ショーンに言いたいことがあったのよ!」


「へ? 何ですか?」


 急に話が俺に飛んできた。


「二人で一個ずつ持つことにしたものを、他人にあげちゃダメじゃない」


「……ああ、合図玉のことですね」


 ヴァネッサが何のことを言っているのかは、すぐに分かった。

 俺とヴァネッサが一つずつ持つことにした合図玉の件だ。


 ヴァネッサと別れた俺は、合図玉をドロシーに渡した。

 割るとヒーローが助けて来てくれるアイテムだと伝えて。


「そのおかげでヴァネッサちゃんと出会えたので、私はショーンくんに感謝してますよ」


「それはそれ、これはこれよ」


 ヴァネッサは不満げな顔で俺を見つめている。

 そこにドロシーが便乗する。


「私はショーンくんに感謝してますが……確かに二つセットの片方を他人にあげる行為は、軽薄かもしれませんね」


「でしょ!?」


「ワッハッハ。もっと言ってやれ。ショーンは軽薄なサイテー男じゃとのう」


「もう、リディアさんまで」


 さらには魔王リディアまで乗っかってきた。

 三対一だ。

 勝てるわけもない。


 俺はヴァネッサに頭を下げた。


「軽薄なことをしてすみませんでした。あのときはあれが最善だと思って……でもヴァネッサさんからしたら嫌ですよね。片方ずつ持っていようと言って別れたのに」


「分かればいいのよ。ま、本気で怒ってるわけでもないしね」


 不満そうな顔を消したヴァネッサは、代わりに悪戯っ子のような笑みを見せた。


「ということで、罰としてショーンには温泉の見張りをしてほしいの」


「温泉の見張り?」


「いやあ、ものすごく都合の良いところで出会ったわ」


「私たちは温泉へ向かう途中だったんです」


「……温泉?」


 温泉には、勇者パーティーでの旅の最中に入ったことがある。

 入浴中に魔物が襲ってきたため、のんびり浸かることは出来なかったが。

 それでも気持ちが良かったことは覚えている。

 その温泉が、この山にも湧いているのだろうか。


「ふもとの町の人に聞いたのですが、この山には温かいお湯が泉のように湧いている場所があるらしいんです」


「その場所を温泉って呼ぶんだって。あたしも温泉は初体験なんだけど、この山の温泉に浸かると肌がすべすべになるらしいわよ」


 ヴァネッサの言葉を聞いた魔王リディアが目を輝かせた。


「この山の温泉は肌がすべすべになるのか!? ショーンよ、温泉へ行こうではないか!」


「えー。リディアさんまでそんなことを言って。早く次の町に行きましょうよ」


「妾、ショーンはヴァネッサに合図玉のお詫びをするべきだと思うのじゃ」


「本音は?」


「妾も温泉に入りたいのじゃ!」


 魔王リディアは上機嫌で、どんどん山を登って行ってしまった。








――――――――――――――――――――


ここまでお読みいただきありがとうございます。

たくさんのフォローや☆評価、いいねをありがとうございます!嬉しいです!!


今回の話から第六章となります。

短めの章ですが、お楽しみいただけると幸いです。


今後も『勇者パーティーを追放されたけど、最強のラッキーメイカーがいなくて本当に大丈夫?~じゃあ美少女と旅をします~』をよろしくお願いします^^



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