第119話
森を抜けて、次の町へと続く道を進む。
いつもは頼まなくても無駄話をしてくる魔王リディアは、出発から一言も喋っていない。
「リディアさん、不機嫌ですね」
我慢できなくなった俺は、直球でそう言った。
「当然じゃろう。契約書の問題もあったからあの場ではケイティとレイチェルを突き放したが、妾は同種族である魔物が殺されるところを見たいなどとは思ったことがない」
「それは、そうですよね」
俺だって目の前で人間が殺されるところを見たいとは思わない。
もしかして、魔王リディアが観戦を拒んだのもこの辺のことが理由だろうか。
ケイティとレイチェルでは勇者パーティーに勝てないと分かっていたから。
だとしたら、戦闘を見届けたいと駄々をこねたのは、魔王リディアに悪いことをしたのかもしれない。
「……気晴らしに近くのダンジョンにでも潜るかのう」
魔王リディアが、大きく伸びをした。
「ダンジョンは気晴らしで潜るものではないと思います」
「私はここから別の道を行くわ」
とある分かれ道で、エラが唐突に旅の同行終了を告げた。
「ということで、リディアちゃん。尻尾を消してもらえるかしら」
「あ、忘れてました。俺のツノもお願いします」
魔王リディアは頼まれるままに、俺のツノとエラの尻尾を消失させた。
それにしても、あまりにも突然の別れだ。
ケイティとレイチェルの件で、エラも何か思うところがあったのだろうか。
あまり彼女たちと仲良くしているようには見えなかったが……。
それに今日のエラはやけに静かだ。
森へ行く前は「ショーンきゅん」と変な呼び方で俺を呼びながら、変態を炸裂させていたのに。
「俺、エラさんに何かしましたっけ?」
「私が別行動をするのは、ショーンくんのせいじゃないわ」
「それなら、何故ですか?」
「私、使命よりも自分の命の方が大事な性分なのよ」
性分、か。
性(さが)は、どこまでも人生に影響するもののようだ。
「自分の命が一番なのは、みんな同じだと思います」
「あら、そんなこともないわよ。国のために死ぬ人間なんて、山ほどいるんだから」
エラがけろりとした顔で言った。
これに返事をしたのは魔王リディアだ。
「その辺が、魔物と人間の違いかもしれんな」
「そうなんですか?」
「魔物は、社会よりも自分を大事にする。国や使命のために死ぬ魔物など聞いたこともない。エラ、お前は人間よりも魔物の方が合っているのかもしれんぞ。妾の提案をもう一度検討してみるのじゃ」
魔王リディアがエラに向かって目配せをした。
俺の知らない間に、魔王リディアはエラに何かを提案していたらしい。
しかし、エラはすぐに首を振った。
「悪いけど、パスよ。昨日も言ったけど、私は人間の町の美味しい料理で舌が肥えちゃってるからね」
「ふっ、人間の料理が旨いという点には同意じゃな。食に対する探究心は、人間の数少ない美点じゃ」
何が面白いのか、二人は同時にくすくすと笑った。
「なんだか……俺の知らない間に、リディアさんとエラさん、仲良くなってませんか?」
「仲良くなどなっていないのじゃ」
「残念。仲良くないそうよ。私は仲良くなるのもやぶさかではないのだけれど」
「お前、命が大事という割に、そうは思えない言動が多いのう」
魔王リディアがエラの発言を咎める言い方をした。
これにエラは堂々と、自分の悲しい性分を発表した。
「私は『他人に与えられた使命』よりも『自分の命』が大事で、『自分の命』よりも『好奇心』を優先しちゃうの」
「ダメ人間の思考って感じですね」
「あら、ショーンくんは辛辣ね」
「…………?」
先程からエラは「ショーンきゅん」という呼び名で俺のことを呼んでいない。
別にあの呼び方で呼ばれたいわけではないが……どうにも気になってしまった。
それになんだか、言動におかしなところがなく、まるで普通の人みたいだ。
「エラさん、キャラが変わりました?」
「キャラねえ。アイドルにキャラ変する際には、ケイティかレイチェルという名を使おうかしら。彼女たちの本当の名前は分からないしね」
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ここまでお読みいただきありがとうございます。
この話で第五章は終了となります。
なお、この物語は章ごとにテーマがあります。
第一章のテーマは『〇〇〇〇〇は〇がある』
第二章のテーマは『愛と差別』
第三章のテーマは『正義と各々の世界』
第四章のテーマは『仕事とプライベート』
第五章のテーマは『性(さが)とアイドル』
でした。
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引き続き『勇者パーティーを追放されたけど、最強のラッキーメイカーがいなくて本当に大丈夫?~じゃあ美少女と旅をします~』をよろしくお願いいたします。
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